sign 4 (side 周一)
今までどんなに俺の帰りが遅くなっても、裕美は寝ずに俺の帰りを待っていてくれた。
だけど最近、先に寝てしまっていることが多くなった。それに朝も早くに出勤している。
仕事が忙しいのだろうか?
最初はそう思っていた。
俺も俺でかなり大きな仕事をまかせてもらえるようになってきて、帰りが遅くなったり、休日出勤をしたりする日々が続いていた。
以前から『俺の帰りが遅い時は、先に寝てていいから』とは言い続けてきた。
裕美だって働いているのに、必ず晩ご飯と朝ご飯を用意してくれる。
しかも朝は必ず俺よりも早く起きているんだ。
俺のために無理はしてほしくないとはずっと思っていたし、俺のせいで裕美が体を壊すようなことになってほしくなかった。
でも裕美は「こうやって周ちゃんと話せる時間が、私の元気の源なんだよ。だから全然無理なんかしてない。」と言って、日付が変わる頃に帰ってきた俺を優しく迎えてくれていた。
しかし最近は『お仕事お疲れ様。ちょっと疲れてるから先に寝るね。』というメモが、ラップをかけた夕飯の隣に置かれているだけ。
夕飯を食べ終わってそっとセミダブルのベッドに潜り込むと、裕美は俺に背中を向けるようにして寝ている。
朝も俺が起きると、もう支度を終えた裕美がいて、
「周ちゃんごめん、今仕事が忙しいんだ。先に出るね。ご飯は用意してあるから食べて。」
と告げてすぐに出勤してしまう。
メールを入れても、電話を掛けても、なんとなく彼女の返信や返事に元気がない。
そんな生活が1週間近く続いた。
さすがに、仕事が忙しいだけにしてはちょっとおかしい…と思い始めた。
俺の仕事が忙しくて、拗ねているんだろうか?
一緒にいたくないと思ってる?
俺のことが好きじゃなくなった?
考えれば考えるほど、思考はマイナスな方向に行く。
彼女が俺に愛想を尽かした、なんてことを考えたくもなかった。
彼女が何と言おうと、俺は彼女と別れる気なんてないんだ。
彼女と結婚するために、今仕事を頑張っているんだから。
彼女が何を思っているのか分からない。
そのためにも時間を見つけて彼女と話をしなきゃならない。
でも彼女の本当の気持ちを聞いて、別れたいと思っていることがわかったら…怖い。
ウジウジと考え、結局彼女と話をするきっかけも作れないまま3日が過ぎた。
すぐに彼女と話し合っていれば…と後悔するのは間もなくのことだった。




