4-1 佐合俊和
大学の図書館を午後九時半過ぎに出た俊和は、慣れた声で奇遇ですねと声をかけられた。わざわざ確認するまでもなく、ゼミの後輩の声だ。
「どうしたんだ、図書館で昼寝でもしてたか?」
「失礼な人ですね。俺だって勉強のひとつくらいしますよ」
快活に笑う後輩の名前は田中といい、いかにも運動を嗜んでいるようなスポーツ刈りが印象的な二年生だ。体格にも恵まれており、俊和と並んでしまっては歩きからの佇まいからしてもどちらが先輩なのか傍目からはわからないだろう。それほどにまで、田中のストライドは広く、自信に満ちている。
「途中まで一緒に帰っていいですか? 俺も下宿生なんで」
「いいぞ、減るもんでもないしな」
数分間はお互い無言で歩いていたものの、いきなり田中が口を開いた。
「先輩、何か面白い話をしてくださいよ」
唐突な振りに、俊和の頬が引き攣る。「唐突すぎるだろ。いつもお前はそうやって何か話をせびるが、そんなぽんぽん出るもんじゃねえんだぞこれ」
「でも話してくれるじゃないですか。今日も何か面白い話をしてくださいよ」
顔を合わせるといつものようにとりとめもない小噺を求めてくる田中に、俊和は眉をひそめる。嫌なわけではない。どちらかといえば自分の自己顕示欲を満たしてくれる存在として、田中は非常に有益な存在と言えるだろう。しかし、小噺の品揃えが常に充実しているとは限らない。腕を組んで数秒考えた挙句、俊和は苦し紛れに切り返した。「じゃあ、お前が何かお題を俺に振ってくれ。その話題で、俺が現在持ちうる知識のお披露目をしてやる」
俊和のOKサインに、田中は喜びを顔に示した。
「じゃあ、宇宙人はいるのかって話でお願いします!」
不覚にも俊和は息を詰まらせた。
「なんとまあタイムリーな話題だな」
田中には聞こえないようつぶやく。宇宙人なら今日の昼に遭ったぞ。そう言ってしまいたい欲求をこらえ、一応訪ねてみる。
「なんでまたそんな話なんだよ」
「特に理由はないんですけど、たまに特番とかで宇宙人の秘密に迫るような番組ってあるじゃないですか。あれってヤラセなんじゃないかなって思って、先輩はどう考えてるんだろうって気になりまして」
「俺だって別に博士じゃねえんだぞ」
ぼやきながら顎に手を当て、自分の中にある知識のタンスを全開にする。
「まずは、宇宙人の定義から考えるか」
「どういうことですか?」
田中の疑問に、俊和は丁寧に答える。この解説する瞬間が、俊和の脳をたまらなく刺激させる。ある種、こういったにわか仕込みの知識を披露するためだけに本を読んでいると言っても過言ではなかった。
「宇宙人って言うと【人】って漢字を使うだろ。そうすると宇宙人も俺たち地球人のようなビジュアルである必要があるのかって話だな。その条件次第で、結論も大きく違ってくる」
田中は二秒だけ考える素振りを見せ、「別に無理やり人間の姿をしてなくてもいいです」と答えた。
「人って形に限定せずあくまで地球が命的生命体って条件にするんだったら、間違いなくいるだろうな」
かれこれ六年前後小説を書いてきたわけなんですが、小説書いてて良かったなーと心底思うのが、レポートの文字数に全然怯まなくなっているってことですね。これは正直死ぬほどありがたいです。5000文字!なんて言われても、あ、5000?じゃあ余裕っしょ。みたいな舐めプ出来て本当にいいです(いいレポートが書けるとは言ってない)