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交響楽(シンフォニー)-遠い旋律2-  作者: 神山 備
私を星まで連れてって!
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高広のDNA

 我が娘婿笹本純輝は、その容姿も性格も伯父、坪内高広によく似ているが、純輝が一つだけ受け継がなかったものがある。それは、絶対音感。だからといって、彼が音痴だと言うわけではない。ごく普通の音感は持っている。それに、高広ばりの濁声ハスキーボイスは純輝にもコンプレックスらしく、彼は歌うことも苦手だ。

 しかし、たくさん子供が居れば誰かがその能力を受け継ぐものなのか、絶対音感は彼の下の弟、翔真しょうまが受け継いでいた。

 まだ言葉もおぼつかない頃から翔真は、高広の形見として大切にとってあるバイオリンやさくらのギターを鳴らしたがった。たが、彼の祖母や母は、壊しかねないと彼を遠ざける。結果、彼が大泣きするということを繰り返していた。

 それで、困った母久美子は玩具のピアノを彼に買い与えたが、彼は何音か叩いてから、なんと裏を向けてそれを分解しようとしたのだ。慌てて母が止めて叱るが、その時彼は、

「だって、コレ、キモチワルイ。だからショーマが直す」

しれっとそう返したという。

「ホント、お兄ちゃんのバイオリンを触らせなくて正解」

 とその顛末を聞いたさくらは、それに同調することなく、

「今度の休みに翔真を連れて行きたいんだけど」

と言い、彼を連れ出した。

 さくらが翔真を連れて行ったのは、街の大きな楽器店だった。そこで、さくらは彼をごく普通のキーボードの前に靴を脱がせて立たせ(座るとキーが届かなかった)ると、

「さくらちゃんに(笹本家の子供たちはみな母親より年上だがさくらのことをこう呼ぶ)ワンダフルマンの歌弾いてくれないかな」

と言った。ワンダフルマンは翔真や、すぐ上の兄大洋たいようが好んで見ているアニメ番組である。

翔真は、その言葉に、

「うん、わかった!」

と元気に返事すると、しばらく確かめるようにキーを触った後、ワンダフルマンのテーマをボーカルの音だけであるが、一音として間違うことなく弾ききったという。さくらはこのために、まだ女の子しかおらず見たことのなかったワンダフルマンを録画して、オープニングもエンディングも事前にチェックしてあった。

「もう、しゃくりあげまで正確に表現するんだもん、鳥肌立っちゃったよ」

さくらはこの日の夜、興奮気味にそう、私に報告した。

 そして、舞い上がったのはなにもさくらだけではない、さくらの報告を聞いた笹本一家の盛り上がりはそれ以上だった。ここにも高広を受け継ぐ者がいたと、祖父はさっそく彼を楽器店に連れて行き、彼が望むままプロ仕様フルスペックの電子オルガンを買い与えた。その額たるや、そこそこの新車より高額で、後日その額を聞いた私を含む一同を呆けさせる事になるのだが。

 母は、彼を近くの音楽教室に入れた。

 しかし、翔真はたったの三回でその音楽教室を破門されてくる。みんなと一緒におままごとみたいな授業は翔真には向かなかったのだ。挙げ句の果てに、他の生徒とケンカして出入り禁止となった。

 でも、彼はそんなことちっとも気にすることなく、祖父からもらった宝物を日がな一日かき鳴らした。ただ、変なクセが付いてもいけないので、ピアノの経験がある久美子が指使いを教え、ギターの経験があるさくらが楽典を担当した。

 そして、翔真は誰にも師事することなく、小学生を終わる頃には、プロにも引けをとらぬほどの演奏技術を身につけていたのだった。


今年もまた、こいつら帰ってきました。今回はその後の笹本家です。伏見家の顛末でちょろっと出てきた翔真そして、華野・彩加の下三人の話になります。

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