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隻眼龍と赤鬼  作者: みのたかひろ
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エピローグ

(エピローグ)

 時知れず、又場所知れず、其処には照り付ける太陽も無く月も冴えわたる事知らず、荒れ果てた砂交じりの原野には風さえも滅多に通わない。そんな乾ききった場所に、ある日黒い雨が降り出しました。しかしながら、その雫が本当に黒いかと言えば、昼も夜も無い場所で定かでは有りませんでしたし、海も無く川も無い土地に雲が運ばれて来る筈も有り得ませんでしたので、果たしてそれが本当に雨なのかさえ分かりませんでした。

ただ、天空に貼り付いた満天の星空がいつもと違って滲んで見えていました。

長い時間、雨の雫に晒されていましたが、冷たいとは少しも感じませんでした。というより冷たいという感覚さえ思い出せませんでした。瞬く星から垂れ落ちる黒い雫を見上げたまま、体表を滴り落ちる水滴から何かからの意志を感じるだけでした。

そもそも自分はいつから其処に存在し、この場所で何をしているの何者なのか、という事にさえ自分は興味が持てないのでした。考えようとすると虚無の波が押し寄せて、全てが無意味にしか感じられなくなっていきました。

 しかし時々ですが、ある存在について押し返された波を浴びせ掛けられたかのように、考え込む事は有りました。それは見渡す限りの荒れ果てた地の見飽きた筈の景色の中で、突然引きずり込まれ歪む普遍性。

それが地面に突き刺さっているのか、地下より突き上げられたのか、表面を鈍い光沢に覆った様々な面積と角度で立ち並ぶ鉄板のような壁。砂から半分頭を覗かせた片方の眼玉が取れた黒い人形や白骨化した大型動物の角に跨った耳の千切れた兎の人形。天向かって手を翳した石像の欠片や地面に点在する大小様々な石英の欠片。

 その物達が、何故其処に存在しているのか何の為にそのような形態で存在するのか。何故自分が心惹かれるのか。いつまでその存在は約束されているのか。何日も片目の人形に問い掛けた事も有りました。

 

黒い雨は止む様子も無く降り続き、地表に黒い水路を生んで流れを作り始めました。

すると地上に存在して居る物達に変化が現れました。人形の姿は埋没し兎は転落して見えなくなりました。そして地盤の変化で突き立った鉄板が傾き、移動を始めやがて倒れ込んで四方の視界を閉ざされました。

天に瞬く星屑以外、何も見る事が出来なくなりました。乾いた泥に塗れた鉄板が、雨に濡れてその表面を露わにしていきました。

雨垂れが競う様に表面を滑り落ちて行く様に見とれていましたが、ふと其処に今まで見た事の無い物を見つけました。

傾いた流木の幹から芽を出し、黒い花を咲かせた植物でした。黒い墨汁の様な雨の所為か茎も葉も花弁も黒く、寂寞な象徴として存在しているようでした。見詰めるほどにその悲しみが此方にも拡散されてきて、息苦しくなっていきました。

すると、六枚の大きな花弁が閉じられて行くのが見えました。閉じられる動作と共に、その植物は闇に溶けていくように姿を霞め、やがて何も見えなくなってしまいました。


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