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最寄り駅から徒歩一分を声高に掲げオープンした大型ショッピングモールだ。聞いた話では、専門店だけでも大小の差はあれど百にも昇る数を内包しているらしい。さすがマンモス級と自称するだけあって、品揃えに不足することはなさそうだ。
幸太郎の手を引いて意気揚々と乗り込みを敢行していた奈々子だったか、ぴったりと大人しくなる。何事かと驚いた幸太郎の顔を、奈々子は不安げに覗き込んだ。
「買ってくれるのは嬉しいんだけど、幸ちゃんのお財布大丈夫?」
どうやら金銭の心配だったらしい。怒られた直後の柴犬みたいな顔をして答えを待つ奈々子に、幸太郎は力強く頭を撫でた。思わず笑みが溢れる。
「いいよ。僕なんてバイトしてるけど使うあてがないから溜まる一方だし、どうせ使い道もなくて持て余してたところなんだ」
この言葉に嘘はない。事実として奈々子を喪ってから、幸太郎は誰かと外で遊ぶような真似をしていない。あったとしても俊和と外食をするくらいで。学生にしてはそれなりの懐だと言ってもいい。その答えを聞いて、奈々子の顔がぱっと晴れた。相も変わらず、ころころと変わる表情である。
「だから今日は、奈々子に似合うものを買ってあげる」
「うん!」
犬の尻尾が奈々子についていたらきっと千切れんばかりに振られているであろうはしゃぎ振りで、ショッピングモール内に飛び込んだ。
休日の大型ショッピングモールということもあり、中は人でごった返していた。三人は泳ぐようにして人の流れをかいくぐり、目当ての店を目指す。まずは、当初の目的である服だ。
木目調の看板を掲げる洒落た外観をした店で奈々子の足が止まる。どうやら、この店が気になるらしい。
躊躇うことなく討ち入りさながらの勢いで店へ入った奈々子に、店員の丁寧な出迎え文句がかかる。店員はやはり店の商品を着て歩くマネキンのようなものらしく、皆一様に適度に洒落て、それでいて落ち着いた色合いの服を身にまとっている。背格好も奈々子と大差ないため、アドバイスも相当なものを期待できそうだ。
「彼女さんへのお洋服ですか?」
そっと耳打ちしてきた店員に、幸太郎はにこりと頷く。「何着か、それっぽい服装を見繕ってもらっていいでしょうか」
すごく高そうな服のお店って、サンプルの写真として外国人の人使ってるのが多そうな印象なんですが、アレって今ひとつぱっとイメージわかない気がします。僕だけでしょうか? 「俺ディカプリオみたいなイケメンじゃねえから! そんなキリッとした顔してねえから!」みたいな。