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声のない魔法使い。ーー学園。  作者: 一条 いちか
Chapter One
6/10

防衛本能はあなたには働かない。

「失礼します」


「はーい、え!?どうしたの!?え!?一宮さん!?」


抱えたまま保健室の扉を開けると、グッタリした雛依を見た先生が驚いた顔をする。



「一宮さん体調悪いみたいで、足元危なかったので…」


「そ、そう。……あなたは黒井君よね?ありがとう。一条さん薬は持ってる?」


「…持ってます」


「彼には…」



先生が口籠ったところで雛依が真に言った。



「…黒井さん、ここまでありがとう。もう大丈夫ですよ」


「…いや、暫くいるよ」


「……」


「……」



静かに雛依が申し出たが、意図を含んだ真の視線に折れた。



「…先生、彼は大丈夫です」


「……、一宮さんがそう言うなら……。先生ちょっと職員室に一宮さんが休むの伝えてくるから、少し休んでてくれるかしら?」


「ええ」


そう言って保健室を出て行く背中を見送り、近くのイスに座る。


「あたま、かち割れる…」


ポーチを開き、中から何種類もの薬が入ってるケースを取り出す。



「すげぇ薬の量だな…」


「……大丈夫、病気で持ち歩いてる訳じゃないから」




真が疑問に思ってる事を掴んで答えると、雛依は薬の中でもっとも白い薬を一つ掴んで口に含めた。



「おい、水は…!!?」


喫驚の表情を真は浮かべた。

薬を含んだ雛依は、右手をクルンと回すと透明のグラスを生み出し、中に水も生み出したのだ。



「…、…はぁぁ。だいぶ良くなった…」


「お前、……」



喫驚と未知の存在に困惑してる真に、雛依が少し哀しい表情をする。



「怖い?…これが〝こっちの私″」


「……」



少し砕けた口調に全てが終わってしまったように、雛依の目が曇る。



「…水の能力か?」


「へ?」



怖がるかと思っていた真は、少し難しい顔をした。



「……お前のその能力、水か?」


「え、あ、うん。水と風」


見やすいように左の手の平に風の竜巻、右手に水の雫を作り出した。


「そのグラスは?」


「これは風と水を合わせて作るの」


「……風の温度を低くして氷を生み出してんのか」



あまりの処理能力の速さに雛依のペースが乱される。


「……おっしゃる通りです…」


「ふーん…」


興味がなくなったのか、真は雛依の隣に座る。



(何も訊かないのかな…)


「ふはっ、何を訊くんだよ。持ってるものに何で?って問いたって意味ねぇし」


「心読まないでよっ!」


「ふはっ、お前剥がれた途端、分かりやすすぎ」



薬ケースを覗きながら、ニヤリと笑う。



「お前って闇医者だったのな」


「!…黒井さん…知ってたんですか?」


「まぁな。”闇医者“を知ってるのはごく僅かだろうけど…どっちかって言うと御伽話化してる一宮を知ってるやつの方が多いんじゃねぇの?」



ニヤニヤと楽しそうに話す。



「……それもそうですね。逆に私は黒井さんが知ってて意外でした」


「愚問だなぁ。入学式で不穏なざわめき方されれば誰だって調べるだろ」


「いや、あれは中々気付かない不穏さですし…。そもそも調べて出てくるような情報じゃあ…まぁ、バレちゃったことですし。先手を打っとこうかな」



どこか聞いたことのある台詞。



「は?何すんだよ」



警戒の為顔を上げた真に雛依は指を振り、唇に当てた。



「…これは運んでくれたお礼と、甘えてしまった口止め料」



艶やかに笑った雛依に自分に不利益じゃないと判断したのか、大人しく座ってる真に先程のグラスを突き出す。



「そのまま動かないで下さいね」



怪訝な顔をした真に、氷のグラスを手の中で砕くと息を吹きかけ真に氷の結晶を散らす。



「!!」


「身体が軽いでしょう、浄化作用があるの」


「そんな事も出来るのか……」


「不穏な物が渦を巻いてたので、これが1番のお礼になるかと…」


「……凄いな…」


「あまり恨みや妬みを買わないようにして下さいね。浄化効果があると言っても、どこまで効き目が残るかは度合いにもよるから……」



歯切れの悪い言い方に笑ったのは真だ。



「はっきり言えよ」


「浄化したのが遅かった。右足、近い内に怪我するので、…これを渡しときます」



そう言って差し出したのは、小さい袋に入ったピンクの薬一錠。



「?」


「治癒薬。即効性だから、すぐ治りますよ」


「副作用は?」


「無いです。…理由もなく闇医者で名を馳せてませんよ」



ふふっ、と笑う雛依に、それもそうかと納得する。



「なんで右足が怪我するって分かった?」


「…視えるんです。でも怪我をするのはその人の人生だから…」


「軌道を変えるのは御法度って訳か」


「治すのはいいけど、運命を変えるのはダメ。こんなとこです」



自分の薬ケースをしまいながらにっこりと笑む。



「なんで、1週間も休んだ?自分で治せるだろ?」


「少し力を使い過ぎちゃって…薬は効くんだけど、力自体がなければ微妙たる効果しかなく、時間がかかるんです」


「……気を付けろよ。お前だっていろんな奴に狙われてるだろ?あれじゃ、簡単に殺られるぞ」



廊下で蹲っていた雛依を思い出す。



「いざとなれば防衛本能が働くので大丈夫です。でも、心配してくれてありがとう」



そうして柔らかく笑った。








ーーーー




(……っ。防衛本能って、こいつたまに天然…)

「あら?顔が少し赤いような…」

「気のせいだろ」




ふとした瞬間に破れた虚勢。

防衛本能が働く対象から外された喜び。

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