34話 決闘
「紋章だと?」
俺はしつこく問う。
キグナスは一呼吸を置いてから話し始める。
「ああ。俺の大切な鳳凰の紋章が描かれたリストバンドを奪いやがったんだ。だからお前たちを利用して盗賊を捕まえてきてもらったわけだ。けどあいつはスカヌハ王国の店に売っちまいやがった。だから殺してやろうと思った」
「たしかに盗んだのは悪いかもしれねぇ。けど盗賊っていうのはそういう生き方しか出来ないんだよ。わかってるんだろお前も。それに殺す必要はないだろう」
リストを擁護するつもりはさらさらない。だけど、職業上仕方ないとはいえ、仲間をみすみす殺される事なんてできない。キグナスは頭を上げて高笑いしてみる。
「なにが可笑しい!?」
血が上るのを抑えきれず思わずカッとなって言う。
「悪い悪い。私は此れでも王に遣えている者故、盗まれたと知られてしまっては立場が無いんだよ」
彼は頭を傾げて困った表情をしている。
俺はそんな立場に立ったことは今一度も無いわけで。キグナスの気持ちを汲み取る事はできないかもしれない。でも殺すのは間違っている。
窓から明かりが差してきている。日が沈んでてきた言った所か。セリナは俺の後ろに居て動いてはいない。
「悪いが話はここまでにしてもらおうか」
キグナスの動きに注意しながら、剣を取り出す。
俺は気づかないうちに後ろを取られていた。能力を使う隙も与えてくれやしない。キグナスの冷気刃斬の詠唱は終わっており放つだけの状況。一体どうしたら......
「さようなら。情報を知った以上生かしておくわけにはいかないからね」
死、死ぬッ!
「二斗危ない!」
「セリナ!」
セリナは俺をかばって、氷の刃を受け止める。
「ははっ。こんな奴に命を落としてしまうとは、セリナ王女も随分とおせっかいなお人だなぁ」
頭を抱えてクククと笑ってみせるキグナス。
「キグナス! ようやく化けの皮が剥がれた様だな。お前だけは絶対に許さねぇ」
俺は剣を強く握りしめる。セリナはこのままではまずい。頬から、血がなだれの様に垂れてきている。
「言葉だけは一丁前だな。行動で示してみろよ」
また、テレポテーションの力を使ったか。一体何処にいやがる。
「透明!」
まずは相手に見つからない様物陰に隠れるしか無い。隙を見て仕掛けてやる。
「そんな事していて良いのかな?セリナ王女が危ないんじゃ無いのか」
フリーズバーストを打ってくるのを俺は待っていた。
「死ねぃ!」
良し来たな!氷の刃を俺は剣で弾きかえす。氷は向きを変えキグナスの方へとスピードを倍にして飛んでいく。
キグナスは何事も無いかの様に次元閉鎖を使い氷を一瞬にして別次元へとおいやった。
「ほう。大した剣捌きだな」
キグナスは感心してお世辞を述べる。まるで俺を試すかの様に。
「まぁな。これも王宮にあったゲームのお陰だな」
ゲームの体験が此処で生きてくるとは驚きだ。
ベラベラと話している時間は今の俺には無い。戦うべきか逃げるべきか。どちらにせよ一筋縄では行かなそうーー階段を降りてくる足音が聞こえる。
「にいやん! こっちだよ」
リストが手招きをしている。どうやら動けるまでには回復したらしい。
セリナの回復魔法のお陰か。
「馬鹿! 今それどころじゃっ」
「まだ生きていたのかあの娘!」
喧噪を変え彼女をギロッと睨みつける。
「瞬歩!」
リストは一瞬にして俺とセリナを担いでいつの間にやら外に出ていた。
「とりあえず助かった。ありがとう」
リストは照れ臭いのかそっぽを向いて。
「無事でよかった」
そう呟いた。
「でも、驚いたよ。あんな能力を持っていたなんて」
俺はセリナを担いで、街を後にする。奴が追ってくる前に早くここから立ち去らないと。
「盗賊ならではの能力なんだ。頻繁に使うことは出来ないんだけど」
「今は使えないのか?」
「ああ。悪いけどな。セリナの状態が悪いのは見れば分かる。早く手当してくれる所に行かないと」
俺は装備品をリストに持ってもらい、路地を抜ける。




