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08話 違和感

 

 ただ、その前にまずここがどういった場所なのか把握しておきたい。


 残念なことに、新聞には天国のことに関してはほとんど記載されていなかったし、その情報でさえも今の俺の欲しいものではなかった。


 ーーどのくらいの魂がどういう風になったとかじゃないんだよなあ。


 本屋にも寄ってみたが、置いてあるほとんどのものがグルメガイドや絶景スポット集、現世の小説だったため、目ぼしいものは見つからなかった。


 ただ、『天国入門』という本はよかった。

 中身は友達の作り方や着物の着方など学生用雑誌の4月号かと思わせるような内容ばかりだったが、左胸、つまり心臓の部分に一定以上の衝撃が加わると魂が消滅してしまうという注意書きは役に立った。


 まあ、何tというレベルの本当に強い負荷がかからない限り魂に傷がつくことはないとも書いてあったので、そこら辺は安心して良さようだ。


 というか、魂って消滅したらどうなるんだろうか。

 意識だけでも残ってまた別のところに行ってしまったりするのだろうか。

 それとも、本当にそこですべてが終わってしまうのだろうか。


 疑問は残ったが、ともかく書物関係で今の俺の求めている情報を得るのは厳しいことが分かった。


 空腹と疲れに関してはみんな感じていないようだし、俺もまだ慣れていないだけで暫くここで過ごしたら気にならなくなるだろう。


 疲れの方は空腹と違って一晩寝たら大分回復したし、温かい寝床も確保できた。

 なかなかいい感じである。


 なんといってもこの六道銭が最高だ。


 天国ではお金を払うという概念がなく、買い物をする際はこの六道銭を店員に見せるだけで大概のものを購入することが出来る。田舎の定期みたいだ。


 働いている人たちも、生活を充実させるためにボランティアで働いているらしい。

 俺も生活が落ち着いてきたら貢献しよう。これに関しては定食屋さんでお金を払うときに聞いた。


 そう、俺が求めている情報とはつまりはこういう感じのものだ。


 天国では年を取ったりしないのかとか置いてきてしまった家族の様子は確認できるのかとか、そういったことを知りたい。


 ただ、見てきた限りではここに来たその瞬間から皆が皆感覚的に魂とは何たるかを理解しているようにも感じた。まるで一般常識のように、知っていて当たり前に話が進んでいる。


 だからこその定食屋でのあの驚きぶりなのだろう。


 なぜだかは分からないが、俺にはその“感覚”がどうしても掴めなかった。本にも新聞にも欲しい情報が見つからなかったのは、間違いなくそれが原因だ。


 ーー多分、これについては他の人から話を聞いたほうが早いな。


 思い立ったらすぐ行動。話し相手を探すため、さっそく町を徘徊し始める。


 誰に話しかけたらよいのか分からなかったので、取り敢えず近くの団子屋で談笑していたおじさんたちに尋ねることにした。


「あ、あのぅ・・・」


 脱コミュ障。緊張したし抵抗感も半端じゃなかったが何とか話しかけることができた。


 生前はあんなにも芋人間だったのに、死んだら大胆になるもんだ。


「あ、お、お話し中にすみません。天国のことについて教えていただきたいのですがよろしいでしょうか?」


 おじさんたちは一瞬目を見開いたかと思うと、すぐにニカリと笑って空いているスペースをパシパシと叩いた。


「おう!いいともさ!ささ、こっち座りな」


 や、優しい!!


「ありがとうございます!」


 催促されるままに輪に混ざる。


「今ちょうど、今月の黄泉の国イベントについて話してたんだよ」


「あ、そのイベント俺も参加しますよ」


 さっきの新聞のやつだ。


 それを聞くなりわっとその場が盛り上がる。


「へえぇ、君もか!俺たちも全員出るんだよ!」


「ライバルが増えちまったなあ~」


「なんたって優勝したら転生ができるからなぁ」


 転生という言葉にスイッチが入ったように、皆が口々に話し始めた。


「良いよなあ、転生」


「浪漫だべ」


「ここも良いんだけどやっぱりなあ~」


 ・・・あれ、俺ここのことについて聞きに来たんだけど。


 いつの間にか転生談議に花が咲いている。


 ーーまあいいか。時間はたっぷりあるし。


 そこで、ふと思ったことを聞いてみる。


「あの、皆さんは転生がしたいんですか?」


 一気に視線が注がれる。

 唐突なことに驚いて思わず背筋が伸びた。


「不思議な質問するんだなあ」


「そりゃあ、勿論だども。俺達は皆、ここに来たその瞬間から転生することだけを考えて過ごしてるんだから。兄ちゃんはしたくねえのか?」


「えっと、俺は転生せずにずっとここに居たいです。転生すると、生きてた頃の大事な記憶とか失くしてしまいそうで。皆さんは平気なんですか?」


 俺の言葉を聞くなり、全員が顔を見合わせる。


「忘れるも何も、生きてた頃の記憶なんて持ってるやつ、ここにははなから居ないべ。兄ちゃん、頭でも打ったのか?」


 再び笑いが起きる。


 何だこれ。訳が分からなくなってきた。






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