sign 14 (side 周一)
sign完結です!
「なんで、裕美と結婚したら俺は幸せになれないんだ?」
冷静さを保とうとしていた俺の感情線がプツンと切れた。裕美の手を掴んでいた俺の手に、力が籠る。
「確かに言ったさ!『子どもは2人は欲しい』って。あの言葉が今の裕美を傷付けたなら謝る。だけど俺は『子どもが欲しい』から裕美と結婚したいと思ってるわけじゃない!
裕美だから…裕美と結婚して、裕美との子どもができたらいいなって思ったんだ!他の女と結婚して子どもができて、それで幸せを感じられるわけがないだろう!」
俺の瞳からも次から次へと涙が溢れてきた。
裕美の言葉が悔しかった。腹立たしかった。
『子どもが作れないかもしれない』という理由だけで、裕美は俺を捨てようとした。
俺の幸せを願っての思いとはいえ、『他の女と結婚して子どもができて俺が幸せになれる』と考えるなんて…。
それに俺の両親が、裕美を嫁として認めないだって?「子どもができないなら嫁に来るな」と言うような心の狭い両親ではないし、万が一結婚に反対されても裕美がいるなら家を捨てる覚悟はある。
「俺を幸せにできるのは裕美しかいないし、もし親に反対されても裕美と一緒にいられるなら、家を捨てる覚悟だってある!そんな理由で俺を捨てるな!」
「家を捨てるなんて…簡単に口にしていいことじゃないでしょっ」
「そうだ、できればそうしたくない。でも両親と裕美、どちらか1つを取れと言われたら、俺は迷わず裕美を選ぶ!」
「子どもができなくても?それでも私なんかと結婚したいっていうの?」
震える声で裕美が尋ねた。
「「私なんか」って言うんじゃない!俺には裕美じゃなきゃ意味がないんだよ!たとえ子どもができなくても、一生裕美といられるんだったら俺は幸せだって言いきれる!
それに子どもができなくなるって話は「もしも」の場合なんだろ?今から最悪のケースばかり考えたってしょうがないじゃないか!」
俺が掴んでいないほうの手で裕美は顔を覆い、わぁっと泣き出した。
そこで俺の悲しみや怒りが一気に落ち着いた。泣きじゃくる裕美に、そっと話しかける。
「俺の気持ち、わかってくれた?もうどうなったって、裕美と一緒じゃない未来は俺にはないから。」
裕美は手で顔を覆ったまま、コクンとうなずいた。まだ泣きやまない。
「そういえば、今日手術だったんだよな。体は大丈夫か?傷が痛むんじゃないか?」
「ううん…傷はっ…痛くないし…体も…平気」
嗚咽をこらえながら、裕美が言った。
「そうか…。俺、今すぐ裕美を抱きしめたい…起きあがれるか?」
「うん…だいじょ…うぶ」
そう言って裕美が起きあがろうとする。
俺も掴んでいた裕美の手を離し、背中に手を当ててゆっくりと裕美を起こした。
そしてすぐに横から裕美を抱きしめ、彼女のうなじに軽くキスをした。
久しぶりの裕美の感触、匂い。
愛しくて、嬉しくて、裕美を抱く腕に力がこもる。『もう絶対に離さない』という強い決意も込めて。
「これからはお互い、嘘も隠し事も全部ナシだからな。」
「うん」
ハッキリとした声が聞こえた。もう泣きやんだようだ。
「言いたいことはちゃんと相手に伝える。辛いことや不安があったら、一人で抱え込まない。頼りたい時は遠慮せずに頼る。」
「うん」
「…結婚しよう?」
裕美を抱きしめたまま、耳元で俺は囁いた。
少し遅れて、裕美の体がピクッと揺れた。
「え?」
今の流れのまま「うん」って言ってくれればよかったのに…とちょっと残念に思った。
裕美の肩を掴み、まっすぐに裕美の目を見た。
「結婚しよう。結婚式の費用とか貯めるまでは結婚しないって言ったけど、俺がもう待てない。入籍だけでもいいからしたい。
夫婦っていう絆がほしいんだ。裕美が俺から簡単に逃げ出せないように。一人で全部抱え込まないように。…一緒に幸せになろう?」
「…いいの?」
内心、早くうなずいてくれ!と焦りながらも、俺はできるだけ優しく微笑んだ。
「俺は結婚したいって言ってるだろ?あとは裕美の返事だけ。…有澤裕美さん、俺と結婚してくれませんか?」
裕美が目に涙をためながら、ニッコリと笑った。いつも俺を癒してくれてたあの笑顔。
この笑顔を見たのは、本当に久しぶりのような気がした。
「はい。もちろんです。」
俺はまた裕美のことを抱きしめた。幸せをたくさん込めた「幸せにします」という言葉と共に。
――裕美が俺に幸せをくれる。裕美の言葉、しぐさ、表情…なにもかもが、俺を強くしてくれる。そんなsignを俺はもう絶対に離したりはしない。
これから先、ずっと一緒に、笑って暮らしていこう。
お気づきの方がいたら嬉しいですが、signはミスチルの「sign」から取りました。あの曲が大好きなので。最後の最後で、歌詞に近い言葉を出してみました。
『それまでは「sign」ってなんのこと??』なんて思った方がいらっしゃったかもしれません。
この話は私にとって処女作です。私にとって記念すべき小説を読んでいただきありがとうございました。
拙い文章力、表現力、構成力の小説だったとは思いますが、大目に見てもらえたらいいな…と思っています。
本当にありがとうございました!




