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閑話 アタシのクラスメイト

 アヤセとヒトハ、ヤイチが部屋に来た時は非常に驚いた。


 まず、アタシの部屋に誰かが来ること自体が可笑しいのだ。つっけんどんな性格として生み出され、暴力癖や暴言を吐く癖を生まれつき持っているアタシに近付こうとする失敗作は、ほとんどいなかった。





 __そんな中、づけづけとアタシのパーソナルスペースに踏み込んで来たのはヒトハだった。





 ヒトハとは、授業を受ける部屋が同じだった。いわゆる、クラスメイトというやつだ。ただ、同じ部屋で授業を受けていただけの関係。それだけのはずだったのに、休み時間は毎回のようにアタシへ話しかけてきたのだ。


「ねぇ、今日の授業、全然分かんなかったんだけど!」


 そんなこと言われても、知らねェよ。お前ずっと寝てただろ。

 ヒトハは、授業を真面目に聞かない性格だった。興味があることしか受け付けないのか、授業中は寝ているか、絵を描いているか、隣の子と話しているかの三択。正直、コイツの気が知れなかった。


 誰にだって負けたくない、という謎のプライドで、アタシは授業中は真面目に勉強をしていた。ま、勉強と言っても、ペンは持てないから頭に詰め込むだけだったが。

 数学だって、英語だって、研究所の内部の授業だって……本当は受けたくないし、サボりたいけど、頑張っていた。だから、ヒトハはアタシに授業の内容を聞いてくる。ここはどういう意味なの?とか。


「お前、何でアタシが教えたことだけは覚えてんだよ」

「だって、ロミが話すことは興味あるからね」


 は? 授業と話してること一緒だろうが。

 アタシが話すことはすんなりと頭に入るらしいコイツの脳は、イカれてんじゃないかと疑ったことがある。まぁ、確認してみたけれど、異常はないらしい。は? あるだろ、コイツイカれてんだよ。だって、アタシに近付くんだ。相当頭が悪いに違いない。


「みんなロミのこと、怖いだのヤンキーだのつれないだの言うけど、本当はウチに勉強教えてくれるくらい優しいじゃん。ね、そうでしょ」


 当たり前のようにさらっと告げたヒトハの顔は、やはり当たり前のことを言っているかのようだった。この底抜けに明るいコイツが、恐ろしくて仕方が無い。詐欺にすぐ引っ掛かりそうなタイプだ。そうに違いない。


 だから、教育してやったのだ。





 毎休み時間にやってくるヒトハをのらりくらりと躱し、話しかけられても相槌だけ打ち、それ以外は何も発さないようにした。勿論、心が痛まなかったわけではない。


 しかし、ヤツはアタシの気遣いなんか全く意に介さず、再びパーソナルスペースに入り込んできた。


「まぁた無視してるよ、この失敗作! バァカ! アーホ! ツンデレヤンキーめ!」

「あ゛ぁ!!? うるせーなテメェ!」


 ……しまった、反応してしまった。煽りにめっきり弱いらしい性格は、どうしても噛み付かずにはいられないらしい。八重歯を剥き出しにして、猛獣のように吠えた。


「えー……ヒトハ、可哀想じゃない?」

「うん、だってあのロミに怒鳴られてるし……」

「泣いちゃうんじゃないのぉ?」


 部屋の隅でコソコソと話す声が、やけに頭に響く。うるさい、うるさい!! 黙れ! 煽ってきたのはコイツだろうが、ふざけんな!


「はぁ……やぁっと返事してくれた」


 目のやり場が無くなって、なくなくヒトハの顔を見ると、今までにないくらいに穏やかな表情を浮かべていた。女神の微笑みと噂されるその表情は、煮え滾っていた感情を一時的に抑えた。


「なん……で、そんな顔……」

「それ、ウチのこと傷つけた本人が言うー? だってさ、今まで仲良かったのに、急に無視され始めたんだもん……怖かったよ」


 あくまでもちゃらけた口調で話していたヒトハの語気が、次第に弱くなっていった。眉も下がりきって、今にも泣きだしそうな顔だ。アタシは、コイツの為と思ってしていたが、コイツの為にはならなかったってことか……。


「……悪かったよ、無視なんかして」


 居場所がなくなった心は、急激に小さくなった。焦りと自分への怒りに押しつぶされそうだ。

 アタシはヒトハに悪いことをした。だというのに、ヒトハはアタシの体を包んだ。程良くついた肉が、妙に心地よかった。


「ロミのことだから、きっとウチの為を思ってやったんでしょ?」


 思いがけないその言葉に、アタシはぎくりと肩を上げる。……図星だ、お前すごいな。


「アイツらの言う事なんて気にしなければいいんだよ。ウチのことはウチが決めるの。そこにロミは関係なくて、悪評受けてるロミと仲良くするのはウチだもん」


 励ましているとも蔑んでいるとも取れるその言葉は、変に取り繕った言葉よりも信用できた。賛成でも否定でもない意見がアタシの心を溶かしたのだ。


「だからさ、ロミはそのままでいなよ。悪評高いロミ!」

「……うるせェ」


 知らぬ間に流れていた涙を拭って、立ちあがった。きっと、その時のアタシの顔は百獣の王と恐れられるライオンよりも勇ましかっただろう。






 やがて半年程の月日が経ち、アタシはヤイチと出会った。ヒトハと仲が良いと噂されていて、ロミと対立しているんじゃないか、だとか、三角関係だ、と騒ぐ五月蝿いヤツが居たのだ。だから、どんなヤツなのだろうかと気になり、会いに行ったのがきっかけだった。


「お前がヒトハと仲が良いヤツか」

「え? う、うん、そうだけど……」


 貴方誰? と言わんばかりの間抜けな顔に、此方の方が驚いてしまった。


 『悪評高いロミ』が認知されていないことが不思議だった。同じ部屋のヤツらは勿論のこと、その悪評は広がり、他の部屋のヤツらにも知られていたからだ。


「……アタシのこと、知らないのか」

「ごめんね、顔見たことないからさ……」


 本当に申し訳なさそうな表情で頬を掻くものだから、責めたような口調で尋ねてしまった自分が恥ずかしい。


「ロミだ。噂くらいは聞いたことあるんじゃないか?」

「ロミ……あ! 最近ヒトハと仲が良い失敗作!」


 悪評の話よりも、先にヒトハとの関係について述べられたことに、これまた驚かされた。なんだ? 頭の色が紅葉と同じヤツはイカれてやがるのか?


 ヒトハと少しだけ似た思考回路にうんざりする。その様子を悟ってか、ヤイチは苦笑いを零す。


「いつか話せるのを楽しみにしてたんだ。ヒトハが毎日嬉しそうに話すからね」

「そーかよ……」


 ヒトハが嬉しそうにアタシのことを話していることを知り、柄にもなく照れてしまった。そんな情けない姿を初対面のヤツに晒すわけにもいかないから、後ろを向いてやった。





 翌年、ヤイチとは同じ部屋の、クラスメイトになってしまった。


 ヒトハに似た思考回路の持ち主だから、勉強もてんでダメなんだろうと高を括っていたが、ヤイチは相当に頭が良かった。同じ授業を受けているはずなのに、コイツの知識量はアタシの知識量を軽く上回っていた。


「絶対負けねェ……」


 負けず嫌いの性質であるアタシは、齧りつくように授業を受けた。

 しかし、そんな努力を知ってか知らずか、アタシの気持ちなどお構いなしにヤイチは話しかけてくるようになった。


「その前髪、邪魔じゃないの?」


 その頃のアタシは、うざったるいくらいに長い前髪を下ろしていた。今でこそ髪留めがあるのでそれを利用しているが、最初からあった訳ではなかった。


 引っこ抜いてやろうか、と考えていたその時、ヤイチは研究員から髪留めを貰うことを提案した。あまり気乗りはしなかったので、「考えとく」と曖昧に返事をしておいたのだが、ヤイチはこっそり根回しをして研究員から髪留めを貰っていた。いや、どんな才能?


「動かないでね」

「うわ、前髪なっが!」


 貰った髪留めを付けてくれたのはヒトハとヤイチだった。器用に前髪を掬って、ぱちんと留める。アタシは手が動かないので、毎回髪留めを付けてくれたのは二人だった。





 __とまぁ、アタシが変人と付き合うようになったのはこれがきっかけだ。


 アタシは、二人のことを勝手に紅葉組と呼んでいる。髪色が黄色と赤色で、銀杏と紅葉みたいだったからだ。紅葉組というネーミングには、勿論変人という意味も含んでいる。金髪と赤髪のヤツは大体頭がイカれてるからな。





「……って感じで、壁をなんとかしてほしんだけど……」

「アヤセだけじゃなく、お前らもアタシのことを便利屋だと思ってないか?」


 アヤセが頼み込んできたのは、監視棟の扉を開けることだった。

 監視棟にはいい思い出というのが全くと言っていい程ない。アタシを無理矢理研究員にしようと、体に合わない魔力を流し込んでくるおっさんがいるからだ。痛くて痛くて、胃の中のものが全部出てしまいそうになる。


 アタシが嫌だと言っても、腕に魔力を流すのを止めてくれない。気絶するまで続くのだ。途中から記憶が飛んで、きっと声だって出ていない。あんな生き地獄、よく作れるな、と感心するほどだ。


 研究員になれば研究所に囚われることはない、好きなことをして生きていける。そんな甘い誘い文句も、アタシには通用しない。アタシはここで生きていければいいのだ。どうせこの性質じゃ、外に出たところで仲間外れにされるだけだ。社会不適合者と罵られ、自由に生きていくことなんて出来やしない。


 ……それに、ここにはアタシを信用してくれるヤツらがいるからな。



「まぁ、暇だったからいいけどよ」


 そんな、アタシを信用してくれるヤツらからの頼みごとだ。痛いのは嫌だし、弱音を吐くところなんて見せたくないが……。暴力癖や暴言を吐く癖があるアタシでも、誰かの役に立てるということを証明したかったのかもしれない。


 顔を見合わせて小さく笑うアヤセとヒトハとヤイチを不思議に思いながら、握れない拳を握る気持ちで監視棟までの廊下を歩いた。


本編ばっかりだと疲れるので、閑話を書いてみました。

ロミがヒトハ&ヤイチと仲良く(?)なるまでのお話です。

本編でロミは、ヤイチに対して「食えないから好かん」と言っていますが、愛情の裏返しということで…


次回は閑話にしようか本編を進めようか迷っています。閑話だったらナズナの話にするつもりです。

みなさんはどちらがいいですか?

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