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声のない魔法使い。ーー学園。  作者: 一条 いちか
Chapter One
7/10

焦がれた距離に錯覚しそうになる。

「どうしてここにいるのかな?」


「黒井さん……」



真は職員室に寄ったついでに空き教室にサボりに行こうとして、上った階段の先で思わぬ遭遇をした。



「ここ、職員しか使わない職員棟だよね?」



違ったかな?なんてコテンと顔を傾けるあざとさ。

気まずそうな表情の雛依を余所に、真はニヤつかせる。



「職員室なら2階だよね?なんで一条さんはこの空き教室しかない4階にいるのかな?」


「(猫かぶり…)少し探検をしてみようと「しかも、それ、ケトルだよね?」



確信付いてる真を欺こうなんて自殺行為。

しようとするなら、後日何か報復がくるに違いない。



「はい、ごめんなさい」


「ふはっ、案内しろよ」


「…くっ、(猫かぶりが)」


「似た者同士だろうが」


「…飲み物、紅茶とコーヒーしかないですけど!」


「コーヒー」



観念して雛依が案内した空き教室は、いい感じに改良された一つの部屋だった。

もともと綺麗な教室だ。使いやすいソファとローテーブル、ラグや日常品を置けばただの部屋になる。



「砂糖とミルクは?」


「いらねぇ」



甘いのを想像したのか顔を顰めた。

コト、と置かれるコーヒーとビスケットとクッキー



「キッチンまであんのか」


「小さいですけどね。先生が使った教室を頂いて過ごしやすい部屋にしちゃいました」



自分はカフェオレにした飲み物を置いて、ビスケットに手を伸ばす。



「お前…クラス違うから気付かなかったけど、ほとんどここにいんの?」


「うーん、…まぁ必要な授業以外はここにいる事が多いですね」


「ふはっ、引きこもりじゃねぇか」


「授業サボる不良に言われたくないです」


「誰が不良だ……課題は終わらせてるに決まってんだろ」


「あ、ちょ、頭ギリギリするのやめて下さい。握り潰さないで!すごく痛い!」


「…ざまぁねぇな」


「素晴らしいほどのゲス顏ですね!男女で不利ですよ!公平にいきましょ!」


「いや、能力持ってる時点でお前のが有利だろ」


「…………」




「それもそうか」と雛依はカフェオレに手を伸ばす。

保健室の一件から、雛依の口調は少しだが砕け、壁も壊れたような気がして真は心地よい優越感に浸れた。


真にとって雛依は特別になりつつある。

それが恋愛なのか友情なのかはまだ分からないが、特別な存在ではあるのだ。



「……」

「……」



横目でチラリと真を見れば、雛依が読んでいた本を拾い読み始める。

いつまでいるの?と訊いてみたいが聴きたくない気もする。理解できない淡い気持ちを手のひらに出すように、氷の塊を造る。


クルクルと回転させて氷の妖精を創る。

手のひらの上で、生きているかの様に舞って遊んでいる。



「ふふ、こんにちわ」


雛依の言葉に合わせて可愛らしくお辞儀をする妖精。

背後に人の気配を感じて、真という客人がいる事を思す。



「ワぁっ!ビックリしました!背後にいるならいると言ってくださいよ!」


「呼んだのに気付かないお前が悪い」


「すみません思った以上に集中してたみたいで……、何かありました?」


「…いや、……お前、普段は鍵閉めとけよ」



真は念を押すように言い、雛依が頷いたのを確認して氷の妖精に目を移す。



「…私が創り出した妖精です。私の目の届く所までなら生きたように動かせるんです」



手のひらから軽く飛ばせて見せる。



「………笑いますか?」


「なんで笑うんだよ」


「…この歳になっても妖精と遊んでるからです…」



雛依の心を表すように妖精の顔が悲しみに染まる。



「……綺麗だな」


「!」



目を見開いた雛依の横から、そっと妖精の頬を撫でれば、妖精は擦り寄る様に頬を寄せる。



「綺麗だよ」



離れ際に雛依の頭を撫でる。



「……そのポンポン、好きです」



くすっと笑いながら猫なで声を出せば、チッと舌打ちをして離れて行く。



「……」



そして何事もなかったかのようにソファで寛ぎ、本を読み始める。



(あの寛ぎ方をファンの方にも見せてあげたい…きっと夢が壊れるでしょうね)


「おい、いま失礼な事考えただろ」



ビクッと肩が揺れて慌てて話を反らす。



「その論文読んでて楽しいですか?」


「チッ、話の反らし方が雑なんだよ…てか、お前のだろ」


「だから聞いたんですよ。楽しいとは思えないので…」


「ふはっ、楽しくないのに読んでたのかよ」


「私には頭が痛い文章です」


「は?…薬学についてじゃねぇか。お前の分野だろ?」


「私の薬は自家栽培です!特殊能力栽培です!!」



なので、そこに書いてあるような副作用もありませんよ!と明るく続く。

ヤブ医者みたいな謳い文句だな…と漏らされた不安は聞き流した。






ーーーー



一歩一歩近づくことが怖いのに、一つ一つ知ることに、知られることに、堪らなく嬉しくなる。


温もりを感じられる距離に頬が緩む。




焦がれた距離はこの距離だと錯覚しそうになる。



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