魔法訓練
「これで授業は終わり。今日の内容は基礎中の基礎だから完璧にしておくように。でないと次の授業から苦労することになりますよ。あなた達は何と言われていたかは知りませんが復習はどんな場合においても大切なことですからね」
魔法訓練の先生である白髪頭の老人はそう言って笑った。
笑顔でそう言いうことを言われると結構怖いんだけど。
ふ、復習か、確かに覚えるためには必要なんだろうな。別に魔法を覚えられるんだから屋じゃないけど、復習って言われるといやな感じだな。
先生は老人だったけど魔法訓練の授業はけっこう面白かった。特に理論や詠唱を教えるときに様々な失敗談を持ち出して面白可笑しく話してくれたことが分かりやすかった。こういうとこは魔法も数学も変わらないんだな。
最初に白髪のおじいさんが入ってきたときは、まさか耳が遠かったり何言ってんだか分からなかったりするんじゃないだろうかと心配になったっけ。まあ完全に杞憂でおわったからよかった、僕達もちゃんと大切に思われてるみたいだな。
今日の残りの授業もこんな感じで分かりやすかったらよかったけど人生そんなにうまくいかないものだな。
先生のせいなのか授業自体がもともと面白くなかったのか分からないけど魔法訓練より面白い授業はなかった。特に作法の授業と実地訓練は受けたくなくなるような授業だった。
どういうことかというと作法の方は先生が淡々と教科書を読むだけで何も面白味がなかった。実地訓練の方はやたらと声の大きな先生が喋ると言うより叫んでいてうるさすぎた。
生徒がうるさくて授業が成り立たないのは分かるとして先生の声が大きすぎるせいで授業崩壊ってまずいだろ。
作法の時間に習った一般常識なんだけど、なんとこの世界の時間も一年が三六五日だった。さすがに一日が二四時間だったことは知っていたからそっちは驚かなったけど。曜日に関しては七曜ではなく六曜という違いはあったけど大して変わるような気はしなかった。付け加えると今日はグレゴラ歴三七四四年十一月三日にあたるらしい。
他に分かったことは
この国は四季の変化はないが地域によって気候が大きく変わってくることだ。例えば帝国との国境には草原が、北の山の麓は森が広がっていて、北のほうが降水量が多いんだとか。
じゃあ南は乾燥してるかもな。
そして戦闘訓練、これはスキルのお陰か中学、高校と運動部には入ってこなかった僕なのに意外と騎士の動きについていけてしまった。これが一番大変な授業になると思ってけどまさか楽しみになるなんておもってもみなかったな。でも何もしないで手に入れた力を使うのはなんか間違ってる気がする。
でも地球に帰るためには魔王を倒さないといけないわけで今は借り物の力でもいつか自分のものにしていけばいいか。これに頼らないと戦うなんて絶対無理だし。
訓練初日は知らないものばかりを習うせいか時間が経つのが早く気が付いたらもう訓練は終わっていた。集中すると時間がたつのはあっという間ってけどあれ本当だったんだな。
最後の戦闘訓練でかいた汗が気持ち悪かったので何か風呂みたいなものはあるかと騎士に聞くと浴場の用意がされていると教えてもらった。すでに何人かはもう向かったらしく詳しいことはそいつらから聞けと言われた。
さすがにそこまでしていたら人手が足りないんだろうな。
まあ日本の時にだって湯船がない宿もあったりしたんだからそれよりはましだな。
僕は戦闘訓練が同じ授業だった直斗とお風呂に向かうことにした。
実はどうせローマの浴場みたいに大きい浴槽が一つだと思っていたから本当に驚いた。
なんとお風呂が温泉そっくりだった。
おお、ちゃんと水風呂まであるのか。寝湯も見つけたし外には露店風呂っぽい場所も見えるぞ。
周りも竹っぽいので覆ってるしリアルさが半端ない。僕達修学旅行に来てるんだっけ……ってそんなわけないな。
僕は頭を振って落ち着かせる。
危ない危ない、妄想が入り始めてたな。でも今までの勇者に日本人がいたのはこれで決まりだろ、日本のものが多すぎる。
シャワーの代わりには魔力を通すことで水が流れるホースが、シャンプーや石鹸の代わりには魔物からとれた油から作られた石鹸があった。シャワーの方は魔法で、シャンプーや石鹸は魔物の油から作り出してるらしい。
水の奇麗さも気になるけどそれ以上に魔物の油なんて石鹸にして大丈夫なのか?高級らしいけど病気にかかったりしないよな。
「直斗、このお風呂すごいな。誰が作ったんだろう」
「ああ、ちゃんとタイルも正方形で敷き詰められてる。それに外の露天風呂の完成度がすごい。日本庭園の中で風呂に入ってるみたいだった」
いつの間に入ったんだ。と言うかいつも湯船より先に体を洗えって言ってるのに。また湯船を先にしたな。まあいい、僕ももうお風呂入れるし。
肩までつかると暖かさが外側から甚割と内側に伝わっていくのが分かる。
はあ、疲れが抜けてくなぁ、これで明日も頑張れそうだ。なんか視界がぼやけてるな。
目に手をやるとなぜか涙こぼれてきた。
もしかして緊張の糸が切れて安心したからか。
僕はその涙が直斗にばれないように湯船の水面に顔を沈めて他の人に見られる前に誤魔化した。
するとちょうど目線の高さに看板があった。
『水は近くを流れ川の水をろ過してさらに過熱し殺菌お湯にする作業を同時に行って運ばれてきているので安全です。』
安全なのか、飲んでも大丈夫なんだな。ちょっと安心した。
幸い直斗は今日の復習に手いっぱいのようでさっそく魔法を覚えるためか、体を洗いつつ魔法を使ってみていた。遠目からは赤と緑の光が見えたから火魔法と風魔法の練習だろうな。
と言うか、一日でできるようになってもらったら困るから。
僕達が追いつくなんてときなくなるじゃないか。
僕が入ると入れ替わりに数人のグループは外に出て行っていしまい、
でもこう言う隙間時間を使うのは見習うべきなんだろうな。僕も後で聖属性だから何か練習台になりそうなものを探しておこう。使わなくなった装備とかあるとよかったんだけどな。
戦闘訓練は怪我をしにくいように配慮してくれるらしいのであまり練習できないだろう。それに専属の回復士もいるはずだし。
まあこんなとこでいろいろ迷路の簡単だけど丈夫な服、安全で簡単にでもいい練習台になりそうな物を探しておこう。
「そういえば雪人、魔物訓練はどうだった?」
「訓練?ああ、僕にはなんにもないし。雪人、どうだったんだ?」
「ああ、戦闘訓練が二時間だから全部は取れなくてな」
「そうだね……今日は魔物の生態とか攻撃とか習ったよ。実地訓練で困らないように早めに勉強しておくんだって言われた」
「なるほど。まあそうだろうな」
そう言った直斗の横顔が少し寂しそうだった。
ああ、そういや直斗は動物を飼うのが好きだったっけか。帰り道に猫を追いかけたりしてたもんな。
「魔物を飼おうとするな。情が移ったら倒せなくなるだろ」
「分かってはいるんだ、分かってはいるが未知の動物って言うと気になってな」
「実践になったら実物が見れるんだからそれまで待てば」
「せっかくだったら飼いたいのだが」
「お前強調のスキル持ってなかっただろ、絶対許可おりないと思うな」
「まあそうだよな」
そうやって見るからに落ち込んでますってやってもダメなものは変わらないと思う。
その後も直斗とこれからの訓練についてあれこれ話してからお風呂から上がった。
久々の風呂は体の芯まで温まり心地よかった。
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