2ー7
もう一啜りコーヒーを飲んで、俊和が解説をはじめる。
「フラスコの中にヒヨコを入れて、そのヒヨコを細胞レベルにまでバラバラに分解する。分解する前とした後ではフラスコ内の細胞数や種類は一切変わっていない。じゃあフラスコ内の細胞たちはヒヨコと呼べるのか? ってことだな」
俊和の解説を聞いて、幸太郎はなんとなく理解ができた。確かに俊和の言うとおり、材料をかき集めただけでは人体を作ることは難しいだろう。
「つまりー?」
未だあまり良く分かっていないらしい奈々子が眉をハの字にする。ついて行けていないのが自分だけだとわかったのか、途端に弱々しい瞳に変わった。
「じゃあこうしよう」泣かれると面倒だったのか、俊和が慌てて話を提示し始めた。
「料理に例えよう。桜井はカレーを作れるか?」
「うん! 得意だよ!」
自信満々に力こぶを作ってみせる奈々子に、俊和は順を追って言葉を重ねる。
「なら、桜井がカレーを作る時に使う材料を列挙してみてくれ。米とか水とかも含んでくれると嬉しい」
えっとねーと、奈々子が黒目がちな瞳を上に向けて指折り数える。
「カレールーと、鶏肉のモモと、人参と、じゃがいもと、玉葱と、サラダ油と、水とお米と……あ! 隠し味に赤ワインとリンゴと蜂蜜!」
「それをバケツの中に入れてくれ。もちろん実際じゃないぞ。イメージだけでいいぞ」
「うん。頭の中でバケツに入れたよ」
「じゃあ、そのバケツ内にあるものを桜井はカレーと呼べるか?」
「んんんん?」
高い唸り声を上げて奈々子は唸った。眉間にシワを寄せて、大仰に腕を組んでみせる。
「なんか違う気がする」
「カレーじゃなかったらなんだ?」
「材料の集まり?」
「そう、まさしくそれだ。ポール・ワイスが言いたかったのもまさにそれで、材料さえあればいいってわけじゃないってことを彼は思考実験で示してみせたんだ」
ほえーと感心する奈々子の腹から、ぐうと音が聞こえる。三人の視線に耐えかねた奈々子が耳まで赤く染めて俯く。
「冷蔵庫の上にカゴがあって、その中にカレーパンあるから食べてもいいよ」
「いいの!?」
犬が尻尾を振るように喜びながら、少女は部屋を飛び出した。数秒後、奈々子がいそいそと帰って来た。手にはカレーパン。顔がだらしなく緩んでおり、がさがさと開封作業に勤しんでいる。
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