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結局

 親父は最初から親父で、何にも変わっちゃいなかった。それどころかどっちかと言えばウザいほどに愛されていたのだと気が付いた俺は、脱力した後、重要なことを思い出した。うわっ俺、さっき社長に『辞めてやる!!』って啖呵きっちまった……やばっ。

「広瀬さん、勝手なこと言うようですけど、あの仕事受けて良いですか。

あ、でももう社長断っちゃったかな……」

俺はそう言って、後ろに控えていた広瀬さんにビクビクもんで声をかける。

「いや、大丈夫。実はあの仕事もう受けちゃってるから。あの社長が違約金支払うようなな真似すると思うか。

さっきもさ、『お前が絶対に前言撤回させろ』ってしっかり俺に目で訴えてたぜ。

ああ、良かった。お前が辞めたらマジで俺のクビが飛ぶまでにはいかないだろうけど、ネタにされて何ヶ月給料ピンハネされてたかわかったもんじゃないからな。

それに、社長は『バカが調子に乗るだけだから言うな』って言ってたけど、正直相川さんべた褒めだったんだぜ。『演技もだが、あの目がいい。まさに主人公の遙にぴったりだ』ってさ」

けど、広瀬さんはそう言って親指を俺の前につきだした。

「悠馬、役者は辞めるんじゃないのか」

すると親父は、眉をしかめてそう言った。まだ言うか。

「辞めない。だいたい俺、リーマンなんてかったるいことできねぇよ。

それに人のこと言えねぇだろ、親父だって続かなかったんだから」

そうだよ、俺が夢を諦める必要なんてなんもねぇじゃん。

「俺の人形はイヤなんだろ」

俺がそう言うと、親父は憮然とした表情でそう返す。

「イヤだけどさ、6歳の時から延々と吹き込まれ続けたんだぜ、いい加減刷り込みできてて、とっくに俺の夢になってんだよ。

俺、親父の息子だから諦め悪いんだよ。今辞めてもまた絶対に芸能界に舞い戻る。嫁がいようがガキがいようがな」

俺はそう言って、親父に向かってニヤリと笑った。

「悠馬」

それを見た親父が諦めたようにため息を吐く……勝った。

「ホント、親子だよ。不器用で真っ直ぐすぎるとこ、そっくりだわ。

新庄さん、悠馬を引き続きスターライト企画で預からせてくれませんかお願いします」

そこで広瀬さんが頭を下げてダメ押し。親父は渋々首を縦に振ったのだった。


 そして俺の役者人生が始まった。最初の役が終盤死んじまう展開だったので、俺の目指してるワイルドな男じゃなくって、優男役が多いのがちょっと不満ではあるけど、演技することは正直楽しい。それに、いつでも『外』の役者になれるように体はしっかり鍛えている。


 あ、そうそう、ヒラリのことも言わなきゃな。あいつは俺の主演映画第二弾で、いきなり相手役として抜擢された。しかも、まともなオーディションで3桁の中から選ばれたって言うんだからビックリ。

 台本見てこいつに清楚なお嬢様なんてできんのかねと思ってたら、見事に化けてやりきりやがったし。

 そんなこんなで何度か共演した後、飛は俺の嫁になった。今は、女優と嫁の役を完璧にこなしている飛。やっぱこいつってば忍者のDNA持ってると思う。


 そんなリア充の俺が一つだけめちゃくち不満なのが、時々親父の様子を見にいくんだけど(親父『作品のなかに美春がいる』とか言って、ほっとくと仕事に没頭しまくるんだよ)、必ずと言って良いほど家に治人がいるってこと。しかも、ちいの隣に座って当然のように飯を食ってやがったりするし、このあいだなんか

『俺がちゃんと親父さんのことちゃんと見張ってるから安心していいぜ、お義兄さん』って言いやがった。こら、お前5月生まれだろ。俺は11月だ、俺の方が年下だ。ってか、大事なちいをお前になんかやるかよ。


 おい、飛、何笑ってやんだよ。

「そいじゃ、女の子だったらこの子たいへんだねぇ」

って、お腹さすって……お前、それって……

そう思ってると、

「心配しないで良いよ。あたしの撮りは粗方終わってるから。終わったら休めるように事務所にも通してあるよん」

と飛からそう声がする。おまえ、やっぱ忍者だ。ってか、エスパー? 

 いやいや、それより一番の関係者の俺が、事務所より後回しって、その方が問題だろ!

「飛!!」

俺の怒鳴り声に、飛はビクっとした後、舌を出して小首を傾げた。そして、

「ホントに、ありがとうな」

と言った俺に、ドヤ顔で頷く。


 親父、俺に戦隊の魅力を、どーでもいい蘊蓄を聞かせ続けてくれてありがとう。

 俺、今ものすごく幸せだよ。


                -The End-

やっと完結しました!!


初出の時からずっと伏見家の話は書きたいと思ってたんです。

でも、最初は悠馬と治人の千春を巡る攻防戦だったんですけどね。

泰介の純愛に負けました。


で、いきなり出てきた飛ちゃん。最初のあのなんてことない台詞で、作者の中で恋愛フラグ立ってしまって、このオチになりました。


やっぱこの子忍者の末裔だと、作者も思います。

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