sign 12 (side 周一)
柴原から裕美の入院先を聞いて、すぐにタクシーに乗って病院へやって来た。
俺がよほど切羽詰まったように見えたのだろう。柴原は「今の状態のあんた1人で病院に行かせられない」とか言ってついて来ようとしていたが、「大丈夫だ」と言って断った。
いつまでも情けない姿ばかり晒すわけにはいかない。
柴原に対しても、そして、裕美に対しても。
ナースステーションで裕美の病室を聞き、個室のドアの前まで来た。
どんな顔をして会えばいいかなんてわからない。
でも俺がしっかりしなきゃ、何も進まないんだ。
グッと左手の拳を握りしめ、右手でゆっくりとノックした。
しかし返事はない。
意を決して、「失礼します」と言いながらドアを開け、部屋の奥へ足を進めた。
――裕美…!!
ベッドに裕美が眠っていた。
俺が見慣れていた裕美よりも少し痩せている。
裕美は昨日、書き置きを残して出て行った。
裕美が出て行く前からお互いに忙しくなってあまり顔を合わせていなかったが、実際に離れていたのは2日くらいのはずだ。
忙しい仕事と、手術への不安や辛さを抱えて、ここのところは精神的に余裕がなかったんだろう。
裕美の仕事が忙しくなってから、俺たちは朝食も夕食も一緒に摂らなくなっていた。
それでもきちんと俺の分を用意してくれていたのだが、裕美は食欲がなくて食べていなかったのかもしれない。
やっぱり俺は、裕美のことをちゃんと考えてやれなかった。
「仕事が忙しい」ってことを言い訳にし、裕美から別れを告げられたら…という心配をして、結局何も行動できなかったのだから。
ベッドの近くのパイプイスに腰かけ、片手でそっと裕美の頬を包むように触れた。
愛しさが溢れだす。
――こんな俺だけど、裕美の傍にまだいてもいいのだろうか
――目覚めた途端に「別れる」とか言いだしたりたら…
――これからはもっとちゃんと裕美と向き合うから、どうか俺を許してほしい。
――今まで抱えた不安も辛さも、悲しみも怒りも、全部俺にぶつけていいから
――俺には裕美しかいないんだ、裕美とじゃなきゃ幸せになれないんだから…
気づくと、俺の頬につっと涙が伝っていた。
だめだ、しっかりしろ。こんなところで情けなく泣いているような場合じゃないんだから。
「ん…」
裕美がゆっくりと目を開けた。
裕美の頬に触れる手をそっと離し、
「裕美…」
と声を掛ける。
裕美がこちらを向き、目を見開いた。




