表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄になる条件、教えてあげましょうか?  作者: 夢月真人
第8章 『鳴りやまぬ鐘と狂気の目覚め』
95/104

94話  『狂気の中で、声が聴こえました』

「余裕ですね……だって? 雑魚相手に本気を出すとでも思っていたのか?」


 まったく退く素ぶりを見せないことに、苛立ち始める。体から溢れ出る赤黒いオーラも一層大きく重く、そして荒々しくなっていた。


「仮にも俺は、英雄志願者になった男ですよ? それに、単なる一般兵とは違う。俺には魔界で最高クラスの魔力を持った魔女がいる」


「結局は魔女に任せて自分は逃げるつもりってことだろう?」


「まさか、そんなことしませんよ。スフィア様には手出しさせません」


「なんだと!?」


「ギース先輩の相手は、俺だけでいいってことですよ」


「調子に乗るなよ、雑魚がぁぁぁああ!」


 ギースはラナの挑発にまんまと乗ってしまった。とは言っても、そんな上手い駆け引きがラナにできるはずはない。


 人を逆撫でる天才、スフィアがリンクを使って、言わせていたのだ。


『来るわよ』


 体内から吸い上げているのか、血の赤がギースの十字剣(クロスソード)を色濃く染め上げていく。


 特別な力を得ていても、特段速いとは言えない速度で、斬りかかって来る剣を捌くことは、高速を知るラナにとって難しいことではない。


「え?」


 二人の剣が交わった瞬間、甲高い金属音の他に、ヒュッと冷気がラナの剣をすり抜ける。


 何か得体の知れないものが、迫り来るのを感じたラナは、咄嗟に時間の錯覚(クロノスタシス)を発動させ、回避してしまう。


 ――しまった。


 そう思った時には、必然的にさっきと同じような現象が起こる。


「ぐっ」


 後方へ回避したラナの体はさらに後方、入口手前まで押し戻された。


『ラナ!』


 ギースの意識をラナに集中させるため、スフィアは声を出せずにいた。


『なんとか、大丈夫です』


 回避後にギースが放った特殊技は、ラナの十字剣(クロスソード)を弾いただけで、傷を負わせていなかった。


「雑魚のくせに、ボクの技を運良く防げたみたいだなぁ」


 ――運が良かっただけ?本当にそれだけで、回避不可能だと思えた技を防ぐことができるの?

 スフィアは、何かギースの技を打ち破る術があるのではないかと、捕縛の機会を伺いながら突破口を探る。


「次はないからなぁ? 悪い子には、ちゃんとお仕置きしないとダメだって、パパとママから教わっているよなぁ?」


 狂気に当てられてか、己の得た新たな力の副作用か、言っていることが徐々におかしくなり始めている。


「そうだよねぇ。ボクがちゃんと教えてあげないから、ダメになるんだよねぇ。仕方ない、悪い子には、お兄ちゃんがお仕置き……してあげるよぉっ!」


 十字剣(クロスソード)を構えたばかりのラナに向かって、容赦なくギースの斬撃が襲い来る。


 ――このままだと押し切られる。


 通常の斬撃と特殊技の二段攻撃に成す術がない。その間も、鐘の音は鳴り続け、血みどろの争いが続いている。


 急がなければならないのに、隙が全くないせいで、反撃のタイミングがない。


『スフィア様、まだですか!?』


『まだ無理よ。私のところまで殺気が届いているし、君たちの距離が近すぎて、狙いが定まらないわ』


 一瞬でも硬直させ、間合いを取ることができれば、ギースに捕縛するための魔法を発動することができるが、狂気と化したギースの攻撃は止まることを知らない。


 いくらスピードが速くはないとしても、無尽蔵とも思える体力のギースと戦い続けては、英雄志願者になりたてで、鍛錬を積んでいないラナは不利な状況になっていくばかりだ。


 ――何か、何か良い手はないのか……。


 防戦一方の中、一瞬の隙を作るための策をラナなりに模索した。


 ――ギース先輩が怯むような何か……はっ!


 そして、思い出す。状況は違うが、相手を怯ませ、攻撃へと転じた方法を。


『スフィア様、神雷光(フルメン)で隙を作るしかない!』


 そう、ラナが思いついた策とは、魔女狩人デオ・ヴォルグとの戦いにおいて、形勢を逆転するきっかけとなった戦法。


『やるしかなさそうね』


 後手に回り続けることを避けたいと考えたスフィアは、ラナの提案を受け入れ、神雷光(フルメン)を発動させる。


 二人の距離は少し離れていたが、目眩し程度の光は放てるはず。


 ラナの十字剣(クロスソード)に、魂を通じてスフィアの魔力を流し込んだ。


「うおぉぉぉおおお!」


 声を張り上げ、必死に斬り返すラナ。突然、攻め込んできたことに、ギースの意識がラナの十字剣(クロスソード)に集中する。


「「<神雷光(フルメン)>!」」


 刺すような白き光が、辺りに広がり、城内にある窓から外へと漏れ出る。


「スフィア様!」


 ――シェイネお姉様、力を貸して。


 力強く、闇化身の魔法杖(シェイネ・マギカロッド)を握りしめたスフィアは、シェイネの力を借りて闇魔法を発動する。


「<操人形劇(クロロセアトロ)>」


 光属性の魔力は、闇化身の魔法杖(シェイネ・マギカロッド)を通して、強力な闇属性の魔力へと変換された。


 一度、操られれば、魔法を解除しない限り体の自由は奪われたまま。いくら強力な力を得たところで、抗うことはできない。


 怒涛の斬撃が止み、ラナはようやく解放された。


「や、やった。大成功ですよ、スフィア様!」


 棒立ちで動かなくなったギースを確認するや否や、大喜びでスフィアの下へ駆け寄る。


「って、あれ? スフィア……様?」


 何かがおかしい。そう思った時、


「あひゃひゃひゃひゃ!」


 と、トチ狂ったような笑い声が背筋をゾッとさせる。笑い声のする方を向くと、腹を抱えて笑うギースの姿があった。


「嘘だろ……。スフィア様の魔法は当たったはず、それにあれだけの光を見てなんの影響もないわけが」


 ギースの顔、目を見てラナは愕然とした。


 すべてを闇の中へと吸い込んでしまいそうなほど、黒く染まった眼球。こちらのことが見えているのかさえも分からない、その目に恐怖しか感じない。


「スフィア様……」


 助けを求めるように、名を呼ぶが返事はなかった。


「あひゃひゃひゃひゃ! 良いことを教えてやるよぉ! 幽魔(イマーゴ)は、元々闇の中で生きる魔族、闇の力を持っているのさ。つまり、闇属性の技はボクの得意な技ってことぉ!」


「スフィア様に何をしたんだ……」


「魔法なんか使うから悪いのさぁ!」


「何をしたか訊いてんだよ!」


「あひゃひゃひゃひゃ!」


 話の通じない相手に、どれだけ怒鳴っても無意味。


 面白いことなど、一つもありはしない。ギースが無駄に笑うせいで、また沸々と怒りが込み上げて来る。


『また怒りに任せて狂気に囚われるつもりですか?』


『スフィア様!?』


『どんな状況にあっても、冷静でありなさい。そして、如何なる時も正義を胸に、すべてを愛しなさい』


 ――違う。スフィア様じゃない。


 心に語り掛ける声に聞き覚えがなかった。リンクを使えるのは、契約を結んだもの同士。しかし、ラナの知らない別の存在が今、心に話し語り掛けている。


『誰だ?』


『我は、古よりこの世界を見守り続けている存在』


『何だか分からないけど、今はあんたと話している場合じゃないんだ。止めてくれたことには感謝するけどさ』


 名乗りもしない相手と悠長に話している時ではない。正しい判断ではあるが、相手がどれだけ高位で、絶対的な力を持つ存在なのか、ギースと戦うことに、手いっぱいになっていては、気づくことはできない。


『ならば、一つだけ助言をしておこう。光あるところに闇があり、闇あるところに光なし。光と光が交わることがなければ、闇と闇が交わることもない』


『それってどういう』


 そう言って以降、声がすることはなかった。


 ――何が言いたかったんだ……。


 一つも理解できず、己の力のみで戦わざるを得ない状況になったラナは、声の主に静められた怒りを闘志に変えて、狂人と化したギースと再び剣を交える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10月更新予定日
お読み頂き、ありがとうございます!
更新は基本的に毎日行いますが、もし更新されてなかったら
徹夜コースの仕事に追われていると思っていただけると幸いです。
更新日程などの詳細は目次の下、注意書きの上に記載しております。
※感想やレビュー、評価などは当作品をご愛読頂いている読者様の応援のお気持ちとして受け取り、
執筆活動の原動力へと変換しています(∩´∀`)∩(漲る力)アリガトウゴザイマス
※相互目的の方は固くお断りしております。ご了承ください。
cont_access.php?citi_cont_id=415189780&s
ツギクルバナー
小説家になろうアンテナ&ランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ