2-12
そういえば「0-0」、プロローグみたいな当作の「流星前夜」なんですが、元ネタは好きなグループの歌タイトルからとってます。アニメとか見る人なら一回は聞いたことあるアニメOPを歌っているグループですので、かなりの人がご存知ではないでしょうか。語りが入るんですが、僕は流星前夜も大好きです
「何のつもりだ」
「なに、奈々子がお前の働いているところを見てみたいというものでな」
堂々と奈々子を出しにするスピカに、幸太郎の矛先が奈々子に向かう。奈々子はしどろもどろな調子で、弁解を始めた。
「だって、わたし幸ちゃんの働いているところ見たことなかったし……」
問題はそういうことではなかったのだが、とりあえず大ごとにならなくて助かったと安堵する。もしも店内に奈々子と親しかった誰かがいたら、大騒ぎになることは避けられなかったろう。少なくとも、小さい規模ながら何かしらの混乱を招くことは必至だ。
「別に怒ってはないけど、今度外に出るときは帽子とかパーカーとかを被って外に出ような」
言葉の真意がわからないらしい奈々子は首をかしげるが、幸太郎もくどく言うつもりはないため、オーダーの紙を取り出した。「で、ご注文はいかがなさいますか?」
「幸ちゃんすごい! 喫茶店の人みたい!」
奈々子の言葉に、幸太郎は肩の力が抜けた。「バイトだけど、一応喫茶店店員だしね」
幸太郎の曖昧な笑みを叩き潰すように、店内には乱暴な声が響いた。慌てて音源に体を向けると、河合の身に何かあったらしい。事の始まりはわからないものの、何やら河合は男性客に対してしきりに頭を下げていた。
「いえ、ですから当店はそのようなサービスは致しておりませんので」
及び腰で釈明する河合に、男は強気な姿勢で声を荒げる。身に着けているものは有名メーカーのジャージである。客を選ぶような態度を苦手にしている幸太郎ですら、少し店の雰囲気とはミスマッチしているのではなかろうかと思わずにはいられなかった。
「俺がこの店にどれだけの金落としたと思ってんだよ。ああ?」
「しかし私たちの店はあくまでコーヒーや軽食だけの店ですから」
河合の言葉を端で聞き、幸太郎はなるほどと合点した。察するに、ある程度常連に分類されるであろう男が河合に何かしら交際やそれに準ずる何かを迫っているということだろう。俗に言われる店外デートのそれと近いかもしれない。
男の無遠慮に大きい声が店の空気を掻き回す。流れているジャズのグルーヴ感がつっかえた。ジャズや音楽に造詣の深くない幸太郎でも、せっかくの音楽と雰囲気を踏み荒らされていい気持ちはしていない。他の客もそうらしく、店内に点在する六人は遠巻きながら辟易した目をしていた。
河合と目があった。その顔からは、困惑と切実さが溢れている。
――どうしようかな。
幸太郎は考えた。何かできることはないだろうか。