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第二話 入学準備

碧西(あおにし)中学出身、重原 遼(しげはら りょう)です。趣味はTVゲーム、人見知りなところもあるので気軽に話しかけてくれると嬉しいです。一年間よろしくお願いします!」


 …………ま、自己紹介はこんなところか。


 鏡相手にそう呟きながら、もう一度身だしなみを念入りに整える。


 特に高校生活に何かを期待しているということも無いし、やりたいことや目標といったものもない。

 言ってしまえば今から3年間通うことになる高校自体に興味が無いので、鏡の向こうで仕切りに髪型を整える自分自身の姿に思わず吹き出しそうになる。


 落ち着けよ、俺。高校生活に一体何があるっていうんだよ……。


 そう自分自身に言い聞かせても手の動きは止まらず、胸の鼓動は落ち着かない。

 たぶん、体自身がわかってるんだ。

 過去の経験から、今日という日を失敗すればこれから三年間、どんな悲惨な生活が待っているのかを。


 結局、洗顔・歯磨き・髪型のセットに20分近くを費やし、ようやく俺は三年間肌と触れ合わせることになるブレザーに袖を通す。


 ん〜、そうだな。ブレザーはネクタイを見せるためのV字ラインがあることから、学生服より防御力に劣る……。

 学生服の場合、真ん中に硬いボタンが付いており、それは腹部を狙ういじめっ子達にはある程度の抑止力になっていた。

 それが無くなるのは正直つらいがこの際仕方あるまい。


 まぁ、高校生になって訳もなく殴りかかってくるヤツなんていないよね……?

 うん、いない……はず……。

 そう信じたい……。



「あれ〜? お兄ちゃんがスーツきてる。なんで?」


 振り向くと母親と一緒に優香が寝ぼけ眼で立っていた。

 寝癖で髪は乱れているものの、瞳は大きく鼻や輪郭も整っているので容姿はいわゆる美少女の類に入るのだろう。

 容姿について言えば昔は、よく似た兄妹と言われたものだった。そう……昔は……。


「あれがお兄ちゃんの新しい制服よ。どう? かっこいいでしょう?」

「んー、なんか高校生みたい」

「高校生よ、本物の」

 

 母親は笑いながらそう言うと俺の姿を舐めるように見る。

 なんか照れ臭い。


「それにしても立派になったわね〜。高校生の遼の姿、お姉ちゃんにも見せてあげないとね! 今日は何時くらいに帰れるかしら?」

「学校は午前中だけだから、帰ると2時くらいかな。姉ちゃんの病院はその後いくよ」


 俺がそう答えると、母親も静かに分かったと頷いた。



 もう4年も前のことだ。当時高1だった姉は何の前触れもなく突如として意識を失い、それから今日まで入院生活が続いていた。

 未だに意識は戻らず、点滴で命を繋いでいるといった状態だ。

 原因は不明……担当医師が言うには、状態から脳死の可能性もあるが、脳の内部に異常はなく、外部からの損傷もないため全く判断がつかないという。

 同時小6だった俺は事の次第が理解できず、てっきり姉はただ寝てるだけなんじゃないかとも思ったものだ。

 実際、姉は肌こそ白いものの、体には温もりもあったため、今にも起きて笑顔でおはよう! と挨拶をしてきそうな気さえした。

 原因不明で、回復も望めないということから、医師にはドナー提供も提案されたらしいがそれはきっぱりと断ったらしい。

 

 ま、うちの母親なら当然の選択かな……。


 当時は妹と毎日のように病院に通っていたが、今では月に一度くらいの頻度にまで通う回数は減っている。

 俺も高1となり、当時の姉と同じ年齢だ。

 久しぶりに会いたいと思った。

 できれば、寝ている姿の姉ではなく……昔の明るく、優しい姉に……。

 


 時刻は5時50分、電車の発車時刻がせまっていた。

 俺はスクールバックを手に取り、玄関へ向かう。


「じゃあ、行ってきます」


 母と妹の声に送られ、俺は玄関の扉に手を掛ける。


 姉の分も、俺がいい高校生活を送らなくちゃな。

 そんな思いを胸に秘め、俺は高校生の第一歩を踏み出した。



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