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2-6

 この程度の言い分なら、幸太郎も素直に共感することができた。俊和の言うとおり奈々子は一年前に死んでいる。今では骨の身になっている彼女がこうして生きている理由は、考えてみれば分からないことだった。

 幸太郎は左隣で座っている奈々子をちらりと盗み見る。渦中の本人はきょとんとしており、「私のことを話しているのかしら」とでも言いたげな無関心さだった。もしかしたら、自分が死んだ自覚がなくなっているのかもしれない。

 さあ、答えてみろと言わんばかりに見据える俊和に、スピカの口角がわずかに上がった。

「私という個体は本来あまり感情を持たないタイプなのだが、実際に異なる種族と接するとこうも心くすぐられる思いになるとは。地球は実に面白い」

 スピカが、それは当たり前だと言わんばかりのまろやかさで告げた。

「作った」

 その一言で、六畳一間がこの世界から切り離されたような錯覚に陥った。幸太郎の耳には、外から聞こえてくる車の音が一気に遠いものになる。その思いは俊和も同じだったのだろう。切れ長の目を見開き、黙りこくっている。

「なんだと」

「作った」

 同じ言葉を繰り返すスピカに、俊和は牙を向いた。

「つまりどういう事なんだよ。意味がわからんぞ」

「簡単なことだ。人間はいくつかの元素や様々な物質で構成されている。それをかき集めてコネ回して奈々子の体を作った」

「ありえん」俊和の強い否定が部屋に張り詰めた。「確かにそれは論理上では無理じゃないかもしれんが、細胞生物学における還元主義の限界はポール・ワイスの思考実験によって証明されたはずだろ。そんな非常識なことがあってたまるか」

「ま、またいいかな?」

 おずおずと奈々子が挙手した。そうなることを見越していたのだろう。俊和は拒むでもなく質問を促す。

「そのなんか凄そうなのって、なに?」

 俊和は一度大きく息を吸って、コーヒーを口に含む。

「ポール・ワイスの思考実験とは、『発生過程のニワトリの胎児を管に入れて完全にホモジナイズすると、バラバラに破砕されたニワトリ胎児由来の液体が得られるが、ホモジナイズの前後で一体何が失われたのか』って想定やイメージだけで進める脳内実験のことだな」

「ん、んー?」

 目を丸くして鳥のように首をかしげる奈々子を目の前にして、幸太郎も便乗する。「僕も、あまり意味がよくわかんないかな」

「じゃあもう少し砕いた言い方をするか」


最近新しいバイトを始めたんですが、覚えることが多くて思わぬ仕事が潜んでいることが多く、口癖が「ちょっと待ってそれ反則」になりつつあります。これは時折使ってた言葉なんですが、口癖になりそうで怖いです

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