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声のない魔法使い。ーー学園。  作者: 一条 いちか
Chapter One
3/10

再開と称するのはゲームの開始

「「あ」」


放課後の職員室前。

綺麗に声が重なったのは心から漏れた声だったからだろう。


「黒井さん…」


新入生代表以来顔を合わせていなかった黒井 真。



彼の噂は瞬く間に広がった。

なにしろ全てが完璧だからだ。

言葉選び方から、身のこなし、フォローの取り方、学力、外見。足りないものでさえも、うまく補えてしまう。



「しばらくだね」


「お久しぶりです…」


「帰りがけに日誌届けにきたの?」


「当たりです。黒井さんは…」



「帰りがけ」「日誌」「見てわかる1人」

外堀から埋められている気がして、些か防御の体勢に入る。



「僕もちょっとね。良かったら少し話さない?」


「そうしたいところなんですが…」


「日誌でしょ?職員室の外で待ってるよ」



まんまと外堀を埋められたみたいで煮え切らない気持ちがありつつも、誘いに乗る。


荷物、持ってようか?なんて爽やかに優しさを滲み出す真を丁重にお断りをし、その場にいた女子生徒の黄色い声を避けるように職員室に足を進める。



「ありがとうございます。すぐ戻りますね」


「いいえ、慌てなくていいからね」



なんて笑みを浮かべながら、職員室のドアを開けてくれるまでの芸当。

職員室に入り先生に日誌を渡していても、雛依はどこか監視されている気がしていた。



「お待たせしました」


「いや、全然待ってないよ…行こうか」



観念したように職員室から出て来た雛依に満足したのか、真は清々しいまでの笑みを浮かべ歩き出す。


その後ろを、艶やかな黒髪が追った。






「一宮さんのクラスはもう選択授業の発表された?」


「ええ。今日の帰りに発表されましたよ。黒井さんのところは?」



警戒していたほどナニかが起こるわけでもなく、平和で心地の良い会話が流れる。



「おっと…」


「え、あ、黒井さん!?こちらこそすみません!」



角を曲がった所で真とぶつかった女子生徒が、勢い良く頭を下げる。

ブラウスの色を見れば同じ一学年なのがわかる。



「そんなに謝らないで下さい。僕に当たって痛くなかった?」


「いえ、私は大丈夫です…」


「怪我がなくて良かった。ぶつかっちゃったお詫びに何かあればS1にいるから遠慮なく言ってね」



さり気なく自分の所在クラスを教えとくあたりなど、さすがと言わざるおえない。


それじゃ…と真が歩み出すその隣で、雛依も軽く会釈をし進み出す。



「ごめん、なんの話だっけ?あぁ、選択の話だったね、希望の科には入れた?」


「えぇ、希望の科には入れましたよ。それよりお身体は大丈夫ですか?」


「ん?大丈夫だよ。これでも造りは男だから、女性と少し当たったくらいじゃ問題ないよ…」



ありがとう、と微笑まれ少し安堵する。

真が受け止めたとはいえ、少し勢いのあったぶつかり方をしたから、どこか痛めてないか雛依は気がかりだった。



「結構心配性?大丈夫だよ、なんなら触る?」


「い、いえ、大丈夫ならいいんです。! ボタン外そうとしないで下さい!」


「あはは、ごめんごめん。心配してくれるのが嬉しくてつい。僕も一宮さんと同じ選択授業だと嬉しいな」


「またそんなことを…」


「やっぱり入学前に会ってるせいか少し気心しれてるからね」


「黒井さんは何を希望されたんですか?」


「ん?…一宮さんはどこにしたの?」



質問を質問で返され、頭のどこかに引っかかりを感じたが気にしないでいた。



「英語です」


「…へぇ、英語か……」


段差に移していた目を真に向けると、ゾクッと背筋に何かが走る。


「明日からもっと、…」





「会えそうだね」



低くなった聞き覚えのある声に、しまったと思った。

素直に話に持って行かれて、真を相手に油断し過ぎだと頭が回転し始めてももう遅い。


明日からもっとと言うのは同じ授業なのだろう。クラスで発表されてもされていなくても、真の中で雛依とクラスが一緒だと確信付いてしまった。

問題はどうやって真のペースを崩すか。



「そうなんですね、では明日から宜しくお願い致します」


「そうだね。明日から宜しく…………なんて言うわけねぇだろ」



もう少しトーンの落ちた声に雛依の体が揺れる。

頑張って自然体で話を続けてみたが、安全ルートはグシャグシャだ。



「…ねぇ、ここ数日、なんで俺のこと避けた?」


蛇に睨まれたカエルの気持ちとはこのことか。


「…と言いますと?」


「はっ、知らばっくれんの下手すぎだ、…よ?一宮さん」



人気の無い場所、縮まる距離にどうしたものかと手に力が入る。



「っ……!」


「…いつになったらその皮、剥がしてくれんの?」



耳に届いたのは聞いた事もない男の声。



「なんてねっ。一宮さん家どっち?」


「!」


いつの間にか門前付近に来ていた。

真との会話に集中させられ、どこに向かってるかなど気にもしなかった雛依。



「送るよ」


「へ?」


「送るよ。」


雛依がゆっくりと真と目を合わせれば、今更気付いても遅いと言うかの様に、ゆっくり言われた言葉に、捕らえた視線に、拒否権はない。


校門を出て、ハイさようなら。とはいかない。させない。逃がさない。



「……では、お言葉に甘えて。こっちです…」


「僕と一緒の方向だったんだ」



他者が近くにいれば「僕」。

いなければ「俺」。

器用にも使い分ける。



「…それで…なんで避けたの?」



どうやら真はこのペースを崩す気はないようだ。


逃げれないものは腹を括って立ち向かうか、立ち受けなければ。

どちらにしても、覚悟を決めなければ話にならない……。



「……実際は、黒井さんのファンの子が怖かっただけですよ。でも、それで黒井さんを避けるのは違いますよね……嫌な思いをさせてしまったのでしたら申し訳ございません」



だとするのなら雛依は……。



「いや、そこまで責めてないよ。寂しかったのは事実だけど、理由を知りたかったのが一番だしね」


「あぁ、でも…」



曲がり角を曲がった所で雛依が足を止めた。

そして彼の襟を引っ張り寄せる。



「っ……!」


「もう逃げるのは止めます。………それでも、あなたに私が捕まえられるかしら?」



真と渡り歩くことを決めた雛依の目には、今までに見せたことのない艶やかさを纏っていた。




ーーーーー



(!…っつ……)



驚くあなたの顔。

私だけが知らないのは癪だから。

あなたにも味あわせてあげる。



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