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英雄になる条件、教えてあげましょうか?  作者: 夢月真人
第1章 『魂を結びし者と雪山の狩人』
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4話 『それでも、ケッコンすることに決めました』

 十五歳を迎えたこの日。


 ラナ・クロイツは、初めて出会った女の子と魂を結びます。


 これは祝福すべきことなのか、祝福されずとも喜んで良いことなのか。ラナ自身、騙されたことに対するショックが大きく放心状態。生ける屍。後にも退けず、身を委ねるしかない。


「早速だけど結魂の儀式を始めるわ」


 スフィアは、まんまとしてやられたラナを嘲笑いながら、結魂の儀式を始めた。


 この女は悪だ。身に付けている漆黒のローブよりもどす黒い悪だ。人を騙すようなことをしているのだから、それ以上に悪いことをしているに違いない。そう考えれば、魔女狩人(ウィッチハンター)に追われているのも納得がいく。


 つまり、全く関係のない赤の他人の自業自得の結果に巻き込まれたということだ。


 ラナはそんな不運な自分を憐れんでいた。


「ちょっと、聞いているの? 君も早くここへ来なさい」


「はいはい。分かりましたよ」


 騙した方が悪いと正義の鉄槌を下してやりたいところだが、騙されたのは自分。契約すると言った以上、逃げる事も出来ないようだし、ここは大人しくスフィアに従うしかない。


 ラナは重い足取りでスフィアの指差場所へ移動して、杖を間に挟むように二人は向かい合った。


「始めるわ。君は目を閉じて」


「こうか?」


 言われるがまま、そっと目を閉じた。


「そう。これから私が何をしても絶対に目を開けてはダメよ」


「何をしてもって、何をする気だよ!?」


 疑心暗鬼に陥っていたラナは、一度閉じた目を見開いて今度こそ騙されるものかとスフィアの顔を睨みつけた。


「な、何って、儀式に必要なことだけよ……」


「本当か? 顔赤いぞ」


「う、うるさいわね! 君は黙って私の指示に従っていればいいのよ!」


 誰が見ても一目で分かるくらいに顔を赤くして動揺している。明らかに何か隠している様子。ラナは念のため釘を刺しておくことにした。


「まあ、何でも良いけど、変なことするなよ」


「はい? 何よ。変な事って」


「そりゃあ――」


 ――いや、変な事って確かに何だ? 顔を赤くして動揺するくらいの何かが心配なだけだし。でも顔が赤くなるって恥ずかしいってことかもしれないよな。もしかして、結魂の儀式ってそんなに恥ずかしいことなのか。


 結魂の儀式。ケッコンの儀式。けっこんの儀式。結婚の儀式。結婚の儀式=誓いのキス。


 被害妄想からただの妄想へと変換された脳内は、かなり阿呆な考えで埋め尽くされていった。


 ――ま、まさか!? この子は俺と誓いのキスを交わすから恥ずかしくて赤くなっていたのか!? だから目を閉じていてほしいと言って来たのか!?


 無駄に妄想した結果、その方が辻褄が合うと勝手に納得して、淡い期待を胸に儀式に臨むことにした。


「物凄い鼻の下が伸びているようだけど、何かいかがわしいことでも考えているわけじゃないわよね?」


「はあ?! お、俺がそんなこと考えるわけがないでしょ!?」


「怪しいわね……」


 バカ正直なくらい邪な感情が顔に出ているラナの鼻を思いきり指で挟んだ。


「痛ッ! 何すんだよ?!」


「疑わしきは罰せられるのよ。とにかく、儀式の最中は絶対に目を開けない事。もし目を開けたら、儀式が失敗して命を落とす可能性もないとは言えないから」


 そんなことを言われてしまっては、了承するしかない。


 ラナは、鼻を摘ままれながら小さく頷くと目を閉じた。


 しっかりと目を閉じていることを確認したスフィアは、大きく深呼吸をして呼吸を整えると杖に手をかざした。


「我の名はスフィア・セーラム。我が魔力を糧とし、魂の契約を結ぶ。幾久しく、如何なる時も、互いを偽ることなく、全てを共有し、生ける時も死せる時も共にある事をここに誓います。ラナ・クロイツ、あなたも誓いますか?」


 これ、めっちゃ結婚の儀式みたいなんだけど。と、思いつつ、


「……はい、誓います」


 と、はっきりと答えた。


 すると、目を閉じていても分かるくらいの眩く温かな光が杖の方から放たれ、二人の周りを包み込むと、頭の中に直接声が聞こえ始めた。


結魂契約(ソウル・チェイン)を望む者たちよ。私の名はディアンナ。そなた等は異なる世界の生まれでありながら、この世界を救い平和へと導くため、自らの魂を結ぼうとしています』


 ――ディアンナって、もしかして、あの聖女ディアンナ!?


 目を開けるなと言われていたが、聞き覚えのある名前が気になって仕方ないラナは目を開けたくてソワソワしていた。


 <聖女ディアンナ>は、ラナが目標とする英雄<長剣使いのエルシド・ア・ドール>が活躍した時代に唯一の女傑として世界を救ったとされる偉大な四人の英雄の一人だ。


 その偉大な英雄が目の前にいるのかと、考えるだけで俄然テンションが上がってしまう。どうにも耐えきれなくなったラナは、


「スフィアさん。もしかして、今話してるの聖女ディアンナなの?」


 と、興奮気味に鼻息を荒くしてスフィアに訊いた。


 しかし、スフィアからの返事はなく「二度と口を開くな」という無言の圧力だけが返って来た。


 ラナは大人しくディアンナの言葉に耳を傾けることにした。


『これから先、再び終焉の日(ラグナロク)が世界に脅威を与える日が訪れます。私たちは、三度目の終焉の日(トレス・ラグナロク)に太刀打ちできず、未来を生きる貴方たちに全てを託すことになってしまった。だから、私は魔界、天界の民に助力を求め、三つの世界を一つの世界へと融合させることにしました』


「え!?」


「しっ!」


 三つの世界が一つの世界になったなんて、突拍子もない話を黙って聞けとは無理がある。しかし、困惑したまま、儀式は続く。


結魂契約(ソウル・チェイン)を行う者を私たちの同胞と定め、共に戦うことをここに宣言します。異議なき者は、最後の詠唱を行いなさい』


 そう告げ終わると、眩い光は消え失せ、再びピリピリと緊張した雰囲気と、凍てつく寒さが辺りを漂い始めた。


「我、先人の英雄たちの意志を受け継ぎし者。結魂契約(ソウル・チェイン)の発動者ディアンナの名の下に、魔の力をこの世界を救わんとする者に分け与え、我も秘めたる力を開放する。再び問う。ラナ・クロイツ、君は私と契約し共に歩むことを誓いますか?」


「誓います」


「雷鳴と共に聞き届けたまえ、二つの生ける魂の鼓動を――」


 再び杖を中心に眩い光が放たれると、先ほどとは違い、荒々しい雷の音が轟き、周囲を威嚇するような緊張感のある雰囲気に包まれた。次第に音は大きくなり、光も強くなっていくとラナとスフィアの体が数センチだけ地面から浮き上がり、杖の方へと進んでいった。


 そして杖の真上まで上昇した2人の距離は、互いの呼吸を肌で感じられるまでに接近していた。


 少し荒くなったスフィアの息遣いに気づくと、再び脳裏にあのことが浮かんだ。


 ――やっぱり、これって誓いのキッスをするのか!?


 なんやかんや言ってもラナは15歳の思春期真っただ中の男子である。

 今日出会ったばかりの女の子だとしても、可愛い子が面前で乱れた息遣いをしていては妄想が止まらなくなってしまう。契約の儀式前のスフィアの恥ずかしそうな表情が(まぶた)の裏に浮かび、期待と興奮は最高潮に達していた。


「目的を果たすその時まで我らの魂を結び合わせたまえ。<共雷鳴鎖(リソナ・トニトルス)>」


 スフィアが静かに詠唱を終えた瞬間、「ん?」と、自分の体に異変が起きたことに気づいた。


 小さくて柔らかそうな唇がそっと重なるを想像していたのに、左胸辺りに何かが突き刺さったような感覚と電気が奔るような感覚があったのだ。


 恐る恐る目を開くと、目の前には顔を赤らめ真冬とは思えないほどに汗をかいたスフィアの火照った顔。目線を下にやると、そのスフィアとラナを槍の形をした雷が貫いていた。


「なにごべぇ?! ずごいじびれるんでずげどぉぉ!」


 痺れるようなキッスを期待していたのに、本当に体が痺れて指一本動かせない。


「もう少しだけ静かにしてくれるかしら、あまり騒がれると集中できない」


「だんでぇぇ、ズビアざんば、へいぎだんでずがっ」


「私の魔法だからに決まっているじゃない。分かったら、黙っていてくれるかしら?」


 スフィアの火照った顔を見つめながら、緊張しているのか動揺しているのか。自分でもよく分からないような感情を抱きながら、儀式が無事終わることを願いつつ、その時を待った。


 それから数十秒して、バチバチと音を立てていた雷の槍がゆっくりとラナの左胸辺りに吸い込まれるように消え、二人はふわりと地面に降り立った。途端、手足の痺れが無くなったラナは慌てて自分の左胸に穴が開いていないか手を当てたり、上着を捲って目で確認したり、気が済むまで体をくまなくチェックした。


「何ともない……のか?」


「当たり前じゃない。私を誰だと思っているのよ」


 平静を装って、毅然とした態度で振舞っているが、体力を消耗しきっているのは目に見えて分かった。いまいち、契約して何が変わったのかピンとは来ていないラナだったが、あの儀式には膨大な魔力が必要だったに違いないと確信していた。


 いずれにせよ、魂を結び互いの全てを共有したことで、新たな力を得たはずの二人は、こうしている間にも確実に近づいている魔女狩人(ウィッチハンター)たちから逃れるため、次なる行動に移らなければならなかった。

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