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しかし。
幸太郎は考え直す。
問題は美醜ではない。なにゆえこのタイミングで幸太郎の下宿先にスピカが押しかけてきたのか。そこが最も大きな論点だ。
咳払いを一つ挟み、幸太郎が口を開く。
「スピカさんはどんな用で僕の家に? もう夜の十時を過ぎていますけど……」
嫌味にならない程度に注意を促しながらスピカに尋ねる。とにかくゼミの人間でないことは確定している。ゼミの人間でここまで容姿に恵まれている人間がいれば嫌が応でも覚えている。
スピカは尊大に腕を組みながら、なんでもないことのように話し始めた。
「時に幸太郎、お前の幸せとはいかに」
「無神論者なんで」
素早くドアを閉めた。けたたましい音と共に、なにか重いものが幸太郎の両肩にのしかかる。
「……宗教の勧誘か」
苦々しげに漏らす。しかしいくらなんでも、この時間に宗教勧誘とはいささかよろしくない。このまま鍵を閉めて適当に夕食を食べよう。決めた瞬間、勢いよくドアが開け放たれた。ドアノブを握ったままであったため、幸太郎の上体が前に大きく傾く。
「まあそうつれないことを言うな。幸せを言うくらいならタダだ。言うだけ言っても損ではないぞ」
スピカだ。夜遅くにセールスに来て断られた挙句再戦を申し込む面の皮の厚さに、幸太郎は額の血管を浮かべる。
「さっき言ったように僕は神も信じませんし今年はまだ鳥居をくぐってません。信者数を確保したいのならもっと気の弱そうでムードとか啓発活動とかに目がない人を誘ってください」
「別に私は宗教の勧誘に来たわけではないのだが」
「宗教勧誘の人に限ってそういうことを言うんです。とにかく僕にはいらないことですから!」
強引に話を千切り、幸太郎は再びドアを締める。再びドアを開けられる前に素早く施錠した。念には念を入れてチェーンも引っ掛ける。これで入り込んでくる余地はゼロだろう。幸太郎はほっと胸をなでおろした。
「こんな時間に勧誘なんて、サービス業ならクレームの嵐なんだろうな」
誰に言うでもなく話しながら冷蔵庫を開ける。同時に、顔をしかめた。食材がない。今から買い物に行かねばならないと考えると億劫で仕方がないがそうも言っていられない。なにせ昼食も抜いている。一度読書から意識を離すと思い出したかのように空腹感が胃に充満しているのもまた事実だ。ここまで腹が減っていると自覚してしまっては、十分な睡眠もおちおちできやしない。
「適当に買って適当に作るか」
自分の中で結論をはじき出す。作るのが面倒くさくても、外で食べると高くつく。作ることを渋るほど忙しいわけでもない。じゃあ作ろう。幸太郎の基本的な思考プロセスだ。
今のところは毎日投稿できそうでほっとしてます。ふとした拍子にストックを食い潰すってことにならないよう、頑張っていきたいです