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英雄になる条件、教えてあげましょうか?  作者: 夢月真人
第1章 『魂を結びし者と雪山の狩人』
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7話 『怒れる二人の火花が飛び火しました』

 バチバチと火花を散らす両者。

 罵り合いからの僅かな沈黙が流れる。そして、木々の隙間を縫うように吹いていた風がピタリと止む。


「俺が臆病者じゃないってところを見せてやろう」


 そう言うと、見る見るうちに男の肉体は巨大化し、鋼のような体毛に覆われ、まるで熊人間のような姿へと変貌を遂げた。


「何だよ、それ……」


「あれは、魔獣と契約した人間が獣の魂を共有したことで得られる野生の力<魔獣化(ベースティア)>。君が魔法を使えるようになったのと同じようにね」


「へえ。良く知ってるじゃねぇの。まあ、知っていたところで俺が勝つことに変わりはないがなぁ」


 余裕を見せているデオに対して、護身用の長剣で応戦しなければならないラナと華奢で小さい体のスフィアは接近戦に持ち込まれたら勝つ見込みはゼロに近い。


 恐らく、手も足も出ずに終わってしまうほどの圧倒的不利な状況だ。獰猛な肉食動物を相手に、ひ弱な草食動物が勝っているものと言えば、危険察知能力と逃げ足の速さだけだ。


 本能的に逃げた方が良いと判断したラナは、スフィアを連れて逃げようとしたのだが、


「あら? 私が素直に接近戦をすると思っているのかしら? 頭まで魔獣化してしまったの?」


 と、なぜか余裕を見せるスフィア。


 ――バカ。なんで今挑発してんだよ。


「減らず口を……。今すぐ捻り潰してやる。……と、その前にそこの少年」


「え? 俺?」


「そうだ。俺は今からこいつを始末しないといけない。巻き添えになりたくなければ大人しくこの場から立ち去れ」


 どうやらデオは、目的の魔女(スフィア)以外には興味はないらしい。


 スフィアがどういう状況下に置かれていようと元々は無関係。ここで二人無駄死にするよりも、どちらか一方は生き残った方が良いに決まっている。それなら、全くの関係のないラナはこの場を立ち去るべきだ。


 スフィアには悪いと思ったが、無駄死にする気は毛頭ない。


「そうですよね! 俺は魔女じゃないし、正直言って無関係ですよね! じゃあ、俺はこれで失礼します!」


 と、大人しく言う事を聞きつつ、少しだけスフィアに対しての後ろめたさを感じながら、いそいそとこの場を去ろうとした。


「待ちなさい。逃げるのは勝手だけれど、君は無関係じゃないのよ」


「はいぃぃぃっ?!」


 まさかの「無関係じゃないのよ」発言に衝撃を受けたラナは、残像が残るくらいの勢いでスフィアの方を振り向いた。


「さっき話したでしょ。私たちは魂を結んだことで全てを共有している」


「だから?」


「命も共有しているという事よ。つまり、私が死ねば、必然的に君も死ぬわ」


「はっ!? 無茶苦茶過ぎるだろ!」


 全てを共有すると言っても、まさか命まで共有しているとは思わなかった。


 局外者の立場から一転して、局外中立にもなれず、完全に魔女サイドの人間として認定されてしまった。


「文句を言うなら、こんな契約内容にしたディアンナに言いなさい。私も好きでこんな契約をしていないのだから」


「はあ。結局、契約した時点で俺の負けってことか」


 どれだけ過去を嘆いても意味がない事は分かっているが、嘆かずにはいられない。


「まさか魔女と契約を結んじまったのか!? これは傑作だわ! 同情するぜ、少年! くくく」


 忌み嫌われている魔女と契約してしまったラナに対して、心底同情したデオはラナに対して哀れみの目を向けたかと思えば、腹を抱え、声を殺し笑い始めた。


「うるせえ! お前に同情される筋合いはない! つか、笑ってんじゃねえ!!」


「悪いな、少年。お前が死んでも恨むならそこの魔女を恨めよ」


「恨まねえよ。だって……、俺が契約するって決めたからな……」


 後悔先に立たず。今更、誰を責めても仕方がない。結局、最終的に決めたのは自分。ここから先は成り行きに任せて対処していくしかない。やけくそになったラナは、半泣きで情けない顔をしながら剣を構えた。


「やる気は十分みたいだな。それなら、遠慮なくいかせてもらうぜ」


 デオは舌をチラリと見せて、狩りの前準備と言わんばかりに膝をぐっと曲げて足に力を溜めた。


 ――ふう。落ち着け、落ち着け。俺ならやれる、やれる、やれる。


 戦い慣れていないラナは、凄みの増したデオの姿に圧倒され、どうにかなってしまいそうになりながらも、必死に平常心を保とうとしていた。対してスフィアの表情は真剣そのものだったが、臆している様子はなく、じっとデオから目を離さずにいた。


そして、静かに名を呼ぶ。


「ラナ・クロイツ」


「へ!? は、はい」


「攻撃を避けつつ、強力な魔法を発動させれば、いくら<魔獣化(ベースティア)>でも防ぎきれないわ。だから、しっかり相手の動きを見極めながら、私と意識を同調しなさい」


「そんな殺生な……」


 簡単に言ってくれるが、今まで英雄ごっこで木の枝を振り回して遊んでいた程度のラナにとって、初めての本格的な戦闘。それなのに二つ同時に違うことをしろというのは、あまりにも酷なお願いだ。


「お前ら、話している余裕はないと思う……ぜ!」


 地面を強く蹴り出すとドゴッ! と、大きな音を立てながら地面が崩壊。辺り一面に雪と土が飛び散った。


デオは鋭い爪を大きく振りかぶりながら猛烈な突進攻撃を仕掛ける。


 その標的は、一番弱そうなラナだった。


 戦闘において弱者を狙うのは当然の戦略。デオは魔女狩人(ウィッチハンター)としてかなりの戦闘経験があるようだ。


「うわぁぁぁあああ!!」


 想定外の速さに圧倒されてしまったラナは、ただ叫ぶことしか出来ず、身動きが取れずにいた。


「<神雷城壁(トニトルス・パリエス)>!」


 鋭い爪が切り裂く瞬間、スフィアの発動させた雷の壁がラナの身を守った。しかし、スフィア単体での魔法発動は効力が半減するため、ガキンッ! と、大きな音を鳴らしながら一撃で粉砕されてしまう。攻撃の勢いはそのままに、ラナは木々の生い茂る山の中に吹っ飛ばされてしまった。


 バフッ!!


 運良くふかふかの雪の上に落ちたおかげでケガはなかったが、防御しても吹っ飛ぶほどの威力の攻撃をそう何度も防ぐことは出来ない。


「く、くそ……」


「何をしているの!? 死にたくなかったらもっと集中しなさい!」


 分かっているが、戦闘経験がないラナに反応できるような攻撃ではない。

体力が少しは回復したとはいえ、耐久戦になればじり貧だ。体内に感じる魔力の残量を考えても、迂闊に魔法を発動するわけにもいかない。


「おら、おら! 次行くぜぇ!」


 デオは、先ほどよりも近い距離から同じ攻撃を繰り出して来た。


 ラナには、それを避ける余裕も自信もない。恐怖に身体が震えたが歯を食いしばって耐えた。耐えて、耐えて、集中して、息つく暇もなく目前に迫ったデオから繰り出される鋭い爪に意識を集中させ、ギリギリのところで一歩後ろへ身を退いた。


 ブンッ!!


 と、鋭く尖った爪の先がラナの鼻先を掠めながら、大きく空を切った。


 しかし、一撃を避けたところで、勢いの付いたデオの攻撃は止まらない。


 これは避け切れないと判断したラナはさっきとスフィアが防いでくれたように<神雷城壁(トニトルス・パリエス)>発動させようと試みる。


「<神雷城壁(トニトルス・パリエス)>!!」


 死に物狂いで叫んだが、バチッと静電気ほどの電撃が出ただけで、攻撃を凌げるだけの魔法は発動しなかった。


 ――終わった……。


何度覚悟したら良いのかと思う程の死の覚悟をしたラナはぐっと目を瞑り、大きく振りかざされた鉤爪は一直線にラナに向かっていった。


 ガッ!!


「……ん?」


 何かに引っ掛かったような音が聞こえて、薄目を開けて見てみるとデオの振りかざした鉤爪が大木に突き刺さり、身動きが取れなくなっていた。


「くそっ! 抜けねえ!」


 余裕を見せていたデオだったが実際はスフィアの挑発で頭に血が上り、一心不乱に猪突猛進な攻撃を仕掛けていた。そのおかげで、密集した木々の細かな位置までは把握しきれずに、大振りでその鉤爪を振るっていたのだ。


 ラナはその隙をついて、微動だにしないスフィアの下へ駆け戻る。


「助かってよかったわね」


「いや、他人事!?」


「今ので、勝機が見えたわ。あの生い茂っている木々を使って上手く立ち回りましょう」


「上手く立ち回るって言われても、また同じように助かるかどうか」


「大丈夫。君は私が魔力の回復に専念している間、私を背負って体力の続く限り逃げ回りなさい。その後は、木々が特に密集した場所を探して一度身を隠しながら待ち伏せをする」


「よし! そうと決まれば、急いで行こう!」


 腰に携えた護身用の長剣を支えにしてスフィアを背負うと、足早に山の中へと走った。


 横目にデオを見てみると、まだ爪を引き抜こうと必死になっている。


「畜生が! このまま逃がしてたまるか。おい、ダンクン! この木を細切れにしてくれ!」


 デオの姿が見えなくなりそうになった時、デオの倍近くはあろう巨大な熊がグオオオオ! と、雄叫びを上げながら大木を細切れに切り裂くのが見えた。


 最初にラナたちを取り囲んでいた熊の残党か。

 それとも、他にまだ仲間の熊が居たのか。いずれにしても、魔力が回復する前にあれと同等レベルの熊に取り囲まれでもしたら、完全に勝機を失ってしまう。


 死に物狂いの二人は険しい山道を駆ける。


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