早見坂高校駅伝部
気分転換に書いた短編となります。
僕、神埼修一が早見坂高校駅伝部に入って早1ヶ月が経過した。
僕が入学したころ、この高校の駅伝部は名門と言うことで有名だった。
それがまさかこんな部活だったとは……。
俺は嘆息した表情で部室の扉を開けるといつもの光景が広がっていた。
「おう、神埼どうした?」
僕に声をかけてきたこの長身で長髪の人は永坂恭平先輩で3年生の先輩である。
耳にピアスをしていたりと何かと派手な人である。
そして現在先輩が読んでいる本について俺はあきれてしまう。
「永坂先輩は一体何の本を読んでいるんですか」
「何って……エロ本?」
「そんなはっきり言わないでください。それに何で部室でそんな本を読んでいるんですか!」
そう、永坂先輩は女の子が大好きな先輩である。
どれくらい好きかと問われると、レース開始直前まで女の子をナンパして引っかかった女の子とレース後2人でデートに行ってしまうぐらいの女好きだ。
この女好きは果たして何とかならないものなのか。
噂では他校の生徒を含めると5又をかけているという噂もある。
「もういいです。とりあえずその本は没収しますからこちらに渡して下さい」
「悪魔め…!」
「悪魔で……いいよ。悪魔らしいやり方でその本を回収させてもらいますから」
「神埼君も分かってきたじゃないか」
僕が後ろを向くと眼鏡をかけた坊主の先輩がこちらを向いていた。
この先輩は田子正志先輩、2年生である。
この人も他の先輩同様一癖もふた癖もある人です。
「君もいい感じでこちらの世界に染まってくれたんだね。さぁ君も夏のイベントに向けて薄い本を一緒に作ろうじゃないか」
「そんなものは作りませんよ。あなたは何を言っているんですか」
そう、この田子先輩は生粋のオタク趣味を持った変態である。
なんてったって普通に部室でギャルゲーしたりアニメ見る猛者なのだ。
いい加減にしてくれと俺は思っているのだがそれを言ってもこの先輩は聞いてくれない。
「なんだと……苦労に苦労を重ねて私はサークルチケットを手に入れたのだぞ。これを有効に使わなくてどうするのだ!」
「その情熱を少しは陸上に当ててくれませんかね……」
「うん。それ無理」
「どこかの宇宙人じゃないんですから、真面目に答えて下さい」
「宇宙人じゃない。情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースだ」
「そこにダメ出しですか?」
駄目だこの人……早くなんとかしないと……。
まともな人はいないのかよ、この部活は。
「お前らそこにたむろっていてどうした?」
「真田先輩!」
俺と田子先輩の後ろから出てきたのはこの駅伝部のキャプテンでもある真田伸二先輩である。
髪は整えられた無造作ヘアーにさわやかな表情をしたイケメンである。
これでなぜ彼女ができないのか皆不思議に思っている。
「真田聞いてくれよ。神崎が発情して俺の大人の教科書を奪おうとするんだ」
「何をねつ造してるんですか。もともと永坂先輩がエロ本なんかを部室に持ってくるのが悪いんでしょ」
「エロ本じゃない。大人への階段を上るための教育本だ」
「同じことでしょ」
そもそも学校にエロ本なんか持ってくるなよな。
漫画なら分かるが18禁ものってなんだよ。
しかもそれは高校生が持っていていいものなのか?
「確かにな。そんなものを部室で読むんじゃない」
よし、真田さんよく言った。
さすがキャプテン、言うことがちがうねぇ。
「読むんならこっちを読め」
そういい、永坂先輩に向けてある本を差し出した。
俺は永坂先輩が手を取る前にその本を取り、タイトルをよく見ると……
「って、これも没収だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「神埼、これはそんな不埒なものではなくて正当な代物だろ」
この人はこのタイトルを見てもそんなことを言っていやがるんですか。
毎度毎度思うが何なんだよこの部活は。
「ならこのタイトルは何なんですか。どう考えてもあり得ないでしょ」
「これはな二○プ○と言ってな、正当なファッション誌だぞ」
「なんで高校3年生の健康な男子が小学生のファッション雑誌なんか持ってるんだよあり得ないでしょ」
「それはほら近所の保育園に通っている女の子をゆう……いや、お持ち「いわせねぇーよ」」
この人もか。
分かっていたけどこの人もこういうことをするのか。
そう、うちの部活のキャプテンである真田先輩は生粋のロリコンである。
うっかり小学校や保育園の所で女の子を観察するのが趣味と言っているまさにど変態。
最近だと夢は教師になり、小学生にバスケを教えるんだと言ってやがるんだからこの世は恐ろしい。
しかも頭もいいため本当に教師になってしまいそうで恐ろしい。
「でも、あれだ。最近の小学生は小学生らしくないファッションをしている。こうもっと派手ではなく小さい子向けの可愛い服装があるだろうに。俺的にはもっと……」
「真田先輩、それ以上言うとつかまりそうになるのでやめましょう」
だめだこいつら。はやくなんとかしないと。
「そう言えば真田先輩はもっかん派でしかっけ?」
「いや、俺はまほまほ派だ。あの元気っ子がまたたまらないんだよな。でもやっぱりひなたちゃんも……」
「すとーーーーっぷです。もうエロ本読んでてもギャルゲーやっててもロリコン最高でもいいですから早く練習しましょう」
「いや、ロリコン最高じゃなくて小学生は最高……」
「なんでもいいんで早く練習メニューを発表して下さい」
全く、この部活は本当に名門の駅伝部なのか。
こうしていると本当に疑わしくなってしまう。
「わかったから、じゃあ着替えてそこの階段の踊り場に集合な」
そういい、俺等は制服から練習着に着替え階段の踊り場集合して練習を始めた。
「やっぱりこのゲームはいいですね。特に月のお姫様がまた一段といいですよ」
「もしも~し、あぁ可奈ちゃん。今日さ暇なら遊びに行こうよ。そう、最近できたあそこでさ……」
練習後、いつものような光景がここにはあった。
永坂先輩は女の子を遊びに誘い、田子先輩はギャルゲーをしている。
そして真田先輩は……あれ? そう言えばどこにいるんだ?
「神埼、ちょっと来てくれないか?」
珍しく真田先輩が部室の外で俺のことを呼んでいる。
「真田先輩、どうしたんですか?」
「あぁ、お前にちょっと話があってな……まずこれを見てくれ」
そういい、真田先輩から渡された書類を受け取る。
その書類には小学生低学年ぐらいの女の子の写真が……って。
「真田先輩は何をやっているんですか!? これは犯罪ですよ」
「すまん。それは知り合いからもらった大事なコレクションで……」
「没収です」
全く、この人は油断も隙もないんだから。
こんな犯罪まがいなものを持ってきて。
真田先輩もそんな残念そうな顔をしないでください。
「うっ、俺のコレクションが」
「それよりも俺を呼んだのはこのためですか? それなら帰りますよ」
「違う。こっちの書類だ」
もう片方の書類を受け取るとそれは今度行われる県大会の出走リストだった。
もちろん1年生の俺は見学だとこの時は思っていた。
このリストを見るまでは。
「1500mに僕の名前がありますが……これって?」
「俺が5000m1本に専念してインターハイ路線はやろうとしているんだ。そうすると1500mの枠が1つ空くからな、お前を推薦しておいた」
「俺なんかでいいんですか?」
名門だけあって色々な選手がこの部内にはいる。
その選手たちを差し置いて、本当に僕が出場してもいいのだろうか?
「いいんだよ。お前のがんばりとか練習の出来を見て決めたんだ。異論はない」
そういう真田先輩は優しく俺の頭に手を置いて、「頑張れ」と小さく声をかけてくれた。
こういう所を見ると本当にこの人がキャプテンでよかったなと思う。
「だからさ、神埼……さっきの書類はいいから写真だけでも返してくれないかな」
「ダメです。あれは後でしっかり焼却炉で火葬しておきますので」
「鬼、人手なし、悪魔」
「悪魔で……いいよ。悪魔らしいやり方で……」
「やめて~~悪魔らしいやり方でその写真を処分しないで~~」
前言撤回。
やっぱりこの人もダメ人間である。
「あっ、修一だ」
家に帰る途中、僕は見知った女の子を見つけた。
肩口まで伸びる髪に身長は僕の胸ぐらいしかない女の子。
篠山彩乃、僕の幼馴染である。
彩乃は僕の幼馴染で家がお隣さん同士でもある。
なので小学校、中学校までは同じ学校でもあった。
クラスは小学校の5、6年次と中学生はずっと同じクラスである。
正直僕の幼馴染補正を抜いても彼女は可愛い。
中学生の時は彼女に告白する人は後を絶たなかった。
僕も告白をしようと思ったのだが、彼女には好きな人がいるとわかったため告白はしていない。
彼女に振られるぐらいなら、いっそこの関係を楽しんでいた方がいいと思う。
そう思い、今に至るわけで正直今は彼女とあまり顔は会わせたくなかったりする。
彼女の顔を見るたびにどんな顔をすれば分からないのである。
「彩乃か? そっちは今日も練習か?」
「うん、そうだよ」
最近はこうして駅でばったり会うことが多い。
全く何の因果なんだろうな。
「確か彩乃も、陸上だっけ……」
「そう、今日選手の発表もあって私も選ばれたんだよ」
「そうんなんだ。よかったな」
どこかうれしそうにしている彼女を見て俺もうれしくなる。
僕は彼女には幸せになってほしい。
あの日彼女が好きな人がいるって話を聞いた時から僕が思っていたことだ。
そのことで僕が彼女の負担となってしまうならそれは取り除いてあげないと行けない。
「それよりも、修一はどうなの? 今の学校楽しくやってるの」
「あぁ、ボチボチやっているよ」
「それならいいや」
彩乃はどこか不満そうな顔をしている
何に怒ってるのだろう。
「そうだ、修一は今度私のレースを見に来てよ」
「いや、その日はちょっと……」
言えない。
まさか当日その会場に俺もいて、選手に選ばれているなんて口が裂けても言えない。
「分かった。その日見れるように都合付けて行くから、絶対勝つんだぞ」
「うん。私、絶対優勝するから……優勝したらその……」
彼女は何か口ごもっている。
それよりも大変なことになったな。
まさかレース会場で会うことになるとは。
「じゃあさ、一緒に帰ろうか」
そういい、彼女は僕の手を引いて走り出した。
彼女のこういう所だけは変わっていないと思う。
いつも元気で、明るく、僕を引っ張って行く。
僕はこの彩乃のままいてほしいと思う。
それが僕の唯一の願いであった。
大会当日、我ら早見坂高校駅伝部は陸上競技場の近くに青いビニールシートを敷いて陣取っている。
大会当日の陣取りは1年生の仕事である。
それは選手も例外なく、僕もその陣取りに参加をした。
「神埼、お前緊張しているのか?」
「べっ、別に緊張なんかしていないですよ」
今シートには僕と永坂先輩と田子先輩しかいない。
僕たち3人は男子1500mの選手である。
なので準備に余念がない。
「こりゃ、緊張してるな。よし神埼、これからちょっとナンパでもしにいくぞ。付き合え」
「付き合えじゃないですよ。永坂先輩は少し緊張感を持って下さい」
「それよりも神埼君、そんな装備で大丈夫かい?」
「大丈夫だ、問題ない……ってここで何をやらせる気ですか。僕はこれから聖戦でもするんですか?」
「ある意味聖戦だ。2次元の女の子達の為にも負けるわけにはいかない」
だめだ。この先輩達は。
僕が1人で嘆息していると前から真田先輩が戻ってきた。
「どうだい、3人とも。準備は順調かい?」
「いや、むしろ先輩達が不安で……」
後ろを振り向くと永坂先輩は携帯でメールを打っていて、田子先輩はゲームをし始めた。
こんなに緊張感がなくて大丈夫なのか?
「まっ、この2人はいつもこんな感じだから」
「はぁ」
こんな感じって……本当にそれでいいのか
「それよりもそろそろ競技場の方に移動するぞ。エントリーが始まる」
「了解です」
そういい、僕らは競技場に向かう前に準備をする。
えっと、スパイクにタオルに着替えに……よしこれで準備はオッケーかな。
そう思い、先輩達の方を方を振り向くと思いがけないものを見てしまった。
「ちょっとまてーーい」
俺の呼び声に2人の先輩が固まる。
「なんだよもうレースだぞ」
「神埼君もう行かないと間に合いませんよ」
「先輩方、その手に持っているものは何ですか?」
「何って、スパイクに着替えにタオルに……カメラ?」
「まず何でカメラが必要なんですか? これはどう考えたっていらないでしょ」
「ほら、可愛い子をこう激写するために……」
「却下です。そんなものは置いて行って下さい」
「じゃあ俺が預かっておくよ。」
そういい、真田先輩が永坂先輩のカメラを没収した。
さすが真田先輩と言いたいところだが不安が尽きない。
もしかしてそのカメラで幼女でも激写する気ではないだろうか。
「はっはっは。だめですね。永坂先輩は。そんなものを持っていて。自分が変態とアピールしているようなもんじゃないですか」
「いや、田子先輩も人のこと言えません。そのタオルは何ですか?」
「これは愛しのフィー○たんのタオルで裏をめくると麻○ちゃんになるというリバーシブルな性能のもので……」
「没収です」
そういうと僕は田子先輩からタオルを没収した。
全くこの変態先輩達は油断も隙もない。
しかし、2人とも明らかにテンションが落ちている。
自分でやって置いて何なんだがこれはどうするべきか。
「じゃあこうしようか。2人とも予選で1位通過できれば決勝レースで好きなようにしていいってのはどうかな」
「「本当に」」
なんか2人のテンションが妙に上がっている。
これで本当にいいのかよ。
「神埼、早くいくぞ。さっさとレースをして1着になって決勝レースで女の子ナンパするんだ」
「神埼君、何としても1着を取り、決勝ではフィー○たんタオルを使おう。君は予選を通ったら特別に裏の麻○ちゃんを使う権利を上げよう」
2人とも鼻息を荒くして陸上競技場に向かった。
遅くなったがこの1500mの種目は午前に行われる予選と午後に行われる決勝レースの2つのレースがある。
予選のレースは各4組上位3人が決勝レースに無条件で進むことができ、4組の中で決勝レース進出者を除くタイム上位3名が決勝レースに進める。
「真田先輩大丈夫なんですかね……永坂先輩達?」
「大丈夫だよ。あいつらやる時はやるから。それよりも今は自分の心配をした方がいいんじゃない」
「そうですね。そうします」
そうして俺もどっとした疲れを感じながら陸上競技場に向かった。
「よくやったな。神崎快挙だぞ。快挙。普通1年生で決勝残れることなんてないんだからな」
「そうですよ。神崎君。まさにCOOL!最高だ!超COOLだよ神埼君」
永坂先輩はいいとして、田子先輩、あなたはそのうちどこかのマンションの屋上から射殺されるんじゃないですか
俺は先輩達にそんなことを言われても憮然としていた。
今はお昼時であるため僕たちはこうしてコンビニに言ってご飯を買ってきていた。
もちろんお昼は冷やしうどんである。
うどんは消化にいいと先輩に言われたため、こうして買ってみたわけだ。
そして現在はその帰り道である。
「別にうれしくないですよ。タイムで拾われただけじゃないですか」
「でも決勝には残れたんだからよかっただろ」
そういい、キャプテンが俺の頭に手を乗っけてきた。
先ほどのレースは俺としてはふがいなかった。
先のレースで永坂先輩と田子先輩は余裕で1着を取り決勝レースに駒を進めた。
対照的に俺はボロボロだった。
初めの方は前でレースをしていたが、後半になって明らかにペースが落ちて行っていた。
残り50mで4位に落ち、もう駄目だと思った所でのタイムでの決勝進出。
先輩達にあんな口叩いておいてはっきり言って格好悪い。
「そんな君にはこのこの麻○ちゃんタオルを貸してあげましょう」
「いいですって。僕は大丈夫です」
そう言いながらも田子先輩は俺にタオルをかけてくるのを必死によける。
これ絶対遊ばれているだろうな俺。
「でも格好悪いですよ」
「神埼君は格好悪くない。それは俺が保障してあげるから。午後からのレースもあるし、気持ちを切り替えて行こう」
そういうと乗っけた手で頭をぐしぐしされる。
おかげで僕の髪はぐちゃぐちゃだ。
でもキャプテンの言葉のおかげで少し切り替えられたかもしれない。
「しかし、意外だな。神崎がここまで格好とかにこだわるなんて……さては女か?」
「違いますよ。永坂先輩何言ってるんですか」
確かに今日のレースは彩乃も来ているはずだ。
もしかしたら今日の僕が出場したレースも見ていたかもしれない。
だから格好悪い真似ができない。
僕はそう思って少し気負っていたのだろうか。
そうだとしたらはずかしい。
彩乃には好きな人がいるし、もう振り切ったはずなのだから。
そんなことを考えていてはダメだ。
にまにま笑っている永坂先輩が微妙に核心をついていただけに異常にむかつく。
一発殴ってやった方がいいのかな。
「お前も色気づいてるな。俺が手取り足とり教えてやろうか」
「そんなんじゃないですって。第一僕は永坂先輩みたいに色んな女の人に手を出したりしません」
「ということは神埼君は本命がいるっていうことですか」
「そういうことじゃないですよ」
そういい、笑っている3人の先輩を見て僕の顔はさぞかし赤くなっているだろう。
絶対この先輩達からかってるな。
完全に遊ばれている。
「あっ、もしかして修一?」
後ろからの声に振り向くとそこには龍堂高校のジャージ姿に身を包んだ彩乃がいた。
「やっぱり修一だったんだ。そのジャージ早見坂高校のだよね。じゃあさっき走っていたのって修一?」
「いや……あれは」
「うん。あれは神埼君だよ。そう言えば君の名前は?」
俺が否定する前に真田先輩が俺の変わりに応えた。
真田先輩、余計なことをしないでください。
「申し遅れました。私、篠山彩乃と申します。修一とは家が隣の幼馴染で小学校と中学校は同じ学校でした」
元気よく答える彩乃はいつもの彩乃だった。
それよりもなんかいつもよりうれしそうな顔をしてくるのが気になる。
「それよりも……ふーん修一陸上部に入ってたんだ。何で教えてくれなかったの?」
「いや、それは……」
「篠山さん、申しわけないけどそれはお互いのレースが終わってからでもいいかい? 彼から君に大切な話もあるらしいから」
「えっ……それって……」
僕が何かを言う前に後ろから永坂先輩と田子先輩は僕の口を押さえて身動きをとれなくする。
てか余計なことは言わないで下さい。
頼みますから。
「篠山、そいつと話す必要はないぞ」
そういい、後ろから龍堂高校のジャージに身を包んだ人が前に出てきた。
その人は頭は坊主だが、顔は整っていて格好良く、眉が少し太いのが特徴的だった。
「早見坂は変態として有名だからこいつらと一緒にいると変態が移るぞ」
「失敬だな。俺達がいつ変態になったっていうんだ」
いや、あなた達もともと変態だったでしょう何て口が裂けても言えません。
「そこのナンパ野郎といい、ア二オタといい、お前たちを変態と言わず何ていうんだ?」
「そんな変態にお前は負けているんだがな、森崎」
森崎と呼ばれた男はうっとうめくとやがてにやりと笑い、こちらに向き直す。
「レースで俺から逃げたくせに……」
「逃げてないだろ。5000mはお前と同じなんだから」
「でも、1500mは逃げただろう」
森崎と呼ばれた男は語気を荒げてそう言った。
何なんだろう、この人は。
何か真田先輩と因縁でもあるのかな。
「大丈夫だ。今年はいい1年生がいるからな」
そういい真田先輩は俺を前に出した。
はい? この人何をしてるの。
「誰だ? そいつは」
「こいつは神埼修一だ。今うちの1年生で1番の有望株だ。お前なんかこいつで十分だ」
その言葉を聞いて、森崎はさらに怒ったような顔を見せた。
「そいつで十分だと……」
「あぁ、もし負けたらお前の言うこと俺がなんでも聞いてやるよ」
「言ったな。しかとその言葉覚えておけよ。篠山、お前も行くぞ」
「はっ、はい」
そういい、彩乃も森崎と言う男について行ってしまう。
「そうだ、修一」
「なんだよ」
「私も1500m決勝残ったの。だからちゃんと見ててね」
そうこちらを向いてウインクをすると彼女は森崎について行った。
「そういうことだから、頼むよ。神崎君」
「キャプテン、そんなこと言われても……」
「大丈夫、君ならできるから」
真田先輩にに笑顔を向けられるが俺は正直不安だ。
森崎って人に勝てるわけがない。
「真田先輩、そろそろいいですか」
「俺等はこいつに聞かなきゃいけないことがあるので」
「そうだね。俺も聞きたいなあんな合法ロリ、あっ違った。可愛いことどういう関係かってことも含めてね」
「今違ってないでしょ。言いきったでしょ」
「そんなことはどうでもいいの。さぁ行こうか」
真田先輩の合図で俺は永坂先輩達に抱えられて自分たちの陣地に戻った。
この後行われることは考えたくもない。
お昼ごはんを抱えた僕はそう思った。
「事情は分かったわ。お前にいい所見せてやるから安心しとけ」
「神埼君が森崎に勝てるようにちゃんとお膳立てしておくから」
「いや、レース前にそんなことしている2人に言われたくないんですけど」
只今男子1500mのレース前である。
それなのに2人ときたら何をしているのだろうか。
「えっ? 俺はさっき会った恵ちゃんがこれからお茶に行きたいっているからちゃんと待ち合わせの準備だよ」
「私はタオルで汗をぬぐっているだけなのだが」
「永坂先輩は、直前でやめて下さい。田子先輩は……もういいです」
田子先輩のフィー○たんタオルについては言及するのはやめておいた。
なんかレース前に疲れたわ。
そしてこの2人のおかげでうちの高校だけ非常に目立っている。
はたから見るとこの光景は異質である。
『男子1500mを始めますので位置について下さい』
「よし、行くか」
そう、永坂先輩が言うと僕たちはレーンの方へ向かって言った。
ちなみに先ほど行われた女子1500mは彩乃が1番だった。
彩乃の表情は見えなかったがきっと楽しそうだっただろうな。
今もどこかでこのレースを見てくれているのだろうか。
「神埼君」
「何ですか」
「必ず勝ちましょう。そして篠山さんにいい所を見せましょう」
「はい」
『位置について』
そのアナウンスとともに俺は集中しに入る。
負けるもんか。
このレースだけは絶対に負けられない。
ピストルの音と同時に俺はスタートを切った。
意外にペースが速いと思う
走り初めての俺の感想だった。
最初の400mの入りが60秒ジャスト。
このペースで行くと1500m3分48秒で走れてしまう。
これはインターハイでも優勝できるようなタイムなので驚きである。
しかし、ここまで誰も離れないでくらいついている。
むりもない。
このレースにインターハイがかかっているのだから。
800m通過直後、今度は周りの選手が徐々に脱落し始める。
俺も正直足がパンパンで一杯いっぱいである。
ただ、ここで負けるわけにはいかない。
彩乃が見ているのである。
「800m……58、59、60、61、61秒だ。踏ん張れ神埼。ここが勝負どころだぞ」
走っている横で真田先輩がタイムを読み上げる音が聞こえる。
だめだ、もう足が棒のようになっている。
だが、僕は一向に先頭グループから落ちる気配がない。
もしかして、先頭グループの人達も結構足にダメージがきている?
ふと後ろを振り向いてみると後ろには誰もついてきていない。
今先頭に残っているのは永坂先輩と田子先輩、後龍堂の森崎さんと僕だけだ。
これはいける?
そう思った瞬間、残り1周の鐘が鳴り響いた。
まず最初に仕掛けたのが田子先輩である。
今まで引っ張ってきた永坂先輩を追い抜き、前に出る。
しかしそれには全員対応をした。
誰一人離れること無く、ついて行く。
残り300m今度は龍堂の森崎さんが仕掛けたこれには田子先輩が少し遅れだすが永坂先輩と僕はついて行く。
もう、足が痛いし呼吸は止まりそうに痛い。
でも走らなくちゃ。
彩乃も見ているのだから。
残り200m、そこでレーンの外に彩乃がいるのが分かった。
何か言っているのは分かったがそれを俺は上手く聞き取れなかった。
多分森崎って人の応援だろう。
だが、俺はここで仕掛けるしかない。
そう思い、決死の思いで足を動かす。
幸いなことに誰も付いてきていない。
これはいける後100m残りはこの直線だけだ。
勝ちたい思いで俺は足を動かす。
もう少しなんだ。
頼む。
足よ動いてくれ。
後50m。
呼吸が苦しい。
意識がもうろうとする。
後20m。
目の前につながれたテープを俺は駆け抜ける。
駆け抜けた後、俺はほっとした。
やったんだな。
勝ったんだな。
そう思った瞬間、そこで俺の意識は途切れた。
「修……、……一、起き……」
俺はその声に目を向けると天井が広がっていた。
いや、天井じゃないな。
天井半分、彩乃が半分って所か。
「あっ、修一、私が誰か分かる」
「彩乃だろう。誰が見ても分かるよ」
そういえば何で彩乃がこんな所にいるんだ。
「全く、君は本当に幸せ者だね」
「真田先輩?」
気付くと真田先輩が俺の荷物を持って彩乃の隣の椅子に座る。
「君がゴールテープを切って倒れた瞬間篠山さんが真っ先に君の所に行ったんだよ。そして彼女が脈を測ったり、その後の君の面倒も全部見てくれて……いや~わかいっていいね~。俺も幼女に同じことしてもらいたいよ」
「真田先輩はこんなときでも、変態さんなんですね。」
俺は侮蔑をこめた視線を真田先輩に向けてやる。
こりゃあ筒隠月○がいたらきっと罵倒しているはずだ。
「そう言えばレースの結果はどうだったんですか?」
真田先輩は何か言いにくそうな顔をしている。
「2位だよ。最後に修一の学校の先輩に抜かされたんだ」
「そう、永坂が最後君のことを抜いて1位、神埼君は2位になってしまったんだ」
「そうですか……」
俺は負けてしまったのか。
彩乃にいい所を見せられなかった。
「でも、今日の修一は本当に格好よかったよ。予選も決勝も。修一と学校は別れちゃったけどこうしてまた陸上競技であえてうれしいよ」
そういう、彩乃は笑顔だった。
彩乃がこうして笑ってくれるのはうれしいが……。
「でも、負けちゃったし……」
「全然。修一3年生の先輩と互角に渡り合ってたじゃん。修一の記録だって大会新記録って聞いたし、やっぱり凄いんだよ」
そんなことを言われても結局永坂先輩の2番千治。
そんな記録があっても僕は全くうれしくない。
「全く、神埼君がこんなに面倒な子だとは思わなかったよ。篠山さん、神埼君に言いたいことがあるんじゃなかったっけ」
にやりと笑う真田先輩。
何がおかしいんだよ、一体。
「修一はさ、何で龍堂高校にこなかったの? 修一が龍堂高校に行くって聞いたから私もその高校に選んだのに」
いや、初めて知りましたよその話。
そもそも俺、龍堂高校に行くなんて一言も言ってなかったし。
「でも、友達から修一は龍堂高校に駅伝の推薦が来たって言ったから……てっきり行くのかと思っていたんだけど」
「確かに推薦はきたが俺は行く気はなかったよ。それに……今だから言うけど彩乃は龍堂高校に好きな人がいるって言ってたから幼馴染の俺がいたら邪魔かなって思って早見坂に行ったんだし」
「何で? 私龍堂高校に好きな人なんかいないよ。私は昔から修一のこと……」
その話はね耳に水である。
てことは始めから俺の勘違い……。
そう思ったら顔が熱くなってきた。
「やれやれ、これで誤解も解けたようだね。うんうん。一件落着」
一件落着じゃないよ。
どうしてくれるんですか、この雰囲気。
彩乃も顔が真っ赤っだよ。
「おい、神埼大丈夫……」
「神埼君、代わりに表彰状は貰って……」
後から入ってきた永坂先輩と田子先輩もこの光景を見て驚いている。
「真田、これってもしかして……」
「その通りだよ。今神崎君と篠山さんはリア充しているんだから触れないでおこうよ」
「なんですとぉ。神崎君、君には早見坂に来て2次元と言う新しいジャンルを開いたのではないですか?」
そう言いながら俺に詰め寄ってくる田子先輩。
「神埼、お前……こんな可愛い子を手篭めにしやがってうらやま……けしからん」
そう言いながら永坂先輩は寄ってきた。
それはひがみと言うものではないんですか?
だぁもう、雰囲気ぶち壊しだよ。
彩乃の気持ちもさっき聞けたのに。
「修一、私は修一のこと、大好きだから」
そう笑顔で答えてくれる彩乃は世界一可愛い。
もうどんなテレビで出てくるアイドルやアニメの美少女よりも可愛いと思う。
「神埼君には手術が必要なようですね。ではまず、このゲームのすばらしさから伝授しましょう」
「神崎よ。お前の墓場はここでいいか」
そんな光景を見ながら真田先輩と彩乃は横でくすくすと笑っている。
てか、そんなことをしていないで助けて下さいよ。
こうして、僕の陸上部生活は始まった。
へんてこな先輩達が山ほどいるがこれはこれで楽しいのかもしれない。
これから夏のインターハイや冬の高校駅伝等もあるがこのメンバーならいい所まで行ける気がする。
先輩達に迫られている状況で俺はそんなことを考えていた。
ご覧いただきありがとうございます。
感想や評価等をしていただけるとうれしいです。
どうしても駅伝ものが書きたくて書いてしまいました。
後悔はしていません。
ただ、この後この作品はどうするかは考えていません。
感想の方宜しくお願いします。