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2-13

 しかし今は店員だ。自分が割って入った挙句何かしら大きな騒ぎが起きることも避けたい。しかしこのまま無視を決め込んでも場が和むとは思えなかった。いっそ「一回くらい付き合ってあげなよ」と無責任な言葉を投げてもよかったのだが、それは良心が咎める為に止めておいた。河合にしつこく食らいつく男は身だしなみからしても全体的にだらしなく、お世辞にも好意的な評価は下せない。そのために、幸太郎も安易な言葉を投げられなかった。

 なんでこんな大事な時に店長はどっか行ってんだよと内心愚痴を零していた最中、唐突に低く鋭い声が男の声を床に縫い付けた。

「おい」

 たったの二音で男が黙る。店内にはジャズ以外のすべてが凍ったような気配すら見せる。男の声が途切れたことでやっと安静を取り戻したジャズが、これ見よがしにサックスのソロを奏でた。テナーサックスであろうか。艶めかしい音色が幸太郎の頬を舐め、やっと我に返った。

 スピカだ。今では心強いほど尊大な腕組みをして、河合の隣に立っている。いつの間に移動したのであろうか、先ほどまで座っていた席にはいない。

 特別大きな声を張り上げるでもなく、スピカは淡々と吐いた。

「うるさいぞ。黙れ」

 突然の闖入者でほんの一瞬静止した男だったが、スピカの言葉が自分に投げかけられたものであると知るや否や烈火のごとくわめき始めた。周囲の客の目線が一層凍る。同時に、出世するのは有能な人間と、こいつみたいに迷惑を顧みずに好き勝手言えるやつなんだろうなと幸太郎はしみじみ感じた。

 子供のほうが分別あるだろうと思わせるまでに喧しい男に対して、スピカの目線は依然として冷たい。

「うるさいからうるさいと言っているんだ。店の中には雰囲気に沿った音楽が流れているのに、それともなんだ。お前は日本語もろくに聞き取れん猿か。これなら動物園で檻の中にいる猿のほうがまだ静かで慎ましいぞ。人類として恥ずかしいとは思わんのか」

 スピカはスピカで好きなように男をなじる。今までの流れで堪え性があるとも思えない男が、案の定激高した。机を叩き、スピカを指差す。

「ちょっと顔がいいからって調子乗ってんじゃねえぞ。痛い目見ねえと気が済まねえようだな」

「知ってるか? そういったセリフは往々にして雑魚のお決まり文句らしいぞ」

 外出ろ、一発シメてやると息巻く男にスピカはあっさり頷いた。河合の顔から、さっと血の気が失せる。自分が発端で騒ぎが大きくなったと負い目を感じているのだろう。警察を呼ぶべきかと幸太郎へ確認を取ってきた。

「まあ、いらないんじゃないかなあ」

 明確な根拠はない。が、たぶん大丈夫だろうと幸太郎はのんびり構える。男に続いて店から出ようとするスピカが、くるりと振り向いた。

「なあ幸太郎」

「なにさ」

「これは、私がこの猿を殴っても法律上面倒くさいことにはならんだろうな。一応法律の知識も思念体としては心得ているものの、一応現地人のお前はどう思うか聞かせてくれ」

「経営学部の僕に法律のこと聞くなよ」

 呆れ半分で頭をかきながら、幸太郎はいかにもそれらしく解説をよこした。「多分いいんじゃないかな。ただ自分から喜んで殴りに行くとだめだと思うし、相手に何回か攻撃されて、反撃のつもりで攻撃し返しましたっていえば正当防衛だと思うよ」

「よし、じゃあ大丈夫だな。私の知識と相違ない」

 何が大丈夫なのかを質す前にスピカは店から飛び出した。幸太郎と奈々子も、店のガラス窓を介して様子を見守る。その後ろから、河合もついてきた。もはや店員としての職務を放棄しているがほかの客もそれを咎めることはなく、むしろ興味津々といった様子で首を伸ばして傍観を決め込んでいた。


五角形が好きです。漫画とかアニメのファンブックで時折戦闘能力とかをまとめたグラフやパラメーターってあるじゃないですか。あれを見るのがすごい好きです。それ見ながら妄想するのが大好きで、僕も自作品で後悔しないけどつくろうかと思う反面、飽きっぽいので悩んでます

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