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2-2

「どうしたの幸ちゃん、朝から元気だけど」

 木漏れ日のような温もりを持った奈々子の声に幸太郎は息を止める。この声を聞き間違えるはずがない。十五年以上も聞き続けたこの声は、去年の三月に死去した桜井奈々子のモノにほかならなかった。

「奈々子?」

 未だ信じがたいものを見るような目で幸太郎は奈々子を見つめる。猫柄がプリントされたパジャマに皺を寄せ、奈々子はくすくすと笑う。

「私は私だよお。何かあったの?」

 幸太郎は息を呑む。拳大に凝固した空気の塊を強引に肺へ押し込む。恐る恐る、一度触れたら壊れてしまわないかと緊張しながら、両手を前に突き出した。奈々子の両頬を幸太郎の掌が包み込む。奈々子がくすぐったそうに目を細めた。幸太郎の顔が、ぐにゃりと歪む。

「奈々子だ」

 確信を込めて呼んだ。「奈々子!」

 少女を力の限り抱き寄せる。ひゃっと黄色い悲鳴を上げた奈々子であったが、幸太郎の拘束を振り切るつもりはないらしい。されるがまま、幸太郎の腕の中に納まった。目を白黒させる奈々子に構うことなく幸太郎は腕を一段と強く締める。先ほどまで脳を占めていた疑問も危惧もすべて掃き捨て、力の限り少女を抱きしめた。黒い髪が幸太郎の鼻に触れる。鼻先で香る太陽の匂いが懐かしい。日光浴の匂いで、幸太郎の胸中が満たされる。

「幸ちゃんどうしちゃったの? そんないきなり」

 狼狽している奈々子の耳元で幸太郎は尋ねる。「夢?」

「夢じゃないと思うけど……」探すような口ぶりの後に、奈々子は力強く断言する。「これが何であっても、私は幸ちゃんの味方だよ」

 その一言で、幸太郎の心を支えていた柱がふやけた。もう一生聞けないと思っていた言葉が聞けて、目尻に涙がたまる。子供じみた嗚咽を漏らしながら幸太郎はより強く少女を抱く。奈々子は泣きじゃくる幸太郎に何を言うでもなく、ゆっくりと背中をさすり始めた。

「何か、怖いことでもあった?」

 幸太郎の呼吸が落ち着いて数分、ようやく奈々子が口を開いた。幸太郎は奈々子と抱き合ったまま、うなされたように漏らす。「この一年間、奈々子がいない夢を見ていた」

「私がいない夢?」

 奈々子が不思議そうに首をかしげる。「私はここにいるじゃない」

「そうなんだけど、今もこれが夢なんじゃないかって。奈々子に会える夢は何回も見てそのたびに目が醒めたから、今回も醒めるんじゃないかって」

 幸太郎のまとまらない言葉を笑うことなく奈々子は受け止めて、丁寧な相槌を打つ。

「そんなに不安?」

「不安に決まってるだろ」

 んーと唸った奈々子が、おもむろに幸太郎を遠ざける。未だ目を濡らす幸太郎の額に、奈々子の唇が当たった。額に熱が宿る。それに伴って、強張っていた筋肉が解れる。

「おまじない。これで元気出た?」

 温かく笑む奈々子につられ、幸太郎も口の端を緩める。「ちょっと、元気出たかな」

 奈々子に励まされ大きく一息ついた幸太郎の方に、背後から手が乗る。不覚にも体が跳ねた。


昨日髪切りました。結構短くなっちゃいまして、ヒゲも少し伸びてたせいかどうにも男性に興味ある男性みたいなビジュアルになってしまい、ちょっとだけこりゃどうしたもんかと困っております

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