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5-6

「おおよそ四八五キロカロリーといったところか」

 一口含みながら、スピカがぼそりと呟いた。その一言で、大きな口を開けてクレープを頬張ろうとした奈々子が凍りつく。冷や汗を流す奈々子に対して、スピカが聞こえるか聞こえないかの綱渡りを敢行する声量でぼそぼそ漏らす。「そして奈々子の身長は一五五・三センチ、体重は五三キロ。そこから計算される一日で摂取するべき理想のカロリー量は約一四五三キロカロリー。今朝方食べた味噌汁・白米・鮭と今回注文したクレープを和合すると概ね九一七キロカロリーになるな。そしてまだ昼食と夕食を済ませていない。これはカロリー超過摂取不可避だろう。つまり、どうなるんだろうな」

 奈々子が沈黙する。冷や汗は増すばかりだ。名残惜しそうにクレープを見つめていた奈々子であったが、それを幸太郎へ突き出した。「これ、幸ちゃんにあげる」

「僕は別にいらないんだけど」

 呆れる幸太郎に、奈々子が湿っぽく鼻を鳴らしながら話し始める。あ、これは泣くな。と幸太郎は察した。

「だってこのままじゃ太っちゃうし、太っちゃったら幸ちゃんに捨てられちゃうし、秘密にしておきたかった体重バレちゃったし」

 言葉を出すごとに湿り気が増していく。泣いてはいないものの、七割前後はもう泣いているといっても良い。鼻をすすりながらクレープを差し出す奈々子を見て、幸太郎は思わず笑いを堪えることができずに吹き出した。目を潤ませながら白黒させる奈々子の頭を、幸太郎は乱暴に愛でる。

「そんなんじゃ嫌いにならないよ。たくさん食べたら沢山動けばいいんだし」

 次の言葉は一層に強調する。「美味しそうに食べてる奈々子の顔も、可愛くて僕は大好きだから」

 奈々子が口を尖らせる。「本当に?」

「勿論」

「嫌いにならない?」

「当たり前」

「私のこと好き?」

「愛してる」

 だからそれ、食べなよ。

 幸太郎の後押しに、奈々子はゆっくりとクレープを自身に近付ける。ある種祈るような顔つきで、甘味にかぶりつく。

 奈々子の顔が溶けた。だらしなく頬を緩め、至福を隠すことなく顔に書き殴る。相当気に入ったようだ。奈々子の心が安寧に至った状態を見届けて、幸太郎はきつい目をスピカに向けた。「さすがに、いじめすぎなんじゃないか?」

「私も感情がないわけではないし、何より好奇心の塊なんだ。奈々子のリアクションがどんなものか、つい知りたくてね」

 本人は一切悪びれるつもりもないらしい。髪をさっとかきあげ、どこ吹く風で受け流した。しまいには口笛を吹きそうな勢いで、罪悪感は抱いていない。

「だからと言ってあんまり意地の悪いことをするなよ」

「思念体にはオモイヤリだなんておめでたい概念はないものでな。自分の欲求を満たすためなら、そのくらい辞さんぞ」

「お前に思い遣りの一つでもあれば、男の股間を故意に全力で蹴り上げるようなことはしないもんな。あれはどう考えてもオーバーキルだ」

 思い出して、幸太郎は姿勢を正す。決して、映像が蘇って股間に冷ややかな気配が流れたからではない。断じて違う。


昨日の夜、なぜか自分の中では更新した気になってて寝てしまいました。お許しください!

さておき、今回の更新文字数はなんと1234文字だそうです。図ったわけではないにしろ、ちょっとラッキーな気分なんで明日はきっといいことが起こりそうですね! フラグにならないことを祈ります

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