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2-3

「感動的なシーンだな。私にはよくわからんが」

 首を後ろに向けて、幸太郎の心境は憂鬱の底に叩き落された。幸福感と暗澹がい交ぜになった、表現しがたい気分の中で口を開く。「なんでいるんだよ」

「昨日契約したじゃないか。だから、私もこの家に存在する権利の一つや二つあって然るべきだと思うんだが、そこに関してはどう思う?」

 何か言ってやらねばなるまいと思いながらも、幸太郎は考えを巡らせる。昨夜の現実離れした一連の出来事やスピカの存在も現実だと証明され、同時に奈々子の存在も夢ではないと裏付けられたことになる。考えれば考えるほど、重苦しさと幸福の高低差に眩暈を覚えた。

「この人お客さん? お客さんならお茶くらい出さなきゃ!」

 パジャマ姿のまま張り切りだした奈々子に対して、そもそも僕自身あまりよくわかっていないんだと言い出しにくい空気になってしまい、幸太郎は適当に苦笑を浮かべて場を濁す。直後、奈々子に頬をつねられた。久々に感じた痛みに、思わず幸太郎は短い呻きをあげる。

「その何とも言えないような誤魔化す顔は禁止! 約束忘れたの?」

 ああそうだと思いだす。確か付き合い始めた当初はそんな約束もあったと思いながら、不覚にも顔をだらしなく弛緩させた。接すれば接するほど、眼前の少女が奈々子で間違いのない確信が固まる。

「だから言っただろう。お前の望みを叶えてやるとな」

 さして誇る様子でもなく、スピカはそれができて当然と言わんばかりに鼻を鳴らす。

「いったいどうなってるんだよ。僕はまだ夢の中なのか?」

「お前にとってこれが夢であってほしかったかどうかはわからんしこれから追々わかってくることだが、とりあえずこれは現実だと言っておこう。お前も、これが現実で不自由をきたすことは今のところあるまい」

 妙に含んだような物言いに幸太郎は顎をわずかに揺らすも、深く突っ込んだ追求を控えた。これ以上何を訊いても、今のところ分からないのであればどうしようもない。

 寝ても醒めても不可思議な現実に見舞われる中、幸太郎は物事の優先順位を考える。今はとにかく奈々子に対する策を施す。同時に、きっとあと十分もしないうちに家に来る友人をどうやり過ごすかを考えた。こんな状態を見られてはまずい。さまざまな問題が生じるし、何よりややこしくなる。なにゆえ死んだはずの奈々子が生きているのか。普段は楽観的な幸太郎ですらこの有様なのだ。少々理屈っぽいあの友人なら頭を抱えてのた打ち回り始めるではないかと考えると、早急な対策立案を求められる。

 壁に埋め込むようにスペースを確保してある物置に奈々子とスピカを少しの間突っ込んでおこうかと考えた矢先に、インターホンが鳴り響いた。幸太郎の皮膚に、さっと冷や汗が滲む。奴だ。奴が来た。

「立っているついでだ。私が開けてきてやる」

「待て!」

 慌てて止めようと体を乗り出した直後、スピカの踵が幸太郎の額と激突する。足が不自然な軌道を描いたために故意だろう。ごすんと音がして、幸太郎の焦点が一瞬揺らいだ。突然の痛みに額を抑える。馬に蹴られるより百倍ましだが、それでも痛いことには変わりなかった。

 廊下を大股で歩くスピカを止めることができる人間はもういない。奈々子は床で突っ伏している幸太郎をおろおろと見守るだけで、スピカの元まで駆け寄る意気込みは感じられない。

 幸太郎の耳に、開錠の音が届く。

「いやあなた誰ですか? はあ、まあ幸太郎はいるんですね?」

 聞き馴染んだ声が玄関先から聞こえてから数秒、複数の足跡が廊下を転がってふすまが開いた。未だ痛む額を抑えながら、幸太郎は顔を上げる。そこにはやはり、予想通りの友人が呆れた顔をして立っていた。

 友人である佐合俊和さごうとしかずが、口を開く。

「よくわからんが、とにかく説明してもらってもいいか? こりゃ一体なんなんだ」

 僕だって説明してほしいよ。幸太郎は心の底から吐き出した。


「章」って仕様があったことを今さっき知って、なんとも言い難い気分に包まれております。さておき、先日変な夢を見ました。家の電子レンジをインド人過激グループに爆破されてあまりの恐怖に半日中泣きながら震えてたって夢です。今思えばなんじゃそりゃって感じですが、夢の中ではマジ泣きしてました。そういうのってよくありますよね

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