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18話 パンフレット

 


 困惑する俺に典漸さんは続けて口を開いた。


「さっきも言った通り君達のように肉体を持った魂は本当に希少だから正しい対応が分からなくてな。一応生態としては妖怪とほとんど同じだから名義上めいぎじょうでは妖怪扱いをすることになってだ。た、どちらにせよ今の君は天国で生活することはもちろん転生も出来ないから、消去法で霜月京で暮らしてもらうようにしている」


 説得力しかない。


「な、なるほど」


「不満も沸くかもしれねぇけどこれが一番の道なんだ」


 不満があるわけではないけど学校が気になる。


 俺が学園という単語に引っかかっていることに気が付いたらしい典漸さんが、そうだったと机の上に置いてあったファイルから冊子の様なものを取り出した。


「これが明後日から君に通ってもらう魁蘭かいらん学園だ。君にはここの死神科に通ってもらう」


 何の冊子かと思ったらパンフレットだ。大きな見出しとともに制服を着た沢山の妖怪たちがキャッキャウフフしている写真が掲載されていた。


 大きな目が一つ付いた傘だとか河童らしき生物だとか顔のパーツゼロののっぺらぼうだとか、普段の俺であれば最後まで見ることなく卒倒する様な内容のものだったのだが、生憎あいにくそうはならなかった。


「セーラー服だ・・・」


「ん?ああ、制服か」


 俺が驚くことを想定していたであろう典漸さんは素っ頓狂な声を上げた。

 おそらくフォローの言葉まで考えてくれていたのだろう。しかしその必要は全くない。


「俺・・・っ、今すぐにでもここに行きたいですっ・・・!」


 嗚呼、セーラー。

 そういえば長らく君を見ていなかった。オアシスを失った僕の眼球はずっとカッサカッサでした。


 何を隠そう俺は重度の制服オタクだ。高校時代も、1日の大半を制服カタログを眺めることに費やしていた。気持ち悪いと言われようと、変態だと罵られようと、俺の制服を愛する気持ちが揺らぐことは決してない。

 ・・・ちょっと目から海水が出るくらいだ。


 最初は脚フェチから入った俺だが、今ではセーラーブレザーは勿論カフェ店員からキャビンアテンダントまで幅広いジャンルの制服に余すことなく愛を注いでいる。


 セーラー服・・・と呟きながらほろほろと涙を流す俺を見て、典漸さんはここに来て初めて引きつった笑みを浮かべた。


「そ、そうか。嬉しいのならよかった」


 や、優しいっ。俺の制服好きを咎めないのは典漸さんが初めてだ。まあ学校では自重していた(つもり)から、家族や親戚しか知らないのだが。


 再びパンフレットに目を落とす。涙を浮かべたままページをめくり、内容を読むことなく制服を見、捲り・・・。


 それを繰り返すこと5分。


 ーー10分


 時折神に感謝を述べる。


 ーー20分


 ーー30分


「いい加減にしろ!」


 しびれを切らした典漸さんが、俺の手からパンフレットをものすごい早業はやわざで抜き取った。


「ああっ、セーラー!」


「ああじゃねえっ!没・収・だ!!」


「ええーー!そんなあ!」


 そう言ってなおも食い下がろうとする俺に典漸さんは遂に拳骨げんこつをくらわした。


「痛え!」


「パンフレットに説明が全部書いてあるからそれを見てもらおうと思ったのに、お前制服しか目で追ってねえじゃねえか!しかもそれなのにまだ全体の3分の1も進んでねえって、どういう眺め方したらそうなるんだよ!正しい見方をしろ!」


 遠回しにきめえって言われたが、我に返って気が付いた。


 ーーやっべえ!30分も経ってる!


 平日でも平均4時間はカタログを眺めていた俺からすれば風のような時間だったが、それとこれとは違う。


 確実に人を待たせてはいけない時間の長さだ。


「す、すみませんっ!以後気を付けます!」


「全力で反省しろ。ともかく、俺が説明し終わるまでは絶対にこいつに触れるなよ。見ることも許さん」


 そう言って典漸さんはパンフレットを再びファイルに戻した。


「ーーまあ、人となりは大体分かったよ。それで、さっきも言った通り君には魁蘭学園の死神科に通って貰う」


「は、はあ」


 なるほどっつーか、ん???


「え?し、死神!?」


 驚きで跳ね上がった。


 典漸さんはそんな俺ににっこりと笑う。


「さっき言ったよな」


「・・・そんな気がします」


「いつから記憶がないんだ?」


「多分そこからです」


「ならいい。・・・全く、これから先がが思いやられる」


 う・・・。ぐうの音も出ない。

 というか、よりによって死神かよ。もっとあっただろ。制服屋さんとかクリーニング屋さんとか。


「取り敢えず、今日から4年間は魁蘭学園の学生寮で暮らして貰う。利一君がここに慣れるまではこちらでサポートさせて貰うから、不自由なことがあれば連絡してくれ」


 そう言うと典漸さんは胸ポケットから名刺を取り出し手渡してくれた。


「メ、メアド交換だ」


「電話番号だけどな。今日は夜も遅いしここまでにしておくか。何か食いたいものあるか?」


「いえ、大丈夫です」


「そうか?じゃあ先に寮に行くか」


 そう言って典漸さんはゆっくりと立ち上がった。


「あ、あの!典漸さん、ありがとうございました!」


 助けてくれて。

 そういって頭を下げると頭上で小さな笑い声が聞こえた。


「俺も良い息抜きになったよ、ありがとな。


 ・・・まあ、そんなに不安にならなくてもそのくらい神経図太い方があの学園では上手くやっていけるんじゃないか?あそこは君みたいな変人の集まりだから」


「へ、変人認定が早い!」


「事実だろ?神経の図太い変態だ。」


「へ、変態だなんて、えっへへ」


「?なに喜んでるんだ?」


 いきなり笑い出した俺を典漸さんは心配そうに見つめた。


「・・・嬉しいんです。俺、生きてた頃こういうやり取りを誰かとするの、ずっと憧れてたから」


 こういう普通?のや会話がどんなことよりも嬉しかった。

 そんな俺を見て典漸さんはぽんっと俺の頭に手を置くと、自信ありげな様子で口を開いた。


「大丈夫だよ。居場所の心配はするだけ損だ。皆確かに癖は強いが、必ず君を受け入れてくれる」


「・・・典漸さん!」


「君がその性癖を露呈しなければな」


「ひどいっ!」


 典漸さんは楽しそうに笑うと手袋をはめた。


「今度こそ寮に帰るぞ。残りは移動しながら話そう。立てるか?」


「はい、大丈夫です」


 全快ではないが何とか歩けそうだ。

 お粥のパワーはすごい。


 典漸さんもそんな俺の様子を見て安心したように頷いた。



「それなら、折角だしタクシー呼ぶか」








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