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30歳年下のライバル

 純輝は、年子で第3子大洋たいようが生まれて、久美子やその母がそちらに手を取られてしまったということもあって、さくらが面倒みる比率が高かったということもあると思うが、私が彼に初めて会った4歳半の頃にはすっかりさくらっ子とでも言うような感じだった。


 何よりも、幼いその時でさえ、高広の当時の写真と並べてみると一瞬見紛うくらい、純輝の容姿は高広に似ていた。

 そんな彼の事を祖父母が『生まれ変わり』のように接するのも道理だし、さくらにとっても一番思い入れのある子どもとなるのは当然だろう。


 純輝にとってそんな私は、『大切なものを奪っていった憎い男』でしかなかった。初対面の日、私は純輝に子どもとも思えない目で睨まれた。

「はじめまして、純輝君」

そしてそう言ってあいさつした私を彼はシカトした。

「ゴメン、松野さん。この子お姉ちゃん命だから……コラ、純輝! 挨拶くらいしなさい」

「ヤダ……」

半ば呆れ気味に母親に挨拶を促された少年は、小声でそれを拒否した。そして、唾を呑み私を睨み上げると、

「知らねぇよ」

と吐き捨てた。

「純輝!」

「オレ、こんな奴知らねぇ!!」

純輝はもう一度そう言うと、ぷいっと横を向いてそのまま駆け出して行った。

「あれ? あの子オレなんて言わなかったのにな……それにしてもあの言い方、お兄ちゃんにそっくり」

「そうそう、ムリに肩肘張ってるとこなんてね」

首を傾げながら言う久美子に、笑いながらさくらが相槌を打った。(生まれ変わりなんてものが本当にあるのだろうか)私は彼女らの会話を聞きながらそんなことを考えていた。


 生まれ変わり……普通ならそんな発想はしないと思う。しかし、自分が亡くなる直前、同時に昏睡状態に陥ったさくらの許にやって来たくらいに(信じられないことだが、私はその時彼と顔を合わせている)彼女を想っていた彼なら、そんなこともあるかも知れないと思ってしまう。


 やがて私たちに娘楓かえでが生まれてからは、小学生になっていた純輝は何かと理由を付けてかなりの距離を自転車で走って我が家を訪れ、産休のさくらと話し、娘の面倒を見た。

その頃、大洋・翔真と弟2人がいた純輝は、右足が曲がらないし、杖がなければ満足に歩けない私に『どうだ』とでも言いたげにニヤッと笑うと、さっと泣いている楓を抱きかかえさくらの許に連れて行った。


その様子を見て私は、そうは言っても楓は俺の娘だ。俺がいなきゃ生まれちゃいないんだぞと、30歳も年下の小学生になりたての彼にムキになって闘争心を燃やしていたりした。そんな私たちの様子を横で見ていたさくらは、

「純輝は弟しかいないから、妹が欲しいのよ。それだけだわ」

と言って笑った。


 やがて、久美子に第5子の女の子、華野はなのが生まれた。確かに純輝は『笹本家のアイドルはーちゃん』をかわいがってはいたが、我が家の日参を止めたわけではなかった。むしろ、動けない私ではちょろちょろ動く楓の世話は役不足だと言わんばかりに、産休期間が終わって仕事を再開したさくらのいなくなった我が家に顔を出した。


 おかげですっかり、楓はお兄ちゃん子になっていった。


 華野が生まれてすぐ後、さくらが妊娠していることが分った。

悔しいかな大家族で手慣れた純輝のサポートは、本当にありがたい物ではあったのだ。

「助かるよ」

と口では言いつつ、私は心の中では唇を噛みしめていた。


 やがて二人目の子、治人(はると)が産まれその産休が終わる頃、さくらはある決心を固めて長年勤めた病院を辞めるつもりだと私に告げた。

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