精霊
「やったー。火と風と水との三つも属性があるぞ」
「次の人どうぞ」
「お願いします。えっと狩人で土魔法と弓術、五感強化それから足跡看破です」
「分かりました、属性は無と土ですね。属性は努力次第で増えますのであまり悲観しないでください」
「ありがとうございます」
三人の白服の前に僕達は列を作り、職業やスキルを言って、適正属性を教えてもらっている。考えれば分かりそうなものだけど、時々スキルにも現れない属性があるとかでそれを見てくれているらしい。
元々はステータスの書かれた紙を見られるとこだったらしいんだけど、それは空山が辞めさせてくれたとか。
さすがは生徒会ってとこか。
神殿の神官さんによるとこの世界には六つの基本属性と二つの特殊属性、そして六つの上位属性があるそうだ。基本属性は火、土、水、風、聖、無である。そして、それらの上位属性が炎、大地、氷、雷、空、時空である。。特殊は光と闇で扱える人数も少なく重宝されているらしい。
ちなみに魔王は闇と六つの上位属性全てが使えるそうだ。さすが魔王といったところか。
まあ人間でもそんな奴がいるんだけど。
僕は前で白服の人と話している直軌を見た。
「職業賢者、スキルは火と土、水、風、聖、無、光に闇の魔法、ユニークの方は記憶の図書館、隼の目」
「は?えっと、もう一度言ってください」
「職業は賢者、スキルは基本と特殊属性の魔法全てだ」
「わ、分かりました。すいません」
やっぱり全属性は珍しいんだな。
いくら基本属性だからと言っても全ての属性を使えるような奴は珍しいんだろうな。
そうこうしているうちに白服の人の用意が整い僕の順番が来た。
「職業は聖騎士でスキルは盾術、剣術、聖魔法です。あと、ユニークスキルは秘匿中ってなってます」
「属性は聖のみですね。秘匿中をお持ちの方はあちらの騎士について行ってください」
指さされた方向には別の今度は執事服を着た人が立っていた。
騎士じゃなくて執事の間違えなんじゃないか?
「すいません。あの人にこっちに行けって言われたんですけど」
「秘匿中スキル持ちの方ですね。こちらへどうぞ」
男は僕を近くの木の扉まで連れてきた。
男は扉まで来ると脇にずれ、扉を潜るように促した。
案内はここまでってことか。でもなんでわざわざ隔離なんてするんだ?
部屋は思ったより普通で中央にはには大きな木の机が一つあった。壁は花柄の壁紙が張られ、窓からは湖と森が見えた。そして部屋にはすでに七人の生徒がいて、それぞれ好きなように過ごしていた。
えっと隆吾と空山君は知ってるけどあとは見たことあるくらい、あの人は確か風紀委員の人だな。この前の集会の時に全校生徒に向けたスピーチをしてたはず。
すぐ気が付いた隆吾が話しかけてきた。
「奇遇だな雪人。そういやユニークスキルが秘匿中だって言ってたっけか」
「隆吾は何も言ってなかったよな」
「ああ、だけどよく見たらユニークスキルの二つ目が秘匿中になってた」
なるほど、抜けてるところが隆吾らしいな。
でもそんな大事なことくらいちゃんと覚えておけよ。
みんな自分のことに忙しいようで、さっきの茶色の紙を見たりしていた。その中で空山だけがただ椅子に座って周りを見るだけだった。
この生徒会さんは何してんだろ。隆吾だって僕が来たときはスキルを見てたのに気にならないのか。僕はとっても気になってるんだけど。
―ガチャ
「「失礼しまーす」」
「お邪魔しまーす」
声とともに扉の開く音がして三人の少女と一人の少年が入ってきた。一人は隣のクラスの霧立暁子。家が大会社だからか女王様みたいな性格をしている、だからだろう服装が1人だけ私服だった。
少年の方は霧立の許嫁で光川朝弥。これまた大会社のお坊ちゃんだがこちらはまともでいつも恋人の霧立が起こした問題の後始末をしているのを見かける苦労人である。
かわいそうだよ、本当に。
三人目はうちのクラスの学級委員をしていて城外組のリーダーの妹で日室涼火。性格は明るく誰とでもすぐ親しくなり、動物にも好かれているらしい。
あんまり面識ないから詳しいことは知らないけど。
四人目はクラスメイントの霞桜裕子。彼女の家は料理屋らしく料理がとっても上手だ。いつも日室と一緒にいるところをよく見る。多分仲がいいんだろうな。
光川と霧立は並んで近くのソファーに座り、日室たちは僕らの向かいに座った。
何か関係があるかと思ったけど違ったか。さっきのは偶然部屋に入るタイミングが被っただけみたいだ。
僕が彼らを観察しながらそんなことを考えていると隆吾が僕を肘で軽くつついてきた。
どうしたんだよ?……あ、そう言えばこいつは中学が日室さんと同じで中二の時から好きなんだっけか。からかったりしたらどうなるか分からないから気にしないようにしてたんだった。
どうしようかと考えているとまた扉が開き、今度は近衛騎士数名を連れた女王が入ってきた彼らは手に小さな箱大事そうに持っていた。
「十二人いると聞いていますが、全員いますか?」
王女の問いに僕らはそれぞれ自分たちの人数を数えて全員いることを確認してからうなずいた。
「それでは説明をします。まず知っておいていただきたいのは今回の召喚は初めてではなく五回目です。そしてそ先代勇者がもたらされたものが先ほど見せたステータスシートであり、スキル秘匿中です」
「じゃあ何か、この秘匿中は俺たちのスキルだってことなのか?」
隆吾がみんなが抱いているだろう質問をした。
でもそうすると十一人も同じユニークスキルを持った奴がいることになるけど、それって固有って言うのか?
「いえ、あなた方のスキルではなく一度目の召喚の時に現れた賢者様のもので、彼が姿を消してからも効果が残り続けている特別なスキルです。そのスキルは身に宿した力が強すぎる時に秘匿中は効果を表し、所有者の保護を行います。そして所有者の保護が必要ないくらい強くなると自動で解除されてスキルが使えるようになります」
「ということはもしこれが無かったら俺たちは死んでいたのですか?」
「そうですね、その可能性も大きかったでしょう。あくまで可能性があった、であって絶対ではないです。ですが、勇者の中には力が強すぎたために足が動かなくなったものや、頭の機能が著しく損なわれたものも居たそうです」
植物人間か、確かに死よりも恐ろしいな。せっかく面白そうな魔法も動かせないなんて絶対やだ。これはもう賢者様に感謝しないとだ。
僕は心の中でもこのスキルを使ってくれた賢者に手を合わせて感謝した。
「それと秘匿中でもスキルのイメージだけなら知る方法はありますがやってみますか?」
「はい、僕はやってみたいです」
空山は即答し、近くの騎士から虹色の玉を受け取っていた。それに続くように光川が手を挙げ、それに続いて僕と隆吾も手を挙げた。
結局部屋にいた全員が試すことを希望した。
玉は遠目で見ると金属のように見えたが持って見ると重くなく感触はガラスのようだった。内側ではイルミネーションのように光が虹色に輝いていた。
「では玉を持ったら額に押し付けて玉が体に入っていくイメージをして下さい」
よし、やってみるか。えっとこれを額にあてて体が入っていくイメージをするっと。
……あ、なんか見えてきた。って寒いな。なんでここ雪が降ってるんだしかも一面真っ白じゃないか。これって映像じゃ……そういやあの女王はイメージとしか言ってなかったな。
「大丈夫か君?」
「はい、それよりここは――」
呆然としていた僕に声をかけてきたのは見知らぬローブ姿でフードを被った青年だった。髪は金髪で手には緑の表紙の本を片手に立っていた。
「あのあなたは一体誰ですか?」
「それはもっともな質問だがその前に自己紹介をしよう。僕は水精霊のスエリアだ。このスキルの記録者を務めている、よろしく」
青年はそういって手を差し出してきた。