ヒーローなんてクソ食らえ!!(前編)
「待ちなさい、悠馬くん、悠馬!」
俺は、店をとびだしたものの、はーママさんの呼び声に、立ち止まってしまった。何だかそれがお袋の声に聞こえたからだ。止まってしまった俺は、程なく広瀬さんに拉致られた。ここにお袋がいる訳がない。そんなの解りきったことなのに。続いて、
「なにかきっと理由があるはずよ。
私も何度かお会いしてるし、純輝からも聞いてるから、伏見さんの人となりはそれなりに知ってるつもりよ。
彼が意味もなく息子が嫌がることをするわけがないわ」
と言うはーママさんから顔を背けて、
「息子? 俺はあいつの息子なんかじゃねぇよ」
と返す。はーママさんはびっくりした目で俺を見つめた。
そう、俺とあいつには血のつながりはない。
伏見泰介という男は、シングルマザーだったお袋に惚れて、アパートに転がり込んできた当時21歳の、ロン毛でいかにも頼んない奴だった。
だけどこの男は、お袋のコブの俺を疎まずに面倒看た。いや、どっちかと言えばあいつの遊びに俺が振り回されていたという方が正しいのかもしれない。そんなだから、俺はあいつにすぐ懐いた。
特撮モノ、戦隊モノも元はと言えばはあいつの好みだった。俺は、あいつの話すどうでもいいような蘊蓄話を膝の上で聞き、それをクラスメートにとくとくと語って聞かせた。
やがてお袋との間に千春が生まれて、あいつは戸籍上も俺の親父になった。ちいが生まれてもあいつの俺に対する態度は変わらなかった。
それからしばらくして、あいつはお袋と同じだった会社を辞めた。ガキの頃から持っていた漫画家になるという夢を捨てきれないあいつの背中をお袋が押したのだ。
だからと言ってすぐに目が出た訳ではなかった。その間、お袋は通常の仕事以外にコンビニでバイトしてあいつを支えた。
そして、10年あまりかかってやっと掴んだヒット作。『これからは楽をさせてやるからな』とあいつもお袋に言ってたのに……
ある日、お袋がスーパーで買い物中に倒れたと連絡があった。慌てて病院に駆けつけたけど、俺がそこで目にしたのは、顔に白い布を被せられたお袋の姿、くも膜下出血だった。
あいつが変わったのはそれからだ。俺を避けるように仕事場に籠もるようになった。
俺は、いつの間にかあいつを本当の親父のように思っていた。けど、それはお袋がいたからだったんだなと痛感させられた。
今回のことは、ちいがもう少し大きくなったら家を出よう、俺がそう思っていた矢先のことだった。
ああ、終わらないったら。けど、伏見家、14年分なので。
次……終わると良いな(キャラに他力本願かよっ!)




