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聖女

精霊推敲教団の街、と言っても街にしては大きく、まるで国のようだ。

それもそのはず。神を拝めるのと同じ様に、この世界では精霊を崇め、暮らしている。だから教団のあるこの街はとても発展していて、人も建物も多い。

そんな街の中心部にあるのが世界最大の教会だ。

なんとか教会についたのだが、ふと気になるものを見てしまった。

教会の数多くある窓の一つから人が身を乗り出していたのだ。

(……女……?)

窓から身を乗り出しているその女はあたりを見回し、なんと、その窓から外に出ようとしていたのだ。

女がいる所はおそらく13階。落ちればただの怪我では済まない。

そう思ったその時。

女が外壁から足を滑らしたのだ。

「っあ……!」という女のこえが聞こえてきたのよりも早く、ルヴェールの身体は動いていた。

できるだけ速く走り地面を力強く蹴る。外壁にあるわずかな出っ張りを頼りに足をかけ、落ちてくる女に向かって飛んだ。

必死になって伸ばした手は運良く女の服の裾を掴むことができた。そのまま女の身体をこちらに引き寄せ、その女を守るようにきつく抱くと、眼下にあった木へと突っ込んでいった。

バキボキと枝が勢いよく折れる音の次に、地面に落ちた時の鈍い音が辺りに響く。

もちろん下敷きになったのはルヴェールだ。

「っ〜〜!!!!!」

地面に落ちた時の痛みと、木の枝によってできた擦り傷のダブルの痛みに流石のルヴェールも苦しむ。

しかし、そのおかげで女の方は無事のようだ。

頭は打っていなかったが、骨を痛めてしまったかもしれない。ルヴェールは痛む身体をかばいながら、そっと女の身体から腕をはなす。

ルヴェールの上にいた女が慌てて起き上がったのを感じた。

すると、温かい何かが全身を包んだと思うと、みるみるうちに痛みが引いていき、ルヴェールはなんと起き上がることができた。

「あっ、あの!他に痛む所はありませんか?!?」

そう言って心配そうな顔でルヴェールの側にいる女は見たところ年下で、どうやらルヴェールの傷を回復魔法で癒してくれたらしい。

とりあえずルヴェールは彼女を安心させる為に、形だけ微笑んで頷いた。

「私は大丈夫です。それよりも貴女のほうは?」

相手の見た目が高貴な者のようなのでつい癖で礼儀正しくしてしまった。

女のほうも安心した顔で首を横に振り、ルヴェールの髪についた木の葉を指でつまんでとった。

「危ない所を助けてくれて、有難うございました。私の名は、アリンナ・クロア・ベリールです。このご恩、必ずお返しします。」

アリンナ・クロア・ベリール、と聞いてルヴェールは目を丸くする。なぜなら精霊推敲教団、オリヴィエ教団の頂点に君臨する者が導師カナシン。その妹の名がアリンナというのだ。

ルヴェールは慌てて立って敬礼をしていたが、我に返ってそっと腕を下す。

「ルヴェールと申します。このような形ですが、貴女に会うことができて光栄です。アリンナ様。」

その時、アリンナがルヴェールの後ろを見て険しい顔つきをしたので、何事だとルヴェールは背後を振り返った。

ルヴェールらの背後にいたのは、二人のオリヴィエ教団兵で、兵たちの目はアリンナのことを見ていた。

すると、そのうちの一人の兵がアリンナの名を呼んだ。

「アリンナ様。なぜこんな所に居られるのですか?お部屋にお戻りくださいませ。」

アリンナは、ルヴェールの前に立つときっぱりと「嫌です。」と言った。

「私は何としてでも精霊王に会わなければなりません。」

「例え導師カナシン様の妹といえど、精霊王に会うなど無理です。おとなしくお部屋にお戻りくださいませ。三度同じ言葉は言いませんよ……。」

そして兵は、装備している剣に手をかけた。

さすがのルヴェールもこれには黙っていなかった。素早くアリンナの前に出る。

「何だ貴様。関係の無い者は何処かへ消え失せろ。」

二人の兵に睨まれるルヴェールは内心で舌をうった。なぜなら武器を自分の部屋においてきてしまったのだ。

兵たちの脅しを受けてもその場からルヴェールが動こうとしないので、とうとう兵たちが剣を抜こうとした時、突然、一人の兵の頭に黒い猫が乗っかり、その上で暴れたのだ。

「うわっ!?なんだ、こいつっ!!」

突然の出来事に驚いていたルヴェールだが、ハッとしてアリンナの手を握った。

「アリンナ様こちらへ!」

「っえ!?っあ、はいっ!!」

ルヴェールらが隙を見て逃げたので、兵たちは慌てて追いかけようとするが、走り出そうとした足がゆっくりと止まっていき、そしてその場に崩れ落た。

静かに寝息をたてる兵たちの後ろに立っていたのは宿屋のオーナー、カミアンで、先程暴れていた黒猫も一緒だ。

「ちょーとだけ寝ててちょうだいねぇ〜。さ、もうひと働きするわよー。」

『……本当、働き者ね。』

黒猫が、倒れた兵士達を見てそう言う。

「仕方ないじゃない。私達の"ホンモノ"が命令してんだから。逆らえば、存在を消されちゃうし。本当、使い方が荒いのよねー。」

カミアンはそう言うと、右手の指を軽く鳴す。それとともに彼女たちの姿は消えた。


***


「とりあえず、なんとか逃げ切りましたね……。」

カミアンの宿屋の広場まで逃げて来たルヴェール達は、辺りを見渡してから息をつく。

すると宿屋から狙っていたかのようにカミアンがあらわれた。

カミアンはアリンナを一目見るなり、

「ルヴェールくーん。ご一緒してるのは、オリヴィエ教団の聖女さんで間違いないかな?」

「………………。さぁ?」

「ちょっと!あんたがアリンナ様と祭の人混みに紛れてここまで二人のオリヴィエ教団兵から逃げて来たの知ってんだからねー!」

「そこまで知っているのですか……?」

アリンナが驚いた顔でカミアンを見た。

「この人は表の顔は宿屋のオーナーですが裏で情報屋もやってるんですよ。」

ルヴェールがそう言うとカミアンは、アリンナに向かってウインクする。

「ウチの情報網はすごいのよ〜。で、ルヴェール君。良い情報を教えてあげる。今、街の出入り口は多数の警備兵がウロウロしてるわ。そこで、街の東にある水路に行ってみなさい。良いことあるから。」


***


あの後、カミアンに言われたとおり東の水路に行くと街の外へつながる道があり、ルヴェールらは無事街の外に出ることができた。

「で……これからアリンナ様はどうするのですか?」

ルヴェールの問いにアリンナはひどく困ったような顔をした。そしてそのまま辺りをウロウロと歩き回る。

「流れでここまで来ましたが、どうやって精霊王に会うのか……。」

「考えていなかったと…?」

アリンナは恥ずかしそうに頷いた。

「……。なぜ、精霊王にお会いしたいのですか?よければ理由を聞いても?」

アリンナは困ったように俯いて黙ってしまったが、一言、兄上様が。とつぶやいた。

アリンナの様子からどうやら詳しいことは言えないらしい。

精霊王の居場所を知っているルヴェールはアリンナにそのことを伝えるかどうか悩んだ。

しかし、正直なことを言うと自分には関係の無いことだ。

だが、アリンナの今にも泣きそうな顔を見ていると二年前に粉々に砕けた心の欠片が少しだけ動いた気がした。心が壊れてもお人好しなのは、どうにもならないらしい。

「……。行きましょう。」

「え……?」

きょとんとしたアリンナの顔を見ながらまた、形だけの微笑みを浮かべた。

「精霊王のもとへ。今ならまだ間に合います。」

精霊王、レナータがいるはずの北のフェラリウス遺跡へ。











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