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12話 スタート

 


 朝、騒がしい声で目が覚めた。

 格子こうしの外を覗いてみると、まだイベントまでかなりの時間がある筈なのに町中お祭り騒ぎだった。


「すげえ盛り上がり」


 最終的に三日間本当に部屋から出ずに過ごしたのだが、やはりというか干し柿三つで乗り切るのはきつかった。立っていることすらやっとなくらいだ。これ以上は本当にやばい。身体が持たない。

 力が入らないし思考もままならないのだが、俄然頑張るしかなくなってしまった。優勝しなければ本格的に死ぬ、もう死んでるけど。


 町ではあちらこちらに黄泉の国イベントについてのチラシが貼りだされていて、人でごった返していた。

 イベントにより多くの魂がここに集結しているのだろう。情報収集のために一旦町に出てみることにする。チラシを見ると、丁寧なことに開催地の地図が記されていた。


 ーーただ、内容はざっくりしてんなぁ。


 大きな円の中央に、ずば抜けて高くそびえ立つ荘厳そうごんな山と、周囲の七つの山脈、その外側の四方にある四つの大陸が描かれている。恐らく天国の見取り図だ。


 黄泉の国イベントは四つの大陸のうち南に位置する贍部州せんぶしゅうというところで行われる予定らしい。幸いなことに、俺はその大会が開催されるらしい贍部州いた。三途の川ならどこでもいいわけではなかったらしい。


 それにしても、中央のあの山の大きさといったら普通のじゃない。地図によるとこの馬鹿みたいに広い天国の面積の三分の一はあの山で占められているようだ。どうりでどこからでも見えるわけだ。


 地図には贍部州の地名しか記されていないが、四つの大陸の場所は大体理解した。


 どれだけ見晴らしのいいところに行っても七山脈すら見えないんだ。他の三大陸で開催されていたら絶対に参加できていなかっただろう。


 全然実感沸かなかったけど、天国は思っていた以上に広いようだ。


 ーーくそ。眩暈めまいがする。


 寝ても動いても地獄だ。

 せっかくのお祭りなのに全然楽しめないし、俺だけノリの悪い奴になっている感じがどうしても解せない。


 なったことないから分からないが、確実に栄養失調になってる。なったことないから分からないけど。


 ともかく体調優先。数え切れないほどの懐かしい屋台には心惹かれるものがあるし射的も金魚すくいもしたかったが、ここは諦めるしかなさそうだ。


 俺は後ろ髪を引かれる様な思いで宿に戻った。


 ***********


 ***********



 そうして訪れたイベント1時間前午前1時。憔悴しきった俺はふらふらの状態で三途の川へと向かった。周囲の人々は千鳥足になっている俺のことを芸か何かかと思ったらしく、楽しそうに見物しては盛り上がっていた。わざとじゃないし悪意が込められていない分本当に恥ずかしかった。


 空はもう真っ暗だ。


 河原に辿り着くと特設屋台がずらりと並び、信じられないくらいの人、いや、魂が集まって来ていた。


 ーーここに居る人全員参加するのかよ!?


 勝てる気がしない。よりによって俺の身体もこの状態だ。


 唖然としている間にも人は次々に集まって来ている。


 月と提灯ちょうちんの光が三途の川の水面を美しく照らし上げ、 盛り上がる会場とは裏腹に絶望に打ちひしがれていく。前向きな考えなんて出来る訳がなかった。


 ・・・いくら何でも人多すぎじゃね?


 屋台を眺めているといつの間に時間が経ったらしい、午前二時の鐘が鳴る。


「お集まりいただきました魂の皆様、誠にありがとうございます!只今より、お待ちかねの黄泉の国イベントを開催したいと思います!!」


 司会の女性が合図を送ると、驚くほど大きな歓声が上がった。


「いやいや~、素晴らしい盛り上がりですね!今夜は最高の夜になりそうです!


 それでは、気になっておられることでしょう今月の黄泉の国イベントの競技内容について説明させていただきたいと思います。


 今回の種目はトライアスロン!10キロの距離を走った後、15キロの自転車レースをし、最後には3キロの遠泳をしていただきます!


 優勝者には転生、上位10名に入った方には転生までの時間を300年短縮するという豪華プレゼントを用意させて頂きました!


 皆で一緒に素晴らしい夏を過ごしましょう!!」


 ほうほう、流石はあの世。現世のトライアスロンとは競技の順番が逆なのか。


 ーーーって!!


 いやいやいやいや、それどころじゃない。何だこのぶっ飛んだ競技内容は!お年寄りが大半なんだぞ!現役バリバリのプロがこなす内容じゃねえか!


 イベントだというから舐めていた。これでは優勝どころか長距離すら完走できずに終わってしまいそうだ。


「それでは参加する皆様は所定の位置にお着き下さい」


 ぞろぞろと人波が移動する。


 ざっと見ただけでも数万人はいる。こんなに沢山の人が一気に走るなんて、何というか東京マラソンみたいだ。賭ける商品は異なるけれど。


「それでは皆さん!老若男女問わず、正々堂々スポーツで語り合いましょう!」


 スタート位置に参加者たちが移動したのを確認して、司会の人が声を掛けた。


 も、もう始まるのか。準備運動とかしなくても大丈夫なのか?あ、怪我しないのか。


「位置についてーー!」


 心臓の鼓動が高まる。


 非常に不味いことに、人波に押されてスタート位置より随分と遠くに来てしまった。


「よーい・・・」


 会場全体がピリリとした雰囲気に包まれる。


 ああ、しんどい。こうなったらヤケだ。



「ドン!!!」



 始まりの合図がした。

 口で言うのかよ、とか、色々突っ込むところはあったのだろうが、正直それどころじゃなかった。


 数万、いや、もしかしたら数千万を超えるかもしれない数の魂たちが、一斉に走り出す。



 ーーー絶対に優勝しなければ。



 天国で衰弱死するなんて御免だ。











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