12人
「えっと、こんにちは」
「こんにちは、君の名前なんだい?」
「僕は雪人、榊原雪人です」
「雪人ね。まあ座りなよ」
目の前が雪の降る雪原から木で作られた小屋の中に変わった。部屋は広くはないが暖炉と椅子があり、机の上には食器が一人分用意されていた。
さっき王女がやったみたいに転移したのか?
でも魔法陣は出てこなかったな。
僕が椅子に腰かけるとその青年は紅茶の入ったコップを僕に手渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「それで君はここに秘匿中に隠されたスキルが知りたくて来た、であってるかな」
「そうです」
「悪いけどそれはできない。君にスキルのことを教えられるのはスキルを開放するとき、つまりスキルに耐えられるようになったらかな」
確かに僕達を守るためのものを逆に教えちゃダメなんだ。
スキルの一部だけでも知る方法はないんだろうか。
「まあそう思うよね、じゃあこれがヒントだ」
まるで僕の心を読んだかのようにスエリアは僕に緑の表紙の本を見せた。見た目はただの本でしかなく、おかしな部分と言ったら表紙に題名が書かれていないことぐらいだった。
んん?普通の本にしか見えないんだけど。。
「僕の心が読めるんですか」
「いいや、読めはしないよ。何となく伝わってくるだけだ。僕は君のスキルの中に閉じ込められているんだから」
「閉じ込められてるって一体――うっ」
突然頭が痛み僕はカップを取り落としてしまった。コップの中の紅茶が机の上を流れる。。頭痛はさらにひどくなり僕は椅子から落ちてしゃがみ込み頭を押さえた。
「話過ぎたか。悪かったね、君はもう戻った方がいい。それと、僕のことは本当に信用できる人以外には秘密にしてね。それはっき」
突然どこからともなく小さな羊が現れた。
なんで羊がこんなところにそう思っていると羊は僕の体によじ登り始めた。
なんで羊が?と言うか僕幻覚を見るほど疲れてたっけか。
消えていく意識の中で僕はそう思った。
目を開けると眼前には木の机があった。ぶつかると思った寸前で僕の体が誰かに支えられたお陰で激突するのを回避できた。
「大丈夫か」
「あ、ありがとうございます」
「ああ、少し休んでおけ」
騎士が助けてくれたらしい。
そのまま騎士は僕の体を起こし、再びソファーに座らせてくれた。
多分秘匿中に隠されたスキルのイメージを知ったことで体に負担がかかったんだな。粉々にならずに済んでよかった。しかしあの精霊は一体何がしたかったんだろう。スキルの記録者とか、閉じ勧められたとか言ってけど……。
考えて見ようとすると少し頭が痛んだ。
やっぱりまだダメか。今日はやめておいた方がいいかもな。
少しすると他の人も終わったようで目をつぶっているものは誰もいなかった。だが、程度の差はあるものの全員疲れたらしくソファーにもたれかかったりしていた。
「みんな上手くいったみたいでよかった。せっかくだから情報交換をしないか」
会長の提案に僕らは声や頭を横に振って賛成だと伝えた。
「実を言うと僕はこの世界の人をまだ信用仕切れていない。と言うのは、僕達は存在自体が珍しいからだ」
「研究材料になるかもしれないってことか?」
「その通りだよ、中森君」
確かにその通りだ。僕達は本来いないはずの人間だからな。。でもその言い方はもう少し何とかならなかったのかな。日室さんなんか見るからにおびえちゃってるし。
「それは置いておいて、お互いを知るため自己紹介をしないか。僕は空山蒼二。趣味はトライアスロンだから持久力は自信がある。さっきは光精霊のロカに会って剣を見せられて、その後ライオンに追われた」
ライオン……よく平気そうな顔してられるな。僕なら今頃足が震えて立てない気がする。
「じゃあ次は僕が、名前は光川朝弥。日本では人形が好きでマリオネットを使う練習をしてた。さっきは木精霊のカリコーンというのがマリオネットを見せてきた。それから国には言うなって言われて山羊に囲まれて目が覚めた」
「霧立暁子、趣味とかない。風精霊のコルカってやつに虹を見せられて追いかけられた。それで気づいたらこの場で目が覚めた」
霧立さんは何が気に食わないのか靴で床を叩いてコツコツと音を立てていた。
あの人なんか機嫌悪いんだけど、どんなスキルなのか気にはなるけど、なるべく関わらないようにしよう。君子危うきに近寄らずだ。
「私はC 組の日室涼火です。さっきは風精霊のミニジェーアという人が現れて急に分身しました。でも見たのはそれだけで、皆さんみたいに何かに追いかけられたりはしていません」
「大丈夫だって、涼火。私もそんなもんだから。えっと私は霞桜裕子っていいます。特技は料理かな。さっきは木精霊のサキヤって人に振り子時計を見せられました。そのあとは私もよく覚えてません」
正直な奴だな霞桜さんは、でも全員に動物が出てくるわけでもないんだ。この違いはなんなんだ?。
そんな調子で自己紹介は進んでいき、名前の分からなかった人のこともある程度知ることができた。
さっきの研究材料発言をしたメガネは中森忠厚は炎精霊のコピオンに会い、紫色の小瓶を見せたそうだ、これは間違いなく毒に関する何かだろう。
それから霧立によくついて周っている秋鹿紅葉は僕と同じ水精霊のクエリスに会い、ゴブレットを見せられたと言っていた。きっとこいつの家も金持ちなんだろう。普通はゴブレットなんて言葉知らないし。
涼火の双子の姉涼の友達だという古敷桃華も水精霊のピースに会いカップルの写真を見せられたらしい。
何も見せられないのも不思議だけどこっちもこっちで不思議だな。
柔道部だという吉比則堅は土精霊のスタウラに会い、金色の角を見せられたそうだ。
多分二人とも見た目が似ていたんじゃないかな。その場面を見てみたかったな。
隆吾は闇精霊のリスアジサに会い弓矢を見せられたそうだ。
隆吾って弓を打てるのか?筋力はありそうだけどあらぬ方向へ飛んでいきそうで怖いんだけど。弓を普通に打てるようになってから秘匿中には消えてくれないかな。
ずっと部屋の隅で座っている長髪の黒堀裁賀は火精霊のラブライに会い上皿天秤を見せられたそうだ。こいつのした話が一番面白くて目が覚める直前にその天秤が巨大化し、その上にのせられたらしい。
自己紹介で分かったことは全員が別の変な空間でそれぞれ精霊に会い、何かしらを見せられて帰ってくる直前に変な光景を見たり変な体験をしていることだ。
きっとこれらは秘匿中に関係しているのか別世界から来たことか、その両方のどれかが原因なんだろう。
ただでさえわけの分からないことになっているのに、それに追い打ちをかけるような真似をするなんて僕達は神から嫌われでもしたんだろうか。心当たりは全くないけど。
「それとみんなはこのことは国の人間に言うなって言われなかったか?僕は会って最初にそう言われたんだけど」
「私も言われました」
「僕も言われたな」
そういや僕も最後の最後にそんなこと言われたな。なんか羊と頭痛のせいですっかり忘れてたけど。
「やっぱりそうか、じゃあこのことは基本的にここだけの話にしよう。信用してないわけではないけど、もし万が一があった時に困るのは僕達だから気をつけよう。もちろん信用できると確信を持てる人にも話していいけど、その場合は自分のことだけにしよう」
空山の提案に反対する理由もなく全員一致でこれを秘密にすることにした。
まあ、それが自分達の身を守ることになる可能性が高いから反対するものなんて出るはずがないんだけど、
それにしてもあの精霊は一体何のためにあそこにいたんだろう。教えてくれることなんてほとんどないし、いつか本当に分かるといいんだけど。。
これからしばらく頻度を増やしていこうと思います。
良かったらこれからもどうぞよろしくお願いします。