sign 9 (side 裕美)
周ちゃんに書き置きを残して、嘘をついて入院してしまった。
昨日の朝、テーブルの上に置いた書き置きを見て、周ちゃんはどう思っただろう。
いきなりあんな書き置きを残してしまったから、ビックリしたかもしれない。
ちゃんと話さないで出て行ったから、怒ってるかな?
「落ち着いたら連絡を入れる」と書いたから、手術が終わった後に連絡を入れなくちゃ…。
携帯電話は電源を切っていた。
病室内は通話はできないけれどもメールはできるから、本当は切る必要はなかった。
でも今、周ちゃんから連絡がきてしまっても「出張」という嘘をつき通せる自信はなかった…。
「裕美、もうすぐ時間よ。」
病室の天井を見ながらボーっと考え事をしていると、4つ年上のお姉ちゃんが私の顔を覗き込んだ。
「うん。お姉ちゃん、仕事休んでくれてありがとね。」
手術中、もしもの場合に備えて親族の付き添いがいる。
私はお姉ちゃんに付き添いをお願いしていた。
お姉ちゃんは新婚で、私のアパートから電車で2時間くらい離れたところに住んでいる。
今日は仕事を休んで病院に来てくれたのだ。
「いいけど…手術が終わって落ち着いたら、お父さんとお母さんにちゃんと知らせるのよ?」
田舎に住む両親には、手術のことは伝えていなかった。
手術自体が難しいものではないし、自営業をしている両親にわざわざ来てもらうのも悪かったからだ。
「…うん。黙ってたから怒られるかなぁ。その時はお姉ちゃんもフォローしてね?」
「はいはい。」
お姉ちゃんと話していると、看護師さんが病室に入ってきた。
「有澤さん、そろそろ行きますよー。」
いよいよ手術だ。
「はい、よろしくお願いします。」
私は、看護師さんとお姉ちゃんと共に手術室へ向かった。




