2-15
なるほど、と幸太郎は結論付ける。
スピカは地球での喧嘩のルールを知らない。もちろん喧嘩に対して明文化された共通のルールブックもないが、それでも個々人が何となく心得ていることはある。暗黙の了解と俗称されることもあるが、スピカにはそれが決定的に抜け落ちているのだ。
故に、顔や腹よりも効果的で、かつ実際の喧嘩になっても男なら手を出すことが躊躇われる股間に容赦のない蹴りを叩き込むことができる。奈々子にはそれがそれとなくわかっていた。つまり先の奈々子が言った「大丈夫」とはスピカが大丈夫なのかを問うものではなく、スピカの無慈悲な一撃で男にこの先の人生に関わる後遺症を残さないかを問う旨だったのだ。
一連の文脈が幸太郎の中で出来上がり、脂汗を流す。
同時に、確かめておかねばならないことがあった。
「奈々子」
「ん?」
上目遣いの奈々子に幸太郎は尋ねる。「奈々子は、あんな非道なことしないよな?」
数秒の逡巡を挟んで、奈々子が頬を染める。
「幸ちゃんがやってほしいなら、私も頑張るよ!」
「そうじゃないから」
身じろきすらしない男を尻目に、幸太郎は奈々子の額を軽く叩く。
未だ縮こまったままの股間を内股で隠しながら、スピカの反感だけは絶対に買わないでおこうと幸太郎は固く誓った。
今作品、最初期のタイトル案は「フェリキタス・モノマキア」でした。あまりに中2であることと横文字ばかりでもうこれわかんねえなって状態だったので、考え直して今に至ります。そもそもフェリキタスってどういう意味よ?なによ?って人は、もう少ししたら解明されるのでお楽しみください