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「宗教の勧誘じゃなかったら何なんだ。別に僕は君から恨みを買うようなことをした覚えもないし、残念ながら今日が初対面だ。ひとり暮らしの大学生にいきなり話しかけてくる理由としては、宗教勧誘が一番妥当だと僕は思うんだけど」

 食料品をいっぱいに詰め込んだエコバッグを提げて帰路に着きながら、ずっと不可解であったことを尋ねた。スピカには途中で誰かと打ち合わせていたり連絡を取っていたりした様子も見当たらず、本当に単独で行動をしているようだ。幸太郎は、いっそ宗教勧誘の方がシンプルでわかりやすかったのではないかとすら思えてきた。

 買い物にも律儀についてきていたスピカが、表情を変えないまま淡白に答える。

「宗教の勧誘ではない。これは確かだ。私が保証しよう」

「担保はなさそうだけど……まあいいや。じゃあなんなのさ」

「私はただ、お前が何を幸福としているかを聞きたいだけだ」

「そんな切り出し方をして宗教じゃないって主張する方がかえって怪しいんじゃないかな」

 幸太郎のまっとうな意見に、スピカがシャープな顎を傾ける。揺れた前髪が街灯を弾いて輝く。何をしても絵になるなと、幸太郎もこの時ばかりは正直に認めた。

「じゃあどうやって訊けばいい」

「それは僕に訊いたらダメだろ」

「お前たち人間というのは本当に面倒くさいな。事実を言っているのだから、素直に応じろ」

「素直に応じるとロクな目に遭わないってドキュメンタリー番組で習ったからね」

「わかった。お前がそう言うのであれば少し言い回しを考え直そうじゃないか」

「わかりやすく頼むよ」

「任せろ。最高級に端的でわかりやすく言ってやる」

 宣言すること三秒。スピカは優雅なリズムで人差し指を回し、テンポに合わせるかの息遣いで話し始めた。

「私は人間ではない」

 端的すぎた。

「正確にはお前たち人間とは存在の次元すら別にする、高度な情報の塊であり思念体だ」

 そしてわかりにくい。

 呆気にとられた幸太郎を星空の遥か彼方に置き去りにするかの勢いで、スピカの口が高速稼働を始めた。


「私たち思念体は常に新しい情報を探し求めそれが餌だと言っても過言ではないほど吸収と増幅を繰り返しているわけだったが今回何を思ったのか急遽今まで複雑で本来ならもっと後に観測するべきだと結論づけられ半ば封印されたも同然だった人間の感情――特に幸福の部分に私たちは着目しそれが個人の感情や価値観の変容に加え人間関やそれらの枠組みを超えた大きな規模でいかなる影響を及ぼし合うのかと興味を抱きお前たち人間が支配していると錯覚しているこの世界に存在を半固定しこうしてパートナーを探し求めていたところ偶然にも私と最も相性がいいとされる人間が長谷川幸太郎お前であり私は接触を試みたというわけだ。どうだ、すっきりしただろう」


 文字にしておよそ三〇〇。マシンガンすら震え上がらせる勢いで言の葉を撒き散らしたスピカはこれ以上言うこともないと言いたげに話を締め括った。対して幸太郎は己の眉間に人差し指を押し当てる。数秒の呻吟を挟んで、ばっさりと切り落とした。


諸事により昨日の夜は投稿できませんでした。許してください、なんでもしますから!

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