転移
「……きと、雪人。さっさと起きなさい」
「何のんきに寝てんだ、馬鹿雪人。さっさと起きろ」
「全くなんなんだふたりとも、まだチャイムなってないぞ」
「寝ボケてる場合じゃないでしょ、あれが見えないの」
おかしい、まだ寝られるはずなんだけど。というか変な夢だったな、真っ赤な光に包まれる夢なんて何の暗示があるんだろう。
目を開けると視界に映りこんできたのはいつもの教室の光景…………ではなくそこら中に立っている同級生と見慣れない黒い壁と床だった。
あれ、うちの学校ってこんなに黒かったっけ、もっと違う色だったはずだけど。
「なあ、うちの学校ってこんなに黒かったっけ」
「いいや、床はフローリングで壁は白かった。つまりここは学校じゃないってことだ」
「そんなことよりほら、あっちを見てみなさいよ」
指さされた方にはこれまた異質の姿人がいた。
一人は豪華に装飾されたドレスに身を包んだ少女とその後ろに甲冑を着た男が腕をくんで立っていた。少女は金髪に青い目というまさに外人みたいな容姿だった。
思わず目をこすって見たが残念ながらその姿は消えない。
嘘だ、本物なのか?
「それでは自己紹介をさせていただきます。私はこのジクフリット王国の第二王女で、クリエッタ・ガライ・ミルカイナ・キリ―クスライアと申します。今回あなた方を異世界より召喚させていただきました」
ああ、幻聴が……ってさすがに認めるしかないか。
えーっと、どういうことなんだ。この少女は王女でこの場所は名前も聞いたことのない、そして僕らを召喚したということであってるのか。
いやいや、最後のはやっぱり間違いだろ。一体どこのラノベの設定なんだろう、それともこの子はこんな若いうちから厨二病という重い病にかかっているのか。
周りの反応もおんなじ感じで戸惑ったり、ポカンとしてその場に立ち尽くすものばかりで何を言っているんだといいたそうな顔だった。
「やはり信じて頂けませんか、ですがこれは本当なのです。今からそれを証明して見せましょう。クーフリアやりなさい」
「はい、お任せ下さい。勇者の方々よ、今から証拠をお見せしますので私から離れてください。でないと怪我をする恐れがありますので」
「クーフリア、自己紹介をしなさい」
「っと、申し遅れました。私は近衛騎士団団長のクーフリア・フォン・ギルガートと申します」
生徒達がその甲冑男から10メートルほど離れると彼は剣を掲げるように胸の前で構えた。とたん背中から風が吹くように体を押させる感じがして倒れそうになった。
危なっ、倒れるとこだったじゃないか。
「世界に属する魔よ盟約に従いてその力を開放せよ。天から授かりし浄化の炎よ我が剣に宿れ ファイヤーソード」
男が言い終えると丸い光の円が剣を囲み、そして剣を赤い光と炎が包んだ。炎は光だけでなく高温も放っていて、離れた位置にいる僕も暑く感じる程だった。
このおじさんも厨二病かと思ったらまさか剣から炎が出るなんて……でも手品って可能性もあり得そうだけど。……いや、ないか。それならあの剣の一番近くにいるおじさん……騎士団長だっけか、があんなに涼しそうな顔しているはずがないし。
「これで信じていただけたでしょうか。この世界にはあなた方の世界にはないこのような力があります。例えばこのクーフリアの剣のようにです」
「ああ、納得した。でも、今まで戦いなんかしたことないからやり方とか知らないことだらけだぞ」
どこからか声が上がった。
「それはもちろん承知しています。あなた方の態度や体つきは戦いを知っているもののものではありませんから。でも安心して下さい、強制はしません。皆さんが私たちに協力してくれるかどうかは自分で決めてください」
王女がそういったとたん生徒たちは周りの友達と話し始た。
「おまえ、どうする。俺は残ろうかと思うんだけど」
「わけ分かんない、どうなってるの」
「戦うとかいやだよそんなの」
「やったー、異世界だー」
「チートをもられたりするのかな」
泣き出すもの、喜ぶもの、怒るものが混在し、その場はまるで動物園のようなありさまだった。
さて、僕はどうしよう。戦うのはあんまり好きじゃないけど何も分からない世界でほっぽり出されるのはもっとごめんだな。そうだ、みんなの意見も聞いてみるか。
「なあ直斗と香代は――」
「はい、榊原君。これ取って後ろに回して」
「ん、ああ分かった」
しゃべろうとした時ちょうど前の女子から紙の束が回ってきた。それはA4くらいのおおきさの茶色の紙と白の紙だった。
なんだこの紙は、表にも裏にも何も書いてないぞ。表面はざらざらしてるし書きにくそうだな。こんな使いづらそうな紙しかないのかこの世界には。
「この紙には特殊な魔法陣が描かれた特別なものです。替えがないので注意してください。それでは紙を受け取った方は自分の一部を茶色の紙に乗せてステータスディスプレイと唱えてください」
とりあえず試してみようと僕は髪の毛を一本抜いて言われたとおりに紙に置いて唱えてみた。
すると茶色の紙に白い線で描かれた模様が浮かび上がりまるで召喚の時のような光を放った。その光はすぐに消え、代わりに紙には文字が書かれていた。
名前 :榊原 雪人
種族 :人間
レベル:1
職業 :聖騎士
体力 :300
魔力 :180
筋力 :30
防御 :45
敏捷 :10
魔攻 :5
精神力:50
スキル:盾術 練度0
槍術 練度0
聖魔法 練度0 第0等位
ユニークスキル:秘匿中
なんだこれ、ゲームの画面みたいだけど文字が読めないぞ。
「茶色の紙にあなた方のステータスが表示されたと思います。ただ文字が読めないと思うので近くの騎士に翻訳の魔法をかけてもらって白い紙の説明を見てください」
ああ、ということは今まで彼女たちは翻訳の魔法を使ってなかったのか?それとも違う魔法なのか?考えても全然分からないな。魔法なんて今日初めて知ったんだから。
「すいませーん。翻訳の魔法かけて下さい」
「はい、分かりました。世界を越えて言葉をつなげトランスレートはいこれで読めるようになったはずですよ」
「ありがとうございます」
なになに、職業はその人が望む姿を映し出すだって。たしかに聖騎士は人の役に立てそうだ。でも痛いのは嫌いなんだけど。もしかして防御が高いのはそれか?
レベルは経験値というものを溜めると上がる、で経験値は生き物を倒すことで得られる。レベルが上がるとできることは増えていくのか。それとこの世界にいる魔物や生き物にもレベルがあるみたいだ。これは結構重要なんだな。
体力はその生き物の耐久性ってことみたいだな。攻撃を受けると減っていき、0になってもほっておくと死んでしまうのか。いきなり死なないのはありがたいな。レベル1の戦士職で200程度だから騎士だけあってここは高めだな。
魔力はこの世界で魔力を使うために必要なものらしい。一応体力で代用できたりするようだがその変換効率はとっても悪い。疲れた時も減って行き、0になると倦怠感と疲労に襲われる。レベル1の魔法職で100程度だから意外と魔力は高いな。
筋力はそのまま筋肉の出せる力のことで、防御は打たれず良さのこと、敏捷は足の速さのこと。この三つはイメージしやすいな、基本は体力の結果みたいなもんだろう。レベル1の戦士職はどれも15程度だから結構高いな、防御は3倍もあるし。
魔攻は攻撃魔法の威力に影響してくるもので大きいほど強い攻撃が放てる。レベル1の魔法職で15程度だから聖騎士は魔法攻撃は苦手みたいだな。
精神力は異常状態などの弱体化に対抗するもので高いと異常状態の効果が弱くなったり効かなくなったりするのか。レベル1の人間は15程度でかなり高めのようだ。
スキルはレベルアップで覚えたり修練を積んだり物によっては魔法書などを読むだけでで得ることができるのか。横の練度を上げて行くとそのスキルが強くなって、一定以上になると進化できるようになるんだな。レベルとかがあるわけじゃないんだな。魔法の横の第0等位というのは放てる魔法の強さで15まであるらしい。
ユニークスキルは先天的にしか発遇せず、勇者はユニークスキルを必ず1〜2個所持している。人によっては発遇するまで時間がかかったりするし、スキル自体も使っていくと進化するらしい。でも何この秘匿中って説明ない。他人に対してはまだしも本人にも秘匿ってわけ分からないんだけど。
紙に書いてあることはそれで終わりだった。
紙から目を上げると直斗は読み終わったようで紙からは目を離して考え事をしている風だった。香代はまだその横で紙を見つめていた。
投稿が不定期になりがちですが一週間最低一話守っていく予定なのでよろしくお願いし
ます。どうやら投稿寸前で寝てしまったらしく遅れてすいません。