第1章:美貌の騎士と黒髪の薬屋の出会い
初投稿です。
朝の森はまだ薄い霧を抱き、
木々の隙間から差し込む光がきらきらと舞っていた。
鳥の囀りと川のせせらぎが静かに混ざり合い、
どこか神聖ささえ感じる朝の気配をつくり出している。
黒髪の青年・アレンは、小さな籠を片手に薬草を探しながら慎重に森を歩いていた。
普段から森で薬草を採取するため、
薬屋とは思えないほど体つきは引き締まり、軽やかな足取りにも迷いがない。
「この辺りなら昨日より育ってるはず……」
前髪が揺れるたびにそっと耳にかける。
深いワインレッドの瞳――それは魔力とは関係ない、生まれつきの色だが、光を受けると宝石のようにきらりと輝き、どこか儚い印象を与える。
その時だった。
「わぁっ!」
川沿いから上がった悲鳴に、アレンの体は反射で動いた。
籠を投げ出し、湿った土を踏みしめながら駆け出す。
視界に飛び込んできたのは、小さな子供が足を滑らせ、
川に落ちかけている光景だった。
かろうじて枝に掴まっているが、力がもたないのは明らかだ。
「大丈夫、すぐ助けるから!」
アレンは手を伸ばし、瞬時に魔力を集中させる。
掌から透明な光膜がふわりと広がり、子供の身体を優しく包み込む。
結界にすくい上げられた子供はふわりと浮かび、アレンの腕の中に収まった。
「怪我してない? 痛いところは?」
震える子供は、それでも小さく笑って言った。
「……おにいちゃん、ありがとう」
「よかった」
アレンは安堵の息をつき、そっと子供の頭を撫でる。
そして落とした籠を拾おうと振り返った――その瞬間。
「……なるほど。やはり君か」
低く落ち着いた声が背後からした。
振り向いたアレンの視界に、朝の光を受けて輝く銀髪が流れ込んだ。
長身で端正な顔立ち。
冷ややかでありながら整った美貌。
佇むだけで森の空気が変わるような威圧感と気品。
息を呑むほど美しい騎士がそこにいた。
「き、騎士様……?」
アレンは思わず頭を下げた。
どこかで見たことがある気がした。
その存在感と美貌は、平民でも知っている“名”を思い出させる。
銀髪の男は、アレンの赤い瞳を一目見ると、わずかに視線を止めた。
驚きではなく、興味を含んだ観察の目だ。
「平民にしては、魔力が高いな。……いや、それだけではないか」
アレンは一瞬、胸がどきりと揺れる。
(気づかれた……?)
魔力を隠すように、と両親から言われて育った。
だから普段は目立たぬ程度に抑えているつもりだった。
「い、いえ……少ししかありません」
ぎこちなく答えると、銀髪の男は淡々とした声で名乗った。
「レオン・ローゼリア。魔法騎士団団長だ。怪しい者ではない」
――魔法騎士団長。侯爵家当主。
なぜ今まで気づかなかったのか。
アレンは自分に驚きながら深く頭を下げた。
「アレンと申します。先ほどは失礼を……」
レオンは短く「気にするな」と返し、転びかけた子供を軽々と抱き上げる。
その動きに無駄がなく、鍛え上げられた騎士であることがよくわかる。
ふたりは森を抜け、街道へ向かって歩き始めた。
木漏れ日が揺れ、アレンの黒髪とワインレッドの瞳を照らす。
レオンは横目でアレンを観察していた。
赤い瞳に宿る穏やかさ。
控えめな魔力。
無意識に魔法を扱える器用さ。
(……ただの平民ではないが、害意は感じない)
興味と警戒が入り混じった視線が向けられ続ける。
アレンは気付かないふりをしたが、頬が少しだけ熱くなる。
「薬草の籠、重くないか」
「大丈夫です。いつもこのくらいで」
「無理をするな」
レオンの声には、ほんの僅かに優しさが混じっていた。
冷たく見える外見とは裏腹に、不器用な温かさが隠れているのがわかる。
街道に出る頃には子供も落ち着き、レオンに礼を言って走って帰っていった。
王都北区。
薬屋兼住居の前に到着すると、店先の黒猫がゆっくり伸びをして出迎えた。
背中に白い月の模様を持つその猫を撫でながら、アレンは笑う。
「ここが僕の家で、下が店なんです」
「そうか」
レオンは静かに周囲を見渡す。
小さな薬屋。
質素で温かい生活の匂い。
森の中にいた青年の穏やかさと同じ空気をまとっている場所。
「では、子供のことは任せる」
「はい、本当にありがとうございました」
レオンは朝の光を受けながら静かに背を向けた。
その背中を見送りながら、アレンの胸に小さな高鳴りが生まれる。
――この出会いが、いつもの日常を変えていくことをまだ知らないまま。
アレンは、レオンの噂は知ってましたが顔は知らなかったんですね。焦ってます。




