14話 最悪の最後
ゴポゴポゴポッ
息、苦しい・・・!
浮力というものは働いていないのだろうか。前世では有り得なかったようなスピードで下へ下へと沈んでいく。
三途の川は想像していたよりもずっと深かったらしい。辛うじて開くことのできた目で水深を確認しようとしたが、暗すぎて底が分からなかった。
ーー早く上がらないとっ!
必死になって手を掻いてみてもまるで手応えがない。
ただただ底へと沈んでいくことしか出来なかった。
・・・何で。
ふざけんな。せっかく、折角あとちょっとだったのに。
何をやっても上手くいかない。
まるでこの世界から否定されているように。
ゴポゴポゴポッ・・・。
沈み始めて幾分もたたないうちに月明かりすら確認できなくなった。
全身にしつこく纏わりついてくるのは、信じられないくらい真っ暗な、闇。闇。闇。
不気味なほどに暗かった。
加速も減速もすることなく、無音の空間を落ちてゆく。
呼吸を我慢するのももう限界だ。
諦めるという選択肢しか残されていなかった。
ーー嫌だ、ここで、こんなところで全部終わってしまうなんて。
ここに来て今まで、不運な身の割には前向きに向き合って来てきたつもりだった。
馴染めないなりに馴染もうと努力してきた、つもりだったのに。最後の最後まで、事態が好転することはなかった。結局全部無駄に終わってしまった。
不平等だ。俺が一体何をしたっていうんだ。
糞ったれだ、こんな世界。
ーー大嫌いだ!!!
意識を手放す寸前、只でさえ光の一切差していないこの暗闇の中でも、その存在をはっきりと確認できるほどの黒い“何か”が、こちらを飲み込もうとしているのが分かった。しかし、それを見て何かを思うことはもう無く、ただただなすがままにその光景を見つめていた。
・・・疲れた。
何もかもがどうでもよくなり、全身の力が抜ける。
これで、全部終わりだ。
俺は静かに目を閉じた。
頭の中に声が響く。
「目を覚ませ童。呼吸ならとうの昔にできておろう」