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声のない魔法使い。ーー学園。  作者: 一条 いちか
Chapter One
8/10

変えたい、変わりたい、君によって。

教室のドアがノックされ、開けると見慣れた顔が現れた。



「どうして今日も来るんですか」


「お前だって来てんじゃねぇか」


「私の教室です!」


「ふはっ、知るかよ」



いつもきっちり着ている制服。

着崩し始めた彼の、空気が違うことに気付く。



「?……なんかお疲れですか?」


「……なんもねぇよ」



憂いを持った笑み。

ドアの前を開け教室へと入れる。



「(なんかあったのかな?)……コーヒーでいいですね」


訊かない方がいいのかと、

そっとして置く。




「お前ちょろすぎ。あ、砂糖いれんなよ」


「!!(クッそうっ!あの猫被りに騙された!)何もないんですか!」


「何かあったなんて言ってねぇだろ。お前が勝手に勘違いしたんだよ」


「……(砂糖めちゃんこに入れてやろうかな?)」


「お前が飲めよ」


「……黒井さんは心を読む能力を持ってるのですか?」


「はっ、な訳ねぇだろ。お前が分かりやすいんだよ」



小さな音を立ててコーヒーを置く。

今日のおやつはマドレーヌ。


横目に真を見れば、飽きずにあの薬学の論文書を開いてソファに寛いでいた。


そして変わらずカフェオレにマドレーヌを頬張る雛依。



(けど、やっぱり何かあったんですかね……)



何もないと言っておきながらも、やはり真からはいつもと違う空気がある。






「……」


保健室で氷の結晶を吹きかけられて以来、身体が軽いだけじゃなく、清々しい程に気分がいい。

そして毒されてしまったかの様に、雛依の隣が酷く心地い真。



(あぁ、だからあの時『手を打つ』って言ってたのか……)



餌付けされた動物の様だ。

一度味わったあの出来事が、雛依が出す空気を美味しく感じさせる。


得をしたくて雛依の側にいる訳ではない。

餌付けされて側にいるのも癪だ。

だがそれすらも気にならない程、雛依の隣を気に入ってる自分に、真の中で燻っていた気持ちが晴れて行く。



「黒井さん、次英語ですけど行きますよね?」


「……行く」


「では、先に行って下さい」



真を考えの海から引き揚げた本人が、さりげなく視線を外す。

後片付けをしてから行くので…と言った雛依に真は不敵に笑った。



「その手には乗らねぇよ。……あぁ違うな、」



彼は目を細め、活き活きとした笑みと反対なことを言った。



「そんな寂しいことを言わないで一緒に行こうよ…一条さん?」



語尾が少し上がり、楽しんでいることも隠さずに口元を歪ませる。



「い、嫌ですよ!黒井さんと一緒に移動教室なんて、自殺行為です!」


「ひどい言われようだなぁ」


「傷付いた、みたいな顔と声を作っても意味ありませんよ」


「はっ、……教室に着いたら解放してやるよ」


「それでは意味がないんですってば!とにかく先に行ってて下さい!」


「…うるせぇ、お前も来んだよ」



雛依の嘆き声なんて完全スルーで、部屋と化してる教室から連れ出す。








「もう、何てことでしょう……。授業中ですら突き刺さる視線…明日から女子の対応に追われる…」



腕を掴まれたまま選択授業に来た雛依。

道中色めき立った女子を、苦笑いでやり過ごすした。



「あ?それは俺も一緒だろうが」


「女の子は陰湿なんですよ」


「……お前に勝てる奴がいたら見てみてぇよ」



権力も能力も。



「なんと!か弱い乙女に向かって」


「ふはっ、どこがだよ。お前が自己防衛すらできないくらいか弱かったら、こんな遊びに巻き込んでねぇよ」


てか、話しすらしてねぇよ。とさらりと続いた言葉は計算か……なんて思う間もなく雛依の心は喜んでしまう。



「…くっそう…遊ばれてる…。お口がお上手なんですから」


「バァカ、…ま、精々頑張れよ」


「………、黒井さんもですよ」


「!……ふはっ」



落ち着いた声で告げた意味を汲み取った真は、楽しそうに笑い席を立つ。

そして、爽やか過ぎる笑みを浮かべて、周りに挨拶をし教室を出て行く。




「……」



処置した時こそ薄れたが日に日に増していった、足に巻き付いた渦。


(先程の一件が一番増しましたね……やっぱり2人で来るのはまずかったかな…いや、来方が悪かった…)



不穏な流れに億劫になりながらも、雛依も帰る支度をする。



(足、大事にならなければいいけど……)



これから起こるであろう不運な出来事。

今はいない彼の背中を想い、足を進めた。




ーーーー



(あいつの周りが居心地がいい)


変わる日々と変わらない物がとてつもなく怖い


(俺は変われない)


抱えてる闇があるから。


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