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1-3

 冷蔵庫の中をもう一度見る。残っているのはキャベツといくつかの調味料のみ。適当な野菜炒めでも作るかと考え、メモと財布を取るために幸太郎は六畳一間へ続く短い廊下を歩く。ふすまを開けた直後、信じがたい光景が幸太郎の眼球に飛び込んできた。

「さっきは随分冷たい対応だったな。私みたいな美女が訪れたんだ。もっと手厚いオモテナシの一つくらいしてくれても良かったんだぞ」

 スピカだ。先程玄関先で締め出したはずの美女が幸太郎の質素なパソコンチェアに腰掛けていた。スピカの手には幸太郎が先ほどまで読んでいたゼミ指定のマーケティングに関する文献が収まっている。

「……は?」

 幸太郎は目を丸める。弾かれたような素早さで踵を返しドアの鍵をこじ開ける。外に顔を出して顔を右から左へ二回振った。通路の端から端まで見わたす。スピカの姿はなかった。

「狐につままれたようなリアクションだな」

 無感動なスピカの声に、幸太郎はああそうだよと返してやりたかった。

「そうパニックを起こすことでもない。まあ戻ってこい」

 未だ何がどうなっているのかわからない幸太郎ではあったが、嫌々ながら部屋に戻る。重い足を引きずりながら、「確か大学に入った直後も宗教勧誘受けたなあ」と思い起こし、その時はどうやって撃退したのかと回想する。必殺技は数秒としないうちに過去の記憶から舞い戻ってきた。

 ――でも。

 幸太郎は二秒程思い止まる。

 ――気が進まないなあ。

 しかしながら、手段を選り好みしているような場合でもない。幸太郎としても警察に頼って結果面倒なことに巻き込まれるのはごめんだ。できる限り穏便に、大きな機関が介入する前に事を済ませたい。

 やるしかないと腹を括り、部屋に戻るが早いか精一杯の威圧を込めて命じた。

「脱げ。あわよくばヤらせろ。そしたら話だけでも聞いてやる」

 二年前の記憶がぼんやりと輪郭を現す。確かあの時来た勧誘も美女が来ていた。スピカのような美人とはまた違い、アイドルでよく見るような可愛らしさの少女だった。その宗教は何やら性に関するコンテンツを蛇蝎だかつのごとく嫌い、性的な有象無象すべてを絶てば俗人より一段階上の高みに到れることを滔々と説いていたような気がする。それを逆手に取り幸太郎はセックスを条件に持ちかけ、吐瀉物を見るような目と引き換えに勧誘少女を追い返した。性を絶つ宗教が信者獲得のためにセックスに励むことは本末転倒だと考えたのだろう。大きな騒ぎになることなく宗教勧誘を撃退し、幸太郎は比較的静かな生活を手にした。

 ここぞと言わんばかりに言い放った幸太郎に反して、スピカの同様は皆無に等しい。三秒と少し幸太郎を見つめ、スピカは顎を引いた。「よし、脱げばいいんだな」

「そうだろう。脱いでセックスが嫌なら今すぐ帰れ――え?」

 幸太郎の反応が遅れる。返答の真意を噛み砕こうと脳を動かせるより早く、スピカは己の服をまくり上げた。


これサブタイトルすごく悩みますよね。散々悩んだ結果、無難な感じにしております。あ、エアコン風邪にかかりました。大学のみんなには通じず、カルチャーショックを受けました。みなさんの地域ではエアコン風邪って概念はありますか?

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