プロローグ
県立柳丘高校,県内でも偏差値が高め高校で、側を川の流れる丘の上に立っている。
ここはその中の1年C組の教室である。
キーンコーンカーンコーン
「はあ、やっと休み時間か」
やっと、終わった。もう何言ってるか分からなくて大変だった。
僕は両手を組んで前に突き出した。
教室ではあちらこちらでご飯を食べ始めていた。
昼休みになって少し騒がしくなった教室から目を背け、窓の外を見た。空は雲ひとつない良い天気だった。
こんな日は一日中体育にしたらいいのに。ああ、木陰で読書もいいかとにかくこんな日は室内にいない方がいいよ。
そうそう、僕は榊原雪人。この前十六歳になったばかりの高校生だ。成績も運動も特に突出してできるものはない。背の高さはクラスの真ん中。そんな平凡を絵に描いたような人間だ。趣味は特にない、将来は人の役に立てればいいと何となく思っている。友人達の言わせると頑固だったり変に優しいと言われたりすることもあるらしい。僕としてはそんな自覚は全くないんだけど。
さて、僕もお昼にするか。
僕は鞄から弁当箱を出して広げた。
「いただきます」
おお、今日は焼き鮭がおかずなのか。痛っ
「雪人、お前また寝ていたな」
後ろを振り向くと眼鏡の生徒が一人手に下敷きをもって立っていた。
「ああ直斗か、先生がまた睡眠魔法の呪文唱えだしたからな。というわけで直斗、頼む帰る前にノート貸してくれ」
僕を叩いたこの眼鏡の男北岡直斗。
成績優秀な幼馴染で秀才という部類に入る人間だ。
頭がよく一をきいて十を知るということができるため授業を聞いて本を一度読むだけで大抵の勉強はできる。おかげで塾にも行っていないのにいつも成績はとってもいい。
ただ問題は物言いにとげがあること協調性がないことだ。クラスではその性格から好かれてはいないが、本当はいい奴だ。
ちなみに朝川香代という彼女がいる。こっちは後で説明しよう。
「またか、少しは眠らないようにする努力をしたらどうだ。それに魔法なんて存在しないんだ、その言い方もやめたらどうだ。とりあえず今日は貸してやるけど次はないからな。」
「分かってるよ、サンキュー」
「ならいい、ほらよ。終わったら机に置いておいてくれ」
「了解」
いやー、助かった。これでノートも手に入れたし後は食べて写すだけだ。
僕は急いで弁当をかきこんで、ノートを写し始めた。
書いてあることがところどころ意味不明だけど、とにかく今は写しておこう。考えるだけなら後ででもできる、それに昼休み中に仕上げないと放課後遊べなくなってしまうからな。
僕が忙しくシャーペンを走らせていると誰かが僕を呼ぶ声が聞こえた気がした。
こんな忙しい時に一体誰だ、邪魔するなよ。
しばらく無視し続けているとその声は止み、代わりに急に後ろから首に腕を回され後ろに引っ張られた。
「雪人―、無視するなよ」
「隆伍か、ってギブッギブッ……ケホケホッ、何の用だ今ノート写すのに忙しいんだけど」
「また寝たのか、今度は何の教科だ?」
「さっきの古典だよ」
「じゃあ俺にも貸してくれよ。昨日親父と喧嘩したから寝不足でな」
「珍しいこともあるんだね。お前みたいな筋肉馬鹿が疲れるなんて」
「お前は人を一体何だと思っているんだ、この野郎」
この明るい茶髪の男の名は不動隆吾。
野球が得意でこの学校にもスポーツ推薦で受かっている。頭はいい方ではなく僕と五分五分と言ったところだろうか。
通称脳筋ゴ……じゃなくて筋肉マンである。
中学の頃は荒れていたらしく、同じ中学の奴からは徹底的に避けられている。そんなわけでクラスの中に親しく話している人は少ないが、本人はそんなに悩んでいない……つまるところお気楽なやつってことだ。
「うん、脳みそまで筋肉で構成され……イタイッイタイッ」
「そんな人間がいてたまるか。っと、そう。キャッチボールに誘いに来たんだった。次の体育は野球だろ」
「もちろん、行くよ。でもこれだけ書かせて」
「ああ、じゃあ外で待ってる。ところで直斗はどこだ、あいつも誘おうと思ったんだが」
隆吾は教室を見渡して言った。
確かに直斗の姿は教室になかったが大方予想がつく。多分香代ところにでも行ってるんだろう。
「まあいつものとこだろうから戻ってきたら言っておく」
「頼んだぞ、俺は下で待ってるから」
僕は急いでノートを写し終えた。
やれやれ、これでやっと遊びに行ける。隆吾を待たせていることだし早く行ってやらなきゃ。。
僕は外に出ようと扉の取っ手に手をかけて開けようとした。
――その瞬間急に床が輝いた。
「うわっ。何だ?」
とっさに腕で目を覆ったおかげで光を直接見ずに済んだが光は少ししても消えなかった。
「何だよこれ」
「何にも見えねーぞ」
「み、みんないるよね」
「私はここだよ」
教室にいた多くの生徒も同じような状況らしくあちこちから戸惑いの声が上がっている。どうやらこの光は扉に仕掛けられたいたずらではないみたいだ。
しばらくして光は収まった。あの光は本当に明かりを与えるだけだったようで怪我したり気分が悪くなっているような人はいなさそうだった。もちろんあまりの眩しさに立ちくらみを起こしたりしていることを除いてだけど。
外に出ようともう一度扉に手をかけて気がついた。
床にはペンキで書かれたような赤い線が描かれていた。
おいおい、一体こんな手の込んだ仕掛け誰が作ったんだよ。それに気になるのはどうやってこの線を隠してたかだな。方法が思いつかない。
「ねえ、この線何かしら」
「うーん、血とか……」
「う、嘘だよね」
「冗談よ冗談。でも地に見えない?」
僕はいつも違う光景に戸惑うクラスメイトたちを尻目に廊下に出た。
赤い線は外にも書かれていた。廊下にいる生徒たちの多くは立ち止まって友達とこの魔法陣の話をしていた。中には線に触っている者や雑巾がけをしている者までいた。
俺はすこし急いで階段へと向かった。階段にたどり着くと、そこでは多くの生徒が騒いでいるのが分かった。
何があったかは知らないが生徒に嫌われているこの急な階段で騒ぎが起こるなんてしょっちゅうだし、別の方から行くか。
あ、あれ直斗じゃん。あいつ何やってんだ❔
別の会談へ行こうと向きを変えると遠くの離れた所にある壁にもたれかかっている隆吾と直斗がいた。
「直斗。あれは一体何があったんだ?」
僕の声に気がついた直斗が手招きをした。僕はちょっと小走りになって2人のそばに近寄った。
「ああ、雪人か。実はあそこの階段が使えなくなって――」
「だーれだ」
話を遮って急にあ少女が直斗の目をふさいだ。
彼女は朝川香代。僕のもう1人の幼馴染で直斗の彼女だ。家が空手の道場で小さい頃から習っていて今では大人にも勝てるようになったらしい。
性格は明るくクラスでも人気がある。
「……香代だな。こんな時に何するんだ」
「直くんの緊張を和らげようと思ったんだけど、どうかな?」
「確かに緊張は和らいだ。だけどな、今は緊張しているくらいの方がよかったんだ。いいか、この状況は普通じゃないんだだからいつもより感覚が鋭くなる方が……」
香代が喋り始めた直斗から見えないようこっそり目で助けを求めて来た。自分で作り出した状況だろうに、もう少し考えてから動けばいいじゃないか。
僕と隆吾は顔を見合わせて苦笑した。
まったく、この2人はいつでも変わらないな。
苦笑してから気がついたが僕は少しホッとしていた。僕もきっとよく分からない現状に戸惑っていたんだろうな。自分では気にしていないつもりだったけど、意外と分からないものなんだ。
そろそろ助けてやる、か……なんだこれ?
僕が直斗に声をかけようとしたその時、急に足元の魔方陣が赤く輝きだした。
そしてさっきのように視界が光に覆われた。
今度は目を塞ぐのが遅れてしまったけど光が赤かったからか目にはそれほどダメージがなかった。もちろん見ていたら目が悪くなりそうだったから閉じたけど。
周りからは「またかよー」という叫び声が上がり、遠くでは体育の鮫山の「早くこれを止めろ」という怒鳴り声が聞こえてくる。
こんな時でも怒鳴るなんてさすが鮫山だ。
目を覆った手の隙間から少しだけ周りの様子を見るとちょうど直斗が香代をかばっているのが見えた。
そして、それを見た瞬間僕の意識はそこで閉じられた。
初めての投稿なので読みにくいかもしれませんがどうかよろしくお願いします。
個人的には本番が始まるのはだいぶ先の予定なのでり面白くなくてもせめて10話ほどまでは読んでいただきたいです。
感想お待ちしています。
ちなみに投稿は一週間一話を厳守するつもりです。