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13話 チャンス到来は破滅フラグ

 



 ついにスタートした黄泉の国イベント。


 人の勢いに押されて転びそうになったが、何とか耐える。一度怪我したら治らないため細心の注意を払わなければならない。なんとも不便な体だ。


 つーか、皆足早すぎだろ!


 老若男女問わずってこういう意味かよ。


 別にボルトみたいに速いわけではないのだが疲れないからかもはや短距離走の走り方だ。俺は現世の頃と同じように走っているつもりなのだがあっという間に置いてけぼりを食らってしまった。


 ーークッソォ。


 正直想定の範囲内だったのだが実際に見るとものすごい迫力だ。勢いに押され転ばなかっただけでも褒めてほしい。


「おおっとぉ!!皆さんなかなか良い走り出しです!」


 実況が流れる。


 いや良すぎだろ!10キロの長距離走全員クラウチングスタートで始めてたぞ。


 ーーヤバい、もう既にきつい。


 後方集団がどんどん遠ざかって行くというのに思い通りに足が動かないのが腹ただしい。


「先頭集団、長距離走5キロ地点まで到達しました!」


 暫く一心不乱に走っていると、再び実況が流れてきた。


 おいおいおいおい、冗談だろっ!


 俺なんて貧血になりながら必死になって走って今ようやく2キロの看板が見えてきたところだ。

 勿論のこと体力はもうじき底をつく。その証拠に口の中は血の味がしてきた。


 もういやだ、こんなところ早く抜け出したい。


 いつの間にか周りには誰もいなくなっていた。本当に皆参加しているのだろう、無人の屋台だけが横目に見える。


「先頭集団、自転車レースに突入!ここからが盛り上がりどころです!」


 クソ。何が優勝だ。全然駄目じゃないか、最悪だ。


 俺の通っていた高校には持久走大会なんてなかったし、だからこそ入学したのもあるくらいなんだ。

 いきなりこんな長距離走れる訳がない。


 ーーーきっつい!


 三日間生活してみて感覚的に分かった。俺はこれ以上天国に居たら死ぬ。

 だからこそ、これしかないのに。転生するチャンスは、このイベントしか。


 もはや誰も見えなくなってしまった。

 月だけが、夜空にどっしりと構えている。


 こんな終わり方あるかよ。


 せめて体力があれば、走る気力があれば何とかなるかもしれないのに。


「ようやく最後の一人が自転車に乗り上げました!頑張ってください!」


 最後じゃねえ、俺がいる。ふざけんな。


 もう無理だこんなの。ゴールまで辿り着くわけがない。

 なんで俺、こんなに必死になってるんだろ。馬鹿馬鹿しい。


 ・・・やめてしまおう。


 例え今から俺の体力が全回復したところで先頭集団どころが後方集団にさえ追いつくことは不可能だ。


 どうせ無理なのにわざわざこんなきつい思いをして一体なんの得になるのだろう。


 そんな思考が頭を駆け巡っていると、一瞬だけ空気がざわめいた。


 なんだ?


 辺りを見渡しても、誰もいない。

 気のせいか。走ることに意識を戻そうとすると、ふと誰かに押されたかのように身体が軽くなるのを感じた。


 あれ?


 さっきまでの疲労はどこに行ったのか、力がみなぎってきた。

 自然と地面を蹴る足に力が入る。


 なんだろう、何故かは分からないけれどいける気がしてきた。

 なるべく速く、前に前にと足を進める。体が思い通りに動くことがこんなにも気持ちのいいことだとは。


 天国は不思議なことばかりだ。

 奇跡的に元気が戻ったのはいいものの、元から元気な人達に俺はどうやって追いつけばいいのだろうか。


 どうしようかと頭を悩ませつつ、ふと周囲の様子を見渡してみると、青々と茂っていたはずの草原が、一つ残らず茶黒く変色してしまっていた。


 え、なんだこれ。ここ天国だよな?

 まるでこの世の終わりのような光景だ。


「一体どうしたのでしょうか、先頭集団含む全ての魂が一斉に速度を落としてしまいました!かく言う私も、なんだかやる気が削がれました。皆さんどうか頑張ってください」


 実況が流れる。先程までより随分と声が小さくなっていた。


 良く分からないけれどもしかしたらやばい状況なんじゃないだろうか。


 あっという間に自転車乗り場に辿り着くと、急いで乗り継いだ。

 ともかくゴールを目指さなければ。周囲の心配はこの大会が終わった後だ。


 必死になって漕いでいくと、やっと人影が見えてきた。


 よし!追いついた!


 あれ、何で皆こんなにゆっくり漕いでいるんだろう。最初の迫力は何処へ行ったのやら、レースというよりサイクリングという感じになっている。


 楽しそうなのには変わりがないが、覇気が感じられない。


「あの、どうしてこんなにゆっくりされているんですか?」


 正直そんな暇はなかったのだが、気になったので思わず聞くと、会話しながら自転車を漕いでいた集団の一人がこちらに振り返った。


「ん?ああ、どうしてかって言われてもなぁ~。だって、どうせ優勝なんて無理なんだから、必死になって競技に取り組む必要なんてないだろう?こういうイベントはみんなで楽しむのが一番さ」


 無理って・・・。

 勿体ない。可能性はゼロじゃなかったはずなのに。


 そこでふと思い出した。なんだろ、さっき俺も同じようなことを思った気がする。


 いやいやいや、考えてる場合じゃない。

 反則をしてしまった気分にもなるが、この状況はラッキーと捉えなければ。


「ありがとうございました!お互い最後まで頑張りましょう!」


 そう告げるなり自転車をかっ飛ばす。チャンスだチャンス。良く分からない状況の時こそ前向きに考えよう。


 そうこうしているうちに、俺はあっという間に上位集団に食い込んでしまった。


「先頭集団、遠泳に突入しましたぁ~」


 実況が流れる。

 これは、もしかしたらもしかするかもしれない。


 自転車を乗り捨て、そのままの勢いで川に向かって飛び込んだ。

 水泳は得意ではなかったが、不得意でもなかった。全力で泳げばそこそこのスピードは出せるはずだ。


 が、


 ズボン!!!


 水に浸かった瞬間、一切の水しぶきを上げることなく沈んでしまった。


 ーーー嘘だろ!?


 ゴポゴポゴポッ・・・


 天国に始めてきた時のことを思い出す。

 気にも留めていなかったから忘れていた。


 俺、三途の川で溺れたんだ。


 助けてくれた人達の言葉が脳裏によぎる。




 “三途の川で溺れる魂なんて初めて見たべ”












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