第一話 憂鬱な朝
僕を呼ぶ声がする……。
一体誰だ? さっきっから耳元で……ってどんどん声が大きくなってくる、もしかしてさっきの天使様かな?
天使様っていったら白い服装をした幼い美少女ってイメージがあるのは僕だけではないはずだよね?
べ、別に僕にはロリコンっていう趣味はないんだけど、これ以上天使様を待たせて悲しい思いをさせてしまうのもあれだしね。
ほら、まだ僕のことを呼んでるよ、ちょっと声が低くなった気がするけど怒っているのかな?
「……りょう! 起きなさい! 遼、聞いてるの?」
「はーい! 天使様、おっ待たせぇぇぇ……え?」
僕の目の前に天使はいない……もし仮にこの人が天使だというのなら僕は絶対に天国には行かない。何があろうともこの世にしがみつき続ける……それかいっそ地獄に落ちる……。
「誰だ、ババァ! 一体僕になんの用事……ウグっ……!?」
む、胸がいてぇ……! な、殴られた?
胸を押さえながら上を向く僕。その視界には年齢にして45歳くらいのババ……コホン、母上様の姿が映っていた。
「は、母上様!? お、おはようございます」
「おはようじゃないわよこのバカ! 何度呼んでも降りてこないし、いったい今日まで5日間部屋に鍵をかけて何をしてたの? ご飯はちゃんと食べてたんでしょうね?」
部屋の扉の方へ目をやると、突入するために扉をぶち壊した形跡が生々しく残されていた。
どうして母上様がここまでしたのかというと、その理由は今日という日にある。今日は僕の高校の入学式だったのだ。
春休みのど真ん中ならともかく、入学式当日の朝まで部屋にこもっていたというとなると流石に母上様のお怒りが理解できる。
反省してます! 反省してますからどうか怒りを沈めてください!
「だいたい、母さんにむかってババァって、ゲームばっかりやってるからそうゆう暴言ばっか吐くようになるのよ、まったく」
それは違う! 僕は心の中で反論した。
ゲームは一切関係ない。全ての原因は僕の目を開ける前までの思想にある。
考えてもみてほしい、仮に僕の目を覚ます前に持っていたイメージが美しいロリ天使様ではなく、白い髭を生やした男の神様だったとするならば目を開けた後に受けた衝撃の大きさも違うものだったはずなのだ。つまり、ゲームに非は一切ないのだかーーーー。
「とにかく、今度一言でも暴言吐いたら即刻ゲームとパソコンは処分するから!」
ーーーー僕がそのことを証明することは不可能のようだ……。
結局、母上様は僕に朝食はもう出来てるから早く準備して学校へ行けと伝えた後、捨て台詞に壊れた扉はあんたの弁償ねと言って部屋を出て行った。
扉っていくらくらいするのかな? ダンボールとかでもいいからとにかくワンコインくらいで済ませられないかな? そうしないと今月の僕のゲーム資金が……ってまあ、それはいい。なんとかなるだろう、そんなことよりもーー。
「やはり夢だったか……」
恐怖の対象が去ったことにより、僕の思考はあの事に切り替わっていた。
5日間、友人に言われた通り実行してみたけど結局、次元を超越することなんてできなかったじゃないか……。
5日目の夜、限界を超えた僕の体が機能を停止(気絶)し、そのまま眠ってしまって普通に夢をみたってことかよ……。
騙された怒りがふつふつと湧いてくる……。これは……問い詰める必要がありそうだ。
携帯電話を手に取り、僕に偽物の情報を流した男に電話をかける。何を問い詰めるかって? 決まってる! 今度こそ異世界に行く方法を聞き出すのさ!
プルルル、プルルル……。
お決まりの電話の音が僕の鼓膜を揺らすこと数秒……。
『んだよ遼、こんな時間に電話なんて……俺まだ眠いんだよ』
でた! こいつこそ僕の純粋な気持ちを弄んだ重罪人!
「うっさい! こっちは今日から毎日この時間に起きなきゃダメなんだよ。それでどうなってんだよ! 前に教えてもらった異世界に行く方法、まったく効果ないじゃんか!」
『……お前は一体何を言ってるんだ?』
すっとぼけるつもりなのかこの野郎!
「だから前に言ってた5日間ぶっ通しでプレイしたらって話だよ! どうなってんだよ?」
『あー、あれか……ってお前マジでやったのかよ?』
「当然だよ!」
なぜだろう? 携帯の向こうから長いため息が聞こえてくる……どうしてお前の口からため息がでるのさ!
『高一にもなってお前は……本当に筋金入りのバカだな! 異世界なんなあるわけないだろう!?』
「な、なんてことを言うんだ! 年齢なんて関係ない、男はみんなロマンを追い求める生き物だ。異世界こそが僕のロマーー」
『いいか聞け!』
僕の反論が途中で遮られる……。こいつ、聞く耳を持っていないのか!?
『俺はもうそんなバカ妄想もゲームも卒業したんだ! 5日間もやってりゃ流石に飽きて正常な頭に戻ると思っていたんだが考えが甘かったみたいだな!』
ゲームを飽きる? この僕が? そ、そうか……僕の知らない合間に頭をどこかにぶつけちゃったんだね、可哀想に……。
『いいか、俺たちは今日から高校生だ!