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先のワンピースを購入し店を後にすれば、先程まで姿を見失っていたスピカを発見した。しかし何やら、男二人と話している。
「また金的でもするのかあいつは」
あの映像は実際に喰らうことはもちろんのこと、見ているだけでも男の精神的に尋常ではない負担を強いる。同じ男としてスピカの必殺技を止めねばならないという使命感に駆られ、幸太郎はスピカへ近付いた。至上命令を帯びた顔の幸太郎を見たスピカが、素早く幸太郎の肩に手を乗せる。
「すまんな、どうやら私の連れ合いが来たみたいだから帰ってはくれんか」
色々と問題の残りそうな言葉遣いではあったが、この二人はスピカをナンパしようとしていたらしい。解せんといった顔で幸太郎を三秒ほど睨むものの、思いのほかあっさりと二人は踵を返した。また先日の喫茶店を再現する騒動を懸念していた幸太郎はほっと胸をなでおろす。あの二人の股間は事前に守られた。そのことが、幸太郎を男としてひどく安心させる。
「随分遅かったな」
スピカの言葉に、幸太郎は眉根を寄せる。「お前は服に気を使わなくていいから、僕たちの気持ちは分かんないんだよ」
不可解そうに肩をすくめるスピカに、奈々子が尋ねる。
「スピカさんは買い物する必要がないんだっけ? ご飯も全然食べてなかったし」
「基本的に食べ物も必要最低限以外はいらんしな。思念体も個体差によって色々いるが、中には食べ物に娯楽を見出す個体もいるとは思うぞ」
「僕としては食費が浮いてすごくありがたいけどね」
幸太郎の軽口にスピカは答えた。
「いや、異世界の人間として興味がないわけではないぞ」
特徴的な青い瞳をスライドさせる。
「特に、甘味に関する調査は一度やっておきたいところだな。女の体で地球にいる身としては」
サファイア色の双眸は、クレープ屋を捉えていた。スピカの視線を追った奈々子の腹が、切なげに根を上げる。
「地球上にあることは殆ど知っているんじゃないのか?」
幸太郎の純粋な疑問を、スピカはあっさり肯定した。
「勿論知っているぞ。しかし知っていることと実際に体験して得たことは大きく異なっている。打撃理論を知ったからといって、ホームラン王になれるわけではあるまい?」
「まあそうなんだけどさ」
スピカの言うことも強ち間違ってはいないし、幸太郎としても少し小休符を挟んでもいいかと考えていたこともあり、特に渋ることもなく店へ足を向けた。もとより金銭に関しての心配はほとんどない。ただ唯一の懸念事項があるとすれば、
「……長いね、列」
そう、問題は待ち時間だ。フードコートの一角で鎮座するクレープ屋であったが、客足が異常なのだ。他の店もそれなりの盛況と言えるが、しかしこの店は群を抜いて逆が並んでいる。やはり休日ということもあってか、どの店も嬉しい悲鳴の真っ最中らしい。レジの店員も作っているスタッフも、忙しなく動いていた。
「今日、クレープ全品半額だって! 二個食べても一個の値段なんだよ!」
なるほど。幸太郎は素直に納得した。確かに半額は破格の値段設定だろう。確かにそこまで良心的な計らいなら少しくらい並んででも食べてしまいたくなるだろう。安さはやはり強力な武器である。
「でも、やっぱり並ぶのって微妙に退屈だよね」
幸太郎のぼやきに、奈々子が鼻息を荒くさせて食ってかかった。「こうやって並ぶことも、ショッピングの醍醐味なの!」
テスト期間中なので、余計創作意欲が凄まじいですね。現実逃避ってやつでしょうか。しかしかかずにはいられない感じがしますね。あと皆さん、腹痛には十二分にご注意ください、僕はそれで今学期の講義を一つ犠牲にしました。国は腹痛持ちの人に補助金出すべきじゃないですかね(震え声)