俺はヒーローになりたいんだ!! (前編)
「ハーイ、悠馬ちんおっ疲れぇ」
俺がデパートの更衣室とは名ばかりな倉庫の片隅で着替え終わってドアのところまで来たとき、飛がそう言って片手を上げた。男ばっかのこの場所で、紅一点のお前がどうやったらそんな風に見られずに着替えられるんだ? 名前もそうだし、お前って忍者の末裔?
ま、いいや。今日は県内だから早めにウチに帰れそうだし、ちいに食品売場でケーキでも買ってやるかな。そう思っていると、社員通用口の方から、マネージャーの広瀬さんが携帯で連絡をしながらこっちに向かってきた。おそらく今日のイベントの報告だろう。俺が軽く頭を下げてすれ違おうとすると、広瀬さんが、
「あ、悠馬。ちょっと待って」
と呼び止めた。
「何ですか、広瀬さん」
広瀬さんは返事の代わりに今しゃべっている携帯を俺に渡した。
「お疲れ様です、伏見です」
「ああ、悠馬お疲れ。今日、この後何かあるか?」
俺の予想通り、電話の相手は俺の雇用主である、芸能プロダクション、スターライト企画の社長、森崎さんだ。
「いえ……」
ちいにケーキを買う(これはもう、俺の中では決定事項だ)こと以外というか、対外的には何もない。
「飯食いに行こう」
すると社長はそう言った。えーつ、折角今日は早く帰れると思ってたのに。今から東京なんか行ってたら、帰りは何時になるんだよ。
「は、はぁ……」
俺が気の全くない返事をすると社長は、
「話があるんだよ。うまい飯食わしてやっから、広瀬の車に乗ってこい」
と、笑ってるみたいだけど有無を言わせない調子で俺にそう言った。確かに使われてる身だけどさ、俺ってただのヒーローショーのバイトだよ。そんな奴に何の用事があるんだよ。そう思いつつも、
「はい、解りました。行かせていただきます」
と言って、俺はぐいっと広瀬さんに渡された携帯を返した。はーママさんの顔潰す訳にはいかないもんなぁ。
そう思って広瀬さんの車に乗り、社長の待つなんか高そうな店に行くと、なぜかそこにはーママさんもいた。
はーママさんというのは、人気アイドルグループ、『KIRARA』の『HANANO』の母。はーちゃんのママで、はーママさんだ。戦隊モノのヒーローを目指していた俺に、この事務所を紹介してくれたのも彼女だ。彼の長男(つまりはーちゃんのお兄さん)純輝さんがガキの頃からの友人、治人のねーちゃんの旦那で、彼が母親に会わせてくれたのがきっかけだ。
それだけじゃない、ロックバンド『REAL BAMP』のボーカル、『ショーマ』も、モデルの『彩加』も彼女の子供だ。
というと、はーママさんがものすごいステージママに聞こえるけれど、実際は翔真さんがバンドデビューして、その伝手でアイドル志望だった華野が『KIRARA』のオーディションを受けて合格し、はーちゃんがきっかけで彩加ちゃんがスカウトされるという芋づる式のデビューだったそう。
彩加ちゃんのことも、はーママさんは最初関わるつもりはなかったらしいけど、長女の初羽さん、次男の大洋さんが会社(はーママさんの旦那さんは社長)と家は何とかすると言ってくれて、はーママさんは彩加ちゃんと一緒に東京に行った。
「美味しいモノは大勢で食べた方が良いだろう」
社長ははーママさんがいる理由をそう説明したが、続いて切り出された話で、俺はすぐに社長が意図してはーママさんを呼んだのだと気付いた。
社長は、一冊の本を取り出して、こう言った。
「悠馬、お前このマンガが映画化するんだが、オーディションに出てみないか」
と。
それは、俺が目指してるのとは全然違う少女マンガだった。
えっと、いろいろ考えた末、純輝・悠馬その後編、軸が同じなので一緒くたにお送りすることにしました。
それにしても久美子の説明が長くなってしまいました。
えっと、高広の顔は純輝が受け継ぎましたが、音楽性は翔真が受け継いだと言うことで、幼い頃から絶対音感などの音楽性を発揮し、高校時代からバンドを組んでインディーズからメジャーデビュ-。
はーちゃんはもともと、『笹本家のアイドルはーちゃん』ですから。彩加ははーちゃんを唯一超える『姫』ですし、こうなってしまったわけです。
すいません、笹本家の説明はこれくらいにして、次は悠馬の続きにいきますね。




