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3-1 流星

 喫茶店での騒動も昔の話となった午後九時半。幸太郎はげっそりとした面持ちのまま缶のプルタブを引いた。空気が抜ける爽快な炸裂音ごと飲み込む勢いでビールを呷る。舌の付け根で広がる苦味に一瞬顔をしかめながらも、その余韻を体に馴染ませる。隣に腰掛けるスピカが、不可解そうに首をかしげた。「どうした幸太郎。ずいぶん疲れているように見えるぞ」

「誰のせいだよ」

 もう一口ビールを口に含む。風呂上りに飲んでもよかったが、生憎今は奈々子が風呂場を占領している。奈々子が風呂をあがるまですることのない幸太郎は、欲求を抑えることができないまま缶ビールを開けてしまい今に至る。俗にいう「飲まなきゃやってられない」状態であり、誰も幸太郎を咎めることはできないだろう。

「訊きたいことがあるんだけどさ」

「なんだ、何でも言ってみるといい」

 気前のいいスピカの言葉に、幸太郎は口を開く。

「日中見せたあの消しゴムの瞬間移動ってなんだったたんだ? あれと僕は、何か関係でもあるのか?」

「あるに決まっている」

 寧ろあれこそがお前の能力だとも付け加えられ、幸太郎は目を丸くした。「それどういうこと?」

「私はお前に『幸せと、その幸せに沿った能力をくれてやる』と説明していることは覚えているな?」

 幸太郎は頷く。当時は宗教勧誘と思って邪険にしていたが、今となってはそんな扱いもできない。

「そしてお前は昨晩、歩道橋から落下して死にかけたときに『もう一度会いたい』と願ったことも覚えているな?」

 もう一度顎を引いて、同意を示す。

「だから私は奈々子を生まれ変わらせた。正確には地球の奥深くで眠るアーカイブをいじり、ありきたりな言い方をすれば『位置情報に関するバグを引き起こした』ということだな」

「バグ? 位置情報?」

 酒のせいも手伝ってか、難解な言葉が右耳から左耳へと抜けていく。一回で理解されるとは思ってもいなかったらしいスピカは、ちゃぶ台に乗っている消しゴムをつまみ上げた。

「昼間三人の前で見せた消しゴムの瞬間移動は覚えているか?」

「まあ、忘れろって言われてもあれは無理だろうね」

 じゃあ消しゴムで例えてみよう。スピカの宣言と同時に消しゴムが消え失せた。例の青白い光と静電気のような音を残し、スピカの手からはなくなっている。

「今、消しゴムの位置情報を書き換えた。鞄のサブポケットを漁ってみろ」

 言われたとおり、通学用に使っている鞄を手繰り寄せた。サブポケットをがさごそとまさぐり、指先に慣れた感触が当たるのに数分と要さなかった。言うまでもなく、例の消しゴムだ。

 絶句する幸太郎に、スピカが言葉を降らせる。

「私の掌の上を地点Aとして、サブポケットの中を地点Bと名付けよう。アーカイブの中では数秒前まで消しゴムの位置情報は地点Aと記されていたのだが、それを私が無理やり地点Bに書き換え、それによって地点Aの消しゴムは地点Bまで一瞬のうちに移動した。理屈だけ説明すると、まあこうなるだろうな」

 私はこれを位置バグと呼ぶことにしている。淡々と告げるスピカに、眉を寄せた幸太郎が訪ねる。


どうでもいい話ですが、今作品の主人公である幸太郎。とある方から名前を拝借してます。皆さんも一度は聞いたことある方だとは思いますが、そのくらいあの方の作品が好きなので、無断で心苦しいですがお名前を拝借しています。単純に、僕が「○太郎」って響きが好きってこともありますが

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