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005 No.3510の追加協力


「とりあえず……ぼくの部屋はメモしておいた方がいいよね」


 部屋から持ち出した紙にガガっと自分の部屋を書きこんでおく。メモ程度なので、廊下と部屋の位置が分かればいい。長方形と四角形らしきものを乱雑にかいた。さらにその四角形の中に【No.187】とマイナンバーも書いておいた。隣の四角形には【No.63】と、ロミの部屋も追加する。


 自室や知り合いの部屋ならどうにかなるのだが、他人の部屋はどうしても場所が分からない。聞きこむしかなさそうだ。うん、面倒臭い。こう……良い協力者がいないだろうか。


「ロミは……なんだかんだ協力してくれそうだけど、説得するまでがなぁ……。ヒトハとヤイチはもう行っちゃったし……」


 うーん……? と首を捻っているのだが、やはり聞きこむ以外の方法はないだろう。ここの研究所に来たばかりで伝手も何もないのだ。一から信頼を積み上げなければならない。


「そこのお姉さん、一体何を悩んでいるの?」


 よし、あそこの失敗作の子に聞くか! と覚悟を決めたのと同時に、ぼくの背後から幼い印象の声が聞こえた。イデアの海に溺れていたぼくは突然のことに驚いて振り返った。


 ……いやはや、お姉さん呼びに慣れ始めている自分が怖い。まさかそうなるように作られてたとか!?


「ミコトが教えてあげるよ。こう見えても、お姉さんよりここにいるんだから!」


 自らのことをミコトと呼ぶこの少女の頬には3510と彫られているので、語呂から考えて少女の名はミコトなのだろう。じゃなければ、自分のことをミコトだなんて呼ばないもんね……。


 ショートカットにしてある萌黄の髪のとラブリーなピンクの瞳を持ったミコトは、己の可愛さを最大限に使って人の懐に入り込む、意地の悪い女子にも見えてしまう。偏見であることは重々承知しているが、こういった女子に対して苦い思い出があるので警戒せずにはいられない。


「そ、そうなんだ。ぼくよりも小さいのに、すごいね」


「……」


 ぼくが少しだけ引き気味にミコトのことを褒めて見るが、彼女は笑顔を貼り付けたまま口を動かそうとしない。もしかして、お気に召さなかったのだろうか?


「あの……」


「……あっ! ……もしかして、褒めてくれてた?ありがとう!」


 心配になって声をかけると、ミコトは肩をびくっと上げて、驚いたように取り繕った。どうやら聞いていなかったようだが、褒めていたことには気が付いたらしい。その勘の鋭さには舌を巻く。まぁ……本音は言わずとも、しっかりと話を聞いていてほしかった。


「……ごめんね」


「へ?」


 唐突にかけられた謝罪の言葉に、ぼくの脳はハテナマークしか受け付けなくなってしまった。確かに話は聞いていてほしかったが、神妙な面持ちで謝られるほどぼくは怒っていない。


「ミコトの耳……見て?」


 彼女はずいっとぼくの眼前に顔を近づけ、顔に多少かかった髪を掬いあげた。その仕草にどきっとしながらも、言われたとおりにミコトの耳を見る。


「これって……」


「ミコトはね、【聞こえない】の。何にも」


 ミコトは哀しみや苦しみ、それと少しばかりの苛立ちを含めたピンクの瞳を伏せた。言葉の通り、欠点となる場所に巻かれる黒い包帯は細く切られ、これでもかとひしめき合ってミコトの耳に巻き付けられていた。

 きっと、ぎゅうぎゅうに巻かれていて相当痛いだろう。


「でもね、意思疎通が出来ない訳じゃないの。耳が使えない代わり……と言ってはなんだけど、目と勘がすごくいいみたいなの。読心術だって独学で学べたし、みんなが言いたいことの半分は理解出来てるつもり」


 たしかに、ミコトはぼくが言っていたことの内容の要点は分かっていた。

 如何に音が伝わらない生活が大変なのか。まだ全貌が分かっている訳ではないが、彼女の表情からその大変さと苦労、それから努力が読み取れた。


「最初の話に戻るけど……。こんなミコトでも出来ることがあれば、お姉さんの役に立たせてよ」


 ミコトの決意が篭った大きな目で見つめられて、断るわけにもいかなくなってしまった。

 でも、協力してくれるならありがたい。充分にそのやる気を使わせてもらうことにする。


「じゃ……紙に書くから、読んでね」


 ぼくの計画は、読心術や勘で全てを理解できるのかが怪しいので、確実に伝わる文字の方がいいだろう。その考えに賛成したのか、ミコトは小さく頷いてぼくの筆跡を追った。




「……なるほど。部屋の主をはっきりさせるんだね」


「うん。ミコトみたいに目を頼りにしている失敗作もこっちの方が助かると思うんだよね」


 ジェスチャーも交えて説明すれば、元の勘が鋭いミコトはすんなりと話を理解してくれるので助かる。


 やはり、失敗作の欠点の位置や程度によっては、こういった分かりやすい文字や音を用いるのが最適だ。どんどんこの研究所が過ごしやすい環境になることを願って、改善し続けて行こうかな?今のところ脱出する意欲も目的も方法もないので、暇つぶしには良い遊びのようなものだ。


「ミコトたちにも便利なものだし、出来るだけ協力するよ。とりあえず、ミコトが知ってるだけの失敗作の部屋を紹介してあげるね!」


 ぱぁぁっととても楽しそうに輝いた笑顔のまま、ミコトはぼくの返答も聞かずに廊下を歩き始めた。硬い石英のような物質でできた床を裸足で歩くのは、未だに恐怖や違和感がある。貼り紙の件もそうだけど、早いうちに靴問題も解決したい。


「そういえば、お姉さんの名前を聞いていなかったね」

「そうだった……」


 ぼくは紙に【No.187 アヤセだよ】と書いてミコトに見せる。「いい名前だね」と褒められたが、用件があるときには「お姉さん」と呼ばれたので、どうやらアヤセとは呼んでくれなさそうだ。


 ……別に、残念だなぁ、とか思ってるわけじゃないから!





「ここはNo.4621 シルフィーの部屋……だったはずだよ」


 ミコトが案内したのは、ぼくの部屋よりも少しだけ離れた場所にある部屋だった。ぼくの部屋からは、三つ分だけ部屋を挟んでいる。


「シルフィー!!」


 ぼくが確認のために、シルフィーがいるという部屋に向かって叫ぶと、「はぁい」という鈴の様な声が聞こえ、扉が開いた。


「あら、ミコトじゃない。一体どうしたの?」


 乳白色の髪を揺らして登場したのは、優しい眼差しの、お姉さんという言葉が似合う失敗作だった。泣きぼくろが妖艶な雰囲気を際立たせている。チラチラと見える細い首が骨のように白い。


「えーっと……隣のアヤセっていう失敗作が、部屋の貼り紙を作る計画を立ててるの。シルフィーの部屋を知っていたから、確認のために呼んだんだよ。」


「なるほど…アヤセさんは面白いことをお考えになるのね」


 「うふふ」と妖しげで色気のある笑みを浮かべるシルフィーは、きっとぼくのいた世界ではモテモテだろう。あまり異性に興味がなかったぼくでも心臓が煩いのだから、そこらの男子なんてイチコロだ。こわい。


「わたくしからも、知識を与えますわ」

「あ、ありがとうございます!」


 協力者が一気に増えて、作業しやすいのなんのなんの。

 シルフィーの部屋を示した四角形に【No.4621】と書きこんで、彼女たちと廊下を歩くことにした。


どんどんキャラクターが増えていくよ…(笑)

どの失敗作ちゃんも好きなので、たくさん出すつもりではいますがね!

次回 ドキドキ!謎の研究室探検!

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